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河野 英仁
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中国商標判例紹介(7)中国商標登録における同意書の活用

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中国商標登録における同意書の活用

~同意書の提出が認められる条件~

中国商標判例紹介(7)

2014年10月17日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野 英仁


 

Deckers Outdoor Corporation

                           原告(一審原告)

v.

国家工商行政管理総局商標評審委員

                           被告(一審被告)

 

1.概要

 中国商標法第30条は、出願に係る商標と、他人の登録商標とが同一または類似の場合、出願に係る商標の登録を拒絶する旨規定している。

 

 中国商標法第30条

 登録出願にかかる商標が、この法律の関係規定を満たさない、又は他人の同一又は類似の商品について既に登録され又は予備的査定を受けた商標と同一又は類似するときは、商標局は出願を拒絶し、公告しない。

 

 引証商標と出願商標とが類似する場合、類似しない旨の反論を試みるが、両者の類似度が高く反論が困難な場合もある。このような場合、引証商標の所有者から同意書を取得し、権利取得を試みることが実務上行われている。

 

 本事件において原告は、引証商標と一文字違いの商標について、同意書を取得し出願商標の登録を試みた。評審委員会及び北京市第一中級人民法院は、出所の混同の恐れがあるとして登録を認めなかった。これに対し、北京市高級人民法院は出願商標が比較的有名であり、出所混同を生じる恐れが低く、また同意書が存在することから、登録を認める判決をなした。

 

 

2.背景

(1)出願商標の内容

 Deckers Outdoor Corporation(原告)は、2007年11月国家工商行政管理総局商標局(商標局)に下記図に示す「UGG」について商標登録出願を行った。指定役務は第35類の輸出入代理、商業情報等のサービスであり、申請番号は第6379162号である。UGGブランドはブーツの商標として広く知られている。

 

 

 

(2)引証商標

 下記図に示す国際登録番号G951748“UCG”商標(以下、引証商標という)の権利者はUNICREDIT S.P.A.であり、優先権日は2007年9月、基礎登録国はイタリアである。独占期間は2007年11月19日から2017年11月19日、指定役務は第35類輸出入代理、商業組織及び管理コンサルティング等のサービスである。

 

 

(3)審査、復審及び第1審判決の経緯

 2010年1月、商標局は出願商標と引証商標とは、指定役務が類似し、また、アルファベット一文字しか相違しないため、出願商標を拒絶した。原告はこれを不服として評審委員会に復審請求を行った。

 

 この際、原告は、引証商標所有者の同意書を提出した。同意書には以下の記載がなされていた。なお、当該同意書は、イタリアミラノで公証及び認証手続きがなされていた。

 

UNICREDIT S.P.A.は引証商標の所有者であり、申請商標が中国で登録及び使用されることに同意する。関連サービスは、靴、衣服等のスポーツ用品、運動部品、体育器材に関する商業情報等の、輸出代理、流通及び提供を含む。

 

 同意書は提出されたものの、評審委員会は拒絶を維持する審決[1]をなした。評審委員会は、出願に係る商標と引証商標は共に通常のアルファベットを3つ組み合わせた商標であり、中央の一文字だけの相違にすぎず、その上、アルファベット“C”と“G”の外観は近似していると判断した。

 

 また、出願商標の指定商品は輸出代理、商業情報等のサービスであり、引証商標の指定商品は輸出入代理、商業組織及び管理コンサルティング等のサービスであり、指定役務も類似関係にある。そのため、2つの商標を同時に上述のサービス上に使用するとすれば、消費者は容易にサービス提供者を混同することとなる。以上の理由から、評審委員会は商標法第30条の規定に基づき、出願商標の拒絶を維持する審決をなした。

 

 原告はこれを不服として、北京市第一中級人民法院へ行政訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院は、同意書の存在を認めつつも、出所の混同が生じるとして評審委員会の判断を維持する判決をなした。原告は第1審判決を不服として北京市高級人民法院へ上訴した。

 

 

3.高級人民法院での争点

争点 同意書の提出により登録が認められる条件とは

 類似関係にある商標の場合、出所の混同が生じる恐れが高く、同意書があったとしても登録が認められないことが多い。どのような条件の場合、同意書の提出により、類似関係にある商標の登録が認められるかが争点となった。

 

 

4.高級人民法院法院の判断

結論:商標・指定役務の関係、他の区分での著名度等を考慮して判断する

 高級人民法院は、中国商標法第30条の規定に基づき、2つの商標が同一商品上の近似商標を構成するか否か、類似商品上の同一商標及び類似商品上の近似商標を構成するか否かの判断に当たっては、容易に関連公衆の混同を招くか否かが要件になっていると述べた上で、申請商標の標章と引証商標の標章との近似程度が比較的高くても、引証商標の所有者が《同意書》を提出し、登録に同意した状況下では、当該《同意書》をも商標法第30条の適用に当たり、考慮すべき要素としなければならないと述べた。

 

 申請商標“UGG”及び引証商標“UCG”は共に3つの英文字アルファベットからなる文字商標であり、特別な意味を有さず、字形、発音及び全体的な外観から見れば,両商標の近似度は比較的高い。このように、申請商標及び引証商標は比較的近似しているものの、間の一文字の差異は全体的に消費者にとって区別することができるものである。また、申請商標の指定役務は、輸出代理を除き、その他の指定役務において、引証商標の指定役務の類似程度はそれほど高くない。

 

 その他、高級人民法院は、原告が第25類指定商品靴について別途所有する“UGG”商標知名度が比較的高いという要素を考慮した。

 

 さらに、高級人民法院は、引証商標所有者UNICREDIT S.P.A.が、同意書により、原告が中国で当該商標を使用及び登録することについて同意しているということは、引証商標所有者UNICREDIT S.P.A.自身も、混同を引き起こす可能性は比較的低いということを認識していると述べた。また、出願商標の登録により、消費者の利益に対し、損害をももたらすという証拠が存在しないという状況下では、当該同意書を尊重すべきであると述べた。

 

 高級人民法院は、以上の要素を総合的に考慮すれば,申請商標と引証商標は同一または類似役務上で共存でき、簡単には公衆の出所混同を引き起こさず、商標法第30条に規定する近似商標を構成しないから、申請商標は登録すべきものであると判断した。

 

 

5.結論

 北京市高級人民法院は、復審委員会の拒絶審決及び北京市第一中級人民法院の判決を取り消した。

 

 

6.コメント

 商標法第30条の拒絶を回避するために同意書を提出することができる。しかしながら、単に同意書が存在すれば良いというものではなく、両商標の類似の程度、指定商品・役務の類似の程度、出願商標・引証商標の周知度等を総合的に考慮し、出所混同が生じる恐れがあるか否かが判断される。

 

 同意書を提出する場合、復審請求の日から3月以内に提出しなければならない(実施条例第59条)。拒絶査定を受けた場合、15日以内に復審請求が必要であり(中国商標法第34条)、当該期間内に同意書を準備することは困難であろう。復審請求後、引証商標所有者に同意書の取得を求める交渉を行う。引証商標所有者が外国企業である場合、同意書の公証及び認証手続きが必要となるため、早急に準備する必要がある。

 

 引証商標所有者に合意書を求めたとしても、簡単には合意を得ることができない場合も多い。また合意書の取得に失敗した後に、類似関係にある出願に係る商標を使用した場合、引証商標所有者から商標権侵害を問われるリスクも増加する。交渉に当たっては合意が得られる可能性、金銭的条件等を総合的に判断した上で望むことが必要である。

 

以上

 

 


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[1]評審委員会 第13172号決定

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