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対象:特許・商標・著作権
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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第6回)
均等侵害の第1要件により均等侵害ではないと判断された判例~
平成23年(ワ)第29178号
株式会社コナミデジタルエンタテイメント vs 株式会社gloops
2014年10月21日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 田中 伸次
1.概要
本件は、発明の名称を「ネットワークゲーム用サーバ装置、ネットワークゲーム進行制御方法及びネットワークゲーム進行制御プログラム」とする発明に係る特許権(登録第3454357号)を有する原告が、被告の提供・配信するゲームのアプリケーションがインストールされたサーバ装置が、当該特許権侵害にあたるとして、損害賠償を求めた事件である。
2.背景
1) 特許の内容
本件特許出願(以下「本願」と記す)に係る発明(以下「本願発明」と記す)は、ユーザに対価データの獲得を容易に行わせることができるとともに、ユーザに継続的にゲームを行わせることができるネットワークゲーム用サーバ装置、ネットワークゲーム進行制御方法及びネットワークゲーム進行制御プログラムを提供することを目的
としている。そして、本願の請求項1に係る発明は、以下のとおりである(下線は筆者、以下同様)。
A ネットワークを介してユーザが使用する端末装置との間でデータの送受信を行い所定の価値を有する対価データをユーザに獲得させるゲームを進行させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,
B 複数のゲームの中から1つのゲームをユーザに実行させるためのゲーム実行手段と,
C-1 前記ゲーム実行手段によってユーザが行ったゲームの結果に応じて当該ユーザに所定のポイントを付与するポイント付与手段と,
D-1 前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じて所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手段と,
E 前記端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが獲得したポイント及び対価データを管理するユーザ情報管理手段と,
F 前記端末装置から対価データの付与を要求する対価データ付与要求を受信する対価データ付与要求受信手段と,
G 前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価データと当該対価データに対応して定められたポイントとの交換を要求するポイント交換要求を前記端末装置から受信するポイント交換要求受信手段とを備え,
D-2 前記対価データ付与手段は,前記ユーザ情報管理手段によって管理されているポイントが所定条件を満たす場合に,前記対価データ付与要求に応じて前記対価データをユーザに付与するとともに,付与された対価データに対応して定められたポイントを減少させ,
C-2 前記ポイント付与手段は,ポイント交換要求に応じて前記ユーザ情報管理手段によって管理されている対価データを消去するとともに,当該対価データに相当するポイントをユーザに付与することを特徴とするネットワークゲーム用サーバ装置。
本願発明は、ユーザが複数のゲーム(メインゲームとミニゲーム)の中から1つのゲームを行うと、ゲーム結果に応じてポイントが付与され、付与されたポイントに応じて対価データ(野球選手カード)を得られる点が特徴である(図1)。メインゲームの例としては、プロ野球の試合結果を予想するゲーム、ミニゲームの例としてはカードめくりゲーム(図2)が示されている。
図1:特許公報の図10
図2:特許公報の図16
2) 審査経過
本願の審査経過は、以下のとおりである。
平成13年 7月 5日 出願(特願2001-205226)
平成13年 7月 5日 審査請求
平成14年12月 3日 拒絶理由通知書発送
平成15年 1月28日 意見書、手続補正書提出
平成15年 6月17日 登録査定書発送
平成15年 7月25日 設定登録
3.訴訟での争点
1) 被告の実施態様
被告サーバ装置の構成のうち、本件発明に関連する部分の構成は、次のとおり。
a ネットワークを介してユーザが使用する携帯電話との間でデータの送受信を行い,「強化された選手カード」をユーザに獲得させるゲームを進行させるネットワークゲーム用サーバ装置であって,
b 「リーグ」,「ミッション」を含む複数の遊びの要素を含む手段の中から一つの遊びの要素を含む手段をユーザに実行させるための「ゲーム実行部」と,
c-1 前記「ゲーム実行部」によってユーザが行ったゲームの結果に応じて当該ユーザに「強化ポイント」を付与する「ポイント付与処理部」と,
d-1 前記「ポイント付与処理部」によって当該ユーザに付与された「強化ポイント」から,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選手カード」の強化に必要とされる「必要強化ポイント」を減少させることにより,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選手カード」に,当該「ベースカード」の所持カードIDと関連付けられて記憶されているカード経験値を,当該ユーザによって選択された「アシストカード」による強化によって上昇するカード経験値の分だけ増加させ,強化後のベースカードのカード経験値がレベルアップに必要な閾値に達したときは,当該ベースカードのカードレベルを上昇させ,当該ベースカードのカードレベルが上昇したときは,当該ベースカードのユーザ所持カードテーブルの現在打力,現在走力,現在守備,現在球威,現在制球及び現在投力などの能力値を上昇させることによって「強化された選手カード」を生成し,当該「強化された選手カード」を当該ユーザに付与する「強化処理部」と,
e 前記端末装置を使用するユーザに関連付けて当該ユーザが獲得した「強化ポイント」及び「強化された選手カード」を管理する「ユーザ情報管理部」と,
f 前記端末装置から「選手カードの強化」の実行指示を受信する「通信部」と,
g 前記「ユーザ情報管理部」によって管理されている「強化された選手カード」と当該「強化された選手カード」の固定選手カード情報テーブルに固定カードIDと関連付けられて記憶されている売却価格に対応して定められている「売却強化ポイント」との交換を要求する「カード売却」の実行指示を前記端末装置から受信する「通信部」とを備え,
d-2 前記「強化処理部」は,前記「ユーザ情報管理部」によって管理されている「強化ポイント」が,「消費強化ポイント」以上である場合に,前記「選手カードの強化」の実行指示に応じて前記「強化された選手カード」をユーザに付与するとともに,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選手カード」の強化に必要とされる「必要強化ポイント」を減少させ,
c-2 前記「ポイント付与処理部」は,「カード売却」の実行指示に応じて前記「ユーザ情報管理部」によって管理されている「強化された選手カード」を消去するとともに,当該「強化された選手カード」の固定選手カード情報テーブルに固定カードIDと関連付けられて記憶されている売却価格に相当する「売却強化ポイント」をユーザに付与することを特徴とするネットワークゲーム用サーバ装置。
ターゲットとなったのは、被告の提供ゲーム「大熱狂プロ野球カード」http://gloops.com/game/bb_card/ を提供しているサーバ装置と思われる(裁判所HPより入手できる判決文では、物件構成説明書は省略されている)。
2) 争点
争点は以下のとおり。
a)被告サーバ装置が本件発明の技術的範囲に属するか(文言侵害、均等侵害)。
b)本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか。
c)本件訂正による対抗主張の成否。
d)損害発生の有無及びその額。
3) 「対価データ」について
本稿では、文言侵害及び均等侵害において取り上げられた「対価データ」について、述べる。
本件発明では、
D-1 前記ポイント付与手段によってユーザに付与されたポイントに応じて所定の価値を有する対価データを当該ユーザに付与する対価データ付与手段
を備えている。
一方、被告サーバ装置では,
d-1 前記「ポイント付与処理部」によって当該ユーザに付与された「強化ポイント」から,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選手カード」の強化に必要とされる「必要強化ポイント」を減少させることにより,当該ユーザによって「ベースカード」に設定された「選手カード」に,当該「ベースカード」の所持カードIDと関連付けられて記憶されているカード経験値を,当該ユーザによって選択された「アシストカード」による強化によって上昇するカード経験値の分だけ増加させ,…(中略)…当該「強化された選手カード」を当該ユーザに付与する「強化処理部」
を備えており、「強化された選手カード」が、本件発明の「対価データ」に相当するかが、争点となった。
4.裁判所の判断
(1)文言侵害について
裁判所は、本件発明の「対価データ」について、以下のように認定した。
「本件発明の「対価データ」とは,実施例に開示された選手の写真画像を例とした写真画像に加え,予め定められた選手の属性に関する情報,及び対価データの獲得困難度の表示ないし獲得困難度の情報それ自体をいうものと解される。」
一方、被告サーバ装置の構成については、以下のように認定した。
「「強化」とは,ユーザが所持する選手カードを強化するための手段で
あり,ユーザが所持する「強化ポイント」と引き換えに行うものである。」
「本件ゲームでは,選手カードの画像は固定カードIDと関連付けられており,固定カードIDは,コスト,レア度,ポジション等が同一であるもの(「固定選手カード」)ごとに付与され,これらコスト,レア度,ポジションといったパラメータはいずれも固定値であり,「強化」の前後で変化することがなく,また,本件ゲームでは,「強化」によって被告サーバ装置が「強化された選手カード」について新たな所持カードIDのレコードを追加することはなく,「ベースカード」について枚数フィールドの値が変動することもない。
このように,本件ゲームは,「強化」により「強化ポイント」を使用するが,そのことによっても,「対価データ」と対比すべき画像部分においては「強化」の前後を通じて変動がなく同一であり,また,サーバにおいても,新規のレコードを作成又は既存のレコードの「枚数」を管理するフィールドが変更されるといった処理が行われない構成を採用するものであるということができる。」
「本件ゲームにおける「強化された選手カード」は,強化ポイントを消費して「強化」を行ってユーザが所持するものではあるが,「強化」により新たに獲得されるものではない。
また,本件ゲームにおいて,ほかに「強化ポイント」を消費して獲得する「選手カード」はない。したがって,本件ゲームには本件発明の「対価データ」に該当するものは存在しないと認定するのが相当である。」
として、被告サーバ装置は、本件発明の構成要件を充足しないと判示した。
(2)均等侵害について
均等侵害の判断においては、「強化された選手カード画像」は本件発明の「対価データ」と均等なものであるかが、問題となった。
それについて、裁判所は、
「ユーザに「対価データ」の獲得を容易に行わせるとともに,ユーザに継続的にゲームを行わせるために,ユーザに対してゲームを行うことで直接に「対価データ」を付与するのではなく,「対価データ」を獲得するために必要な「ポイント」を付与するものとし,「対価データ」はその「ポイント」の対価としてユーザが獲得するものとした構成が採用されたのであり,これが本件発明の課題解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分であるというべきである。そうすると,本件発明と被告サーバ装置との間において構成の異なる部分のうち,構成要件A,D-1,E,F,G,D-2,C-2における「対価データ」を備える構成は,本件発明の本質的部分であるというべきである。」
とした上で、
「本件ゲームにおいては,「対価データ」に相当するものはなく,原告が主張する「強化された選手カード画像」は,強化ポイントによって新たにユーザに付与されるものではないから,本件発明の「対価データ」と本件ゲームの「強化された選手カード画像」の相違点は発明の非本質的部分と認めることはできない。」
と判示した。
5.結論
裁判所は、被告サーバ装置は、本件発明の構成要件D-1を充足しないとした。また、均等侵害については、第1要件(非本質部分)を満たさないとした。
6.考察
本件発明も、被告サーバ装置においても、ユーザがゲームを行い、そのゲームの結果により、ポイントを得る点、ポイントを使用することにより、何らかの対価が得られる点においては、共通していた。しかし、ポイントにより得られる対価の性質に相違点があったため、侵害が認められなかった。
ポイントシステムのように広く普及しているシステムについては、多くの特許出願がされていると考えられる。そのため、登録査定を得たとしても、進歩性が認められたポイントは、とても小さな点である可能性もある。侵害訴訟を提起する場合には、審査において、進歩性が認められた点を十分に検証した上で、他者が文言侵害をしているかについて、十分に検討すべきである。
以上
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