- 河野 英仁
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対象:特許・商標・著作権
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中国職務発明報酬の算定
~定年後の職務発明報酬額の決定~
中国特許判例紹介(39)(第2回)
2015年2月6日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野 英仁
上海昂豊鉱機科技有限公司
上訴人(一審被告)
v.
銭鳴
被上訴人(一審原告)
4.高級人民法院の判断
争点1:特許使用協議中の特許使用費は実質上専利法に規定する職務発明報酬である。
原告は、被告は《特許使用協議》の契約に基づき、原告に職務発明報酬を支払うべきであると主張した。これに対し、被告は、双方が締結した《特許使用協議》中契約したのは“特許使用費”であり,必ずしも職務発明報酬ではなく、原告に報酬を支払う必要は無いと反論した。
専利法第16条及び実施細則第76条の規定に基づけば,発明創造特許を実施した後,特許権を付与された单位は発明者、設計者と、支付う報酬の方式及び額を契約することができる。本案において,原告と被告が締結した《特許使用協議》は双方の真実意思を表示するものであり,法に基づき成立し、かつ、効力を生じている。
《特許使用協議》で使用しているのは“特許使用費”という表現であるが,契約の内容から見れば,《特許使用協議》で契約している“特許使用費”は実質上《専利法》に規定する職務発明報酬である。
以上のことから、人民法院は、原告が《特許使用協議》の契約に基づき原告に職務発明報酬を支払うよう要求していることは,必ずしも不当ではないと判断した。
争点2:一時的に勤務する機関も所属機関に含まれる
被告は、被告と原告とは必ずしも労働契約関係になく,原告の被告の従業員ではないと主張した。
実施細則第12条は以下のとおり規定している。
実施細則第12条
専利法第6 条にいう所属機関又は組織には、一時的に勤務する機関又は組織も含まれる。
実施細則第12条の規定に基づけば、専利法にいう所属機関(工作单位)は一時的に勤務する機関も含まれ、本案において原告は定年後、被告の求めに応じて技術開発業務に従事し、原告が対象特許技術を開発したとき,資金、事務所及び助手等は共に被告により提供された。
双方の間には必ずしも労働契約関係がないが,事実上の労働関係は存在しており、被告は原告の一時的に勤務する所属機関に該当する。以上の理由により、人民法院は、原告は職務発明報酬を獲得する権利を有すると判断した。
争点3:被告は特許申請日から付加価値税を含む製品販売価格を基準として報酬を支払うべきである
原告は、《特許使用協議》の契約に基づき,特許1,6,8及び10について、被告は特許申請日から,17%付加価値税を含む製品販売価格を基準として原告に報酬を支払うべきであると主張した。
(i)支払いの起算日
専利法第42条は以下のとおり,発明特許権の有効期限は申請日から計算する旨規定している。
専利法第42条
発明特許権の存続期間は20年、実用新型特許権及び外観設計特許権の存続期間は10年とし、いずれも出願日から起算する。
《特許使用協議》第六条の契約に基づけば,協議は特許有効期間内有効であり、被告が対象特許申請日後に対象特許の使用を開始しているのであれば,申請日から原告に対し、相応の職務発明報酬を支払うべきであると、人民法院は判断した。
(ii)付加価値税
また付加価値税については、被告は対象製品を販売するときの販売価格に17%の付加価値税を含んでいることから、人民法院は、原告に報酬を支払う際、17%付加価値税を含んだ製品販売価格を支付基準とすべきと認定した。
(iii)報酬額の算定
《特許使用協議》第四条は、原告は在職期間,または原告が離職しているが单独で特許を使用していない場合,被告は原告に製品(セット部品、特許部分の付属品を含む)販売価格の1%を特許使用費として、毎年一月に前一年度の特許使用費を決算し支払いを行うが、各特許の使用費は毎年最低一万元とし、最高三万元とする旨規定している。
人民法院は当該規定に基づき、各年度の報酬額を以下のとおり認定した。
本案において2010年,被告が生産する特許1、特許6、特許10を使用するAMG型、AMGD型、AMG-F型製品の、17%付加価値税を含んだ販売金額は、それぞれ5,648,000元、1,640,800元、1,242,500元(2010年4月13日以降)であり,被告はそれぞれに支付職務発明報酬30,000元、16,408元、12,425元を支払うべきである。その他,被告が2010年4月に東莞中科公司のグラブバケットに対して改造を行い使用した特許8に基づき,被告は原告に職務発明報酬10,000元を支払うべきである。被告が原告に支払う2010年の職務発明報酬は合計68,833元(約117万円)であり,かつ当該報酬は、2011年2月1日前に原告に支払うべきである;
2011年,被告が生産した特許1、特許6、特許10を使用するAMG型、AMGD型、AMG-F型製品の17%付加価値税を含めた販売金額はそれぞれ8,781,130元、1,549,800元、4,132,039元であり,被告はそれぞれ、原告に職務発明報酬30,000元、15,498元、30,000元を支払うべきである。被告が原告に支払う2011年の職務発明報酬合計は75,498元(約128万円)であり,かつ当該報酬について被告は2012年2月1日前に原告に支払うべきである。
2012年8月31日前に,被告が生産した特許1、特許6、特許10を使用するAMG型、AMGD型、AMG-F型製品は17%付加価値税を含んだ販売金額はそれぞれ7,126,000元、280,000元、2,812,000元,被告はそれぞれ原告に支付職務発明報酬30,000元、10,000元、28,120元を支払うべきである。被告が原告に支払うべき2012年8月31日前の職務発明報酬は合計68,120元(約115万円),かつ当該報酬は、被告は2013年2月1日前に原告に支払わなければならない。
まとめると,2010年1月1日至2012年8月31日までに,被告が原告に支払うべき職務発明報酬は212,451元(約361万円)及び支払い延期に基づく利息損失である。
5.結論
人民法院は、原告の訴えを認め、被告に職務発明報酬の支払いを命じる判決をなした。
6.コメント
本事件において原告発明者は定年後技術顧問として多くの有力特許を取得しており、また被告会社側と特許使用費に関する契約を結んでいた。正規従業員でない一時的な契約社員であっても会社内の職務に応じてなした発明は職務発明に該当し、専利法第16条の規定が適用される。
本事件では職務発明に関する契約自体は存在しなかったが、同様の特許使用費に関する契約が存在したため、当該契約に基づき職務発明の報酬額が認定された。契約では売り上げの1%とし、さらに上限は3万元としている。売り上げまたは利益に基づき、職務発明報酬額を算定することとすれば、金額が大きくなりすぎることがあることから、本契約のように上限を設定しておくのも一つの手である。ただし、不当に上限額が低い場合、専利法第16条の「経済的利益に基づき、・・・合理的な報酬を与えなければならない」とする規定に反するため、適切な上限額を設定すると共に、業績に大きな貢献があった従業員には状況に応じて合理的な報酬額を随時支払う必要がある。
現在職務発明条例の制定が行われており、まもなく正式に公布される見込みである。
以上
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