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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
2014年8月12日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 2014年8月号掲載)
第39回 司法鑑定
1.概要
司法鑑定とは、訴訟審理において事実を調べて明らかにする必要性のある専門性問題について鑑定人により行われる鑑定をいう(中国民事訴訟法第76条)。
特許訴訟においては技術的範囲の確定、イ号製品の特定、及び技術的効果等、技術的・法律的に詳細な分析が必要となる場合がある。
しかしながら、技術的背景を有する裁判官の数は少なく、適切な審理を行うことが困難となる。
そこで、中国民事訴訟法では訴訟審理中に事実を調べて明らかにする必要性のある専門性問題について鑑定人に鑑定させる司法鑑定制度を設け、鑑定人による鑑定意見を民事訴訟法における証拠の一つとして規定することとした(中国民事訴訟法第63条(7))。
2.司法鑑定についての改正
司法鑑定は、専門的知識を要する特許訴訟実務において頻繁に利用されている。改正前から司法鑑定は認められていたが、人民法院が必要と認める場合に限りという条件がなされていた。2012年の中国民事訴訟法改正では、当該条件が撤廃され、当事者の申請により鑑定が行われることとなった(中国民事訴訟法第76条)。
3.司法鑑定請求の手続
(1)鑑定人の指定
司法鑑定は原則としていずれかの訴訟当事者により行う。当事者が鑑定を申請した場合,双方当事者の協議により資格を有する鑑定人が確定される。この段階では職権で人民法院が鑑定人を指定することはない。
ここで、協議が成立しない場合,人民法院が鑑定人を指定する。実務上は当事者間で鑑定人の是非を巡り協議が成立せず、人民法院が鑑定人を指定する場合が多い。この場合、公平性を担保すべく特定地域の高級人民法院ではくじ形式により鑑定人を指定する。
当事者が鑑定を申請していない場合,人民法院は専門性の問題について鑑定が必要と判断した場合,資格を有する鑑定人に鑑定を行う。また、鑑定を委託する対象は鑑定人であり、鑑定機構ではない。
4.司法鑑定請求の期限
司法鑑定の請求は、証拠提出期間内(挙証期限内)[1]に申請し、かつ人民法院から指定された期間内に鑑定用の資料を提出し、鑑定費用を支払わなければならない。
5.鑑定人による鑑定意見
鑑定人とは、司法鑑定人職業資格証書及び業務証書を取得した者をいい、司法鑑定機構にて業務を行い、専門知識及び技能を用いて訴訟、仲裁等の活動中関連する専門性技術問題について、科学鑑定及び判断を行う技術者をいう。
鑑定人は所定期間内に鑑定業務を完了して、鑑定意見を提出する必要があり、また当事者と特定の関係がある場合には、自ら忌避しなければならない。
鑑定人は、鑑定に必要な事件の資料を調査する権利を有し、必要な場合には、当事者及び証人を尋問することができる(改正中国民事訴訟法第77条)。
6.司法鑑定の効果
司法鑑定がなされた場合、原則として20営業日内に鑑定意見がなされる。鑑定意見は、民事訴訟における証拠の一つとして人民法院に採用される(中国民事訴訟法第63条(七))。
鑑定人がなした鑑定意見について異議がある場合、鑑定人を出廷させ証言させることができる(中国民事訴訟法第78条)。鑑定意見をより公平なものとするためである。ここで、人民法院の通知を経て,鑑定人が出庭して証言することを拒否した場合,鑑定意見は事実の根拠と認定してはならない。なお、鑑定人が出廷しない場合、鑑定費用を支払った当事者は鑑定費用の返還を要求することができる。
7.司法鑑定と、一般の鑑定との相違
司法鑑定は上述の通り、人民法院における訴訟手続の過程において、当事者の一方から請求されることによって行われるものである。訴訟を提起する前に司法鑑定センターまたは律師に鑑定を依頼することもあるが、当該鑑定は司法手続の過程で行われたものではないため、民事訴訟における証拠として採用されない点に注意すべきである。もちろん裁判官の心証形成には影響を与える可能性もあるため訴訟段階で人民法院に提出しても良いが、正式な証拠として受け入れられることはない。
8.専門知識補助者の出廷
新たに中国民事訴訟法第79条が新設され、当事者は人民法院が専門知識補助者(中国語では専家補助人という)に出廷するよう通知し、鑑定人がなした鑑定意見または専門問題に意見を提出するよう申請する事ができる。
専門知識補助者とは、科学技術及びその他専門知識方面において、特殊専門知識または経験を有する者をいう。当事者の専門性についての問題を的確に判断し、また裁判官が鑑定意見について適切な判断を行うことができるよう、当事者の申請により専門知識補助者を出廷させることとしたものである。
専門知識補助者は鑑定人に尋問を行うことができ、また鑑定意見に対し意見を述べることができる。裁判官及び当事者は出廷した専門知識補助者に対し尋問を行うことができる。
→続きは、月刊ザ・ローヤーズ2014年8月号をご覧ください。
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[1] 原則として人民法院から送達された案件受理通知書及び応訴通知書を受領した日の翌日から30日以内の期間(司法解釈[2001]第33号第33条)
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