労働裁判手続 - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士
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労働裁判手続

裁判所による労働関係紛争解決手続
 ・民事調停
 ・労働審判
 ・支払督促
 ・民事訴訟
・通常訴訟
・簡易裁判所の特例
・少額訴訟
 ・民事保全
・仮差押
・仮処分

◎裁判所を利用 する場合の費用
・印紙代
収入印紙で、裁判申立の際に、裁判所に収める。訴訟、労働審判、調停、支払督促については、訴えの対象額により異なる。
・郵便切手(予納郵券)
郵便切手で、裁判申立の際に、裁判所に収める(一部の裁判所では、郵便切手の現物ではなく、振込による)。郵便切手の金額・組み合わせは、各地の裁判所によって異なる場合もあり、裁判の手続の種類、相手方の人数などにより異なる。
・交通費
裁判所の期日に出頭する際に要する交通費など。

◎通常訴訟
通常訴訟は,裁判所に訴訟を提起して,裁判所の判断で事件の解決を図るものである。訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所が管轄となり,140万円超の場合は地方裁判所が管轄となる。
また,訴額が60万円以下で未払賃金などの金銭請求の場合には少額訴訟を利用することができ,原則1回の審理でその日のうちに判決が出る。
 労働訴訟も民事訴訟の一部である。しかし,労働訴訟の場合は,労働者と使用者の資料収集能力の差を考慮し,労働者の立証責任が一定程度緩和される傾向があるので,労働者側に有利な面もある。とはいえ,労働者が代理人を立てずに訴訟を提起する場合は,自力で必要な証拠資料をどれだけ集められるかが勝敗のポイントとなる。

メリット
和解調書・判決は、強制執行ができる。

デメリット
時間がかかる。
準備などに労力がかかる。
費用がかかる。
印紙代(訴えの対象額により異なる)、郵便切手(例えば、東京地方裁判所で被告1名の場合6400円)、交通費がかかる。

(2)手続
民事訴訟続きの流れは以下のようになる。
 ①訴えの提起(訴状の提出)
 ②相手方への訴状の送達
 ③相手方から答弁書の提出
 ④口頭弁論期日・弁論準備手続期日(複数回)
 ⑤判決言渡し,もしくは和解

・簡易裁判所の訴訟手続に関する特則
(手続の特色)
 簡易裁判所においては、簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとする(民事訴訟法270条)。
 簡易裁判所の訴えは、口頭で提起することができる(民事訴訟法271条)という条文があるが、実際には、簡易裁判所の窓口に定型的な訴状のひな型が備え付けてあり、窓口の職員に記入の仕方を聞いて、記入していけば完成するようになっている。
(訴えの提起において明らかにすべき事項)
 簡易裁判所の訴えの提起においては、請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる(民事訴訟法272条)。
 被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において、相手方の申立てがあるときは、簡易裁判所は、決定で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない(民事訴訟法274条)。
(和解に代わる決定)
 金銭の支払の請求を目的とする訴えについては、裁判所は、被告が口頭弁論において原告の主張した事実を争わず、その他何らの防御の方法をも提出しない場合において、被告の資力その他の事情を考慮して相当であると認めるときは、原告の意見を聴いて、異議申立期間の経過時から5年を超えない範囲内において、当該請求に係る金銭の支払について、その時期の定め・分割払の定めをし、又はこれと併せて、その時期の定めに従い支払をしたとき、若しくはその分割払の定めによる期限の利益を次項の規定による定めにより失うことなく支払をしたときは訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをして、当該請求に係る金銭の支払を命ずる決定をすることができる(民事訴訟法275条の2第1項)。
分割払の定めをするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならない(民事訴訟法275条の2第2項)。
 和解に代わる決定に対しては、当事者は、その決定の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、その決定をした裁判所に異議を申し立てることができる(民事訴訟法275条の2第3項)。 異議の申立てがあったときは、和解に代わる決定は、効力を失う(同条4項)。異議の申立てがないときは、和解に代わる決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する(同条5項)。
(準備書面の省略等)
地方裁判所と異なり、簡易裁判所では、口頭弁論は、書面で準備することを要しない(民事訴訟法276条1項)。例外として、相手方が準備をしなければ陳述をすることができないと認めるべき事項は、書面で準備し、又は口頭弁論前直接に相手方に通知しなければならない(民事訴訟法276条2項)。この事項は、相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載し、又は同項の規定による通知をしたものでなければ、主張することができない(民事訴訟法276条3項)。
 地方裁判所では第1回の期日のみ書面により答弁した場合には出頭したとみなす制度(民事訴訟法第158条)があるが、簡易裁判所では、第2回以降の続行期日についても、原告又は被告が口頭弁論の続行の期日に出頭せず、又は出頭したが本案の弁論をしない場合についても、書面により、応答することができる(民事訴訟法277条)。
(尋問等に代わる書面の提出)
 裁判所は、相当と認めるときは、証人・当事者本人の尋問、鑑定人の意見の陳述に代え、書面の提出をさせることができる(民事訴訟法278条)。
(司法委員)
 裁判所は、必要があると認めるときは、和解を試みるについて司法委員に補助をさせ、又は司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができる。司法委員は、各事件について通常は1人である(民事訴訟法279条)。司法委員は、弁護士などから選ばれる。
その他、簡易裁判所については、判決書の記載事項の簡素化(民事訴訟法380条)、証人・当事者の尋問の調書の省略などの特則がある。


・地方裁判所と簡易裁判所の違い
大都市や高等裁判所所在地の地方裁判所(東京、大阪など)では、労働事件の専門部・集中部がある。
簡易裁判所では、労働事件に特化しているわけではない。しかし、労働者本人の当事者訴訟の場合には、司法委員による和解の試みなど、ある程度丁寧な対応がされている。ただし、事案がパワハラなどの複雑な事案では、地方裁判所での審理の方が適していることがある。

◎民事保全(仮差押,仮処分)
(1)仮差押
 仮差押とは,金銭債権の将来の強制執行を保全するために,暫定的に債務者の財産を仮に差し押さえる手続をいう。債務者の財産を仮に差し押さえるだけなので、判例などの債務名義を得た上で、強制執行をする必要がある。
 仮差押の手続では保証金を法務局に供託する必要がある。保証金の額は裁判官が決定するが,被保全権利(保全金額)の15%~30%程度が目安となる。

仮差押の必要性(保全の必要性)が必要である。すなわち、債務者の財産状態が悪化し、債務者の財産が散逸したり、隠匿されるおそれがある場合に、保全の必要性が認められる。

メリット
時間がかからない。
通常訴訟と比べて、準備などに労力がかからない。
比較的費用がかからない。
印紙代(申立事項1件ごとに2000円)が安い。

デメリット
仮差押だけでは、いきなり強制執行はできない。
保全の必要がある場合に限られる。
仮の地位を定める仮処分と異なり、債務者(使用者)に対する審尋が行われないので、証拠書類がそろっている場合に限られる。

(手続)
 仮差押手続の流れは,以下のようになる。
・仮差押の申立て(仮差押申立書の提出)
・審尋期日(通常は債権者のみ)
・仮差押命令

(2)仮処分
 仮処分とは,正式な裁判で結論が出るまでに現在の状態を維持したり,財産の処分を禁止する手続をいう。仮処分のうち、労働関係紛争において多い類型である。
 民事訴訟を提起しても,会社から解雇されている場合などは,訴訟をしている間は無収入で生活費も不足することがあるので,暫定的に賃金の仮の支払いを命じてくれる裁判手続として,賃金の仮払いを命ずる仮処分(賃金仮払仮処分)を申立てることができる。
 従業員としての身分を確認するために仮の地位を定める(地位保全仮処分)とともに,賃金の仮払いを命ずる仮処分(賃金仮払仮処分)を申立てることができる。
仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)として、以下の類型がある。
賃金仮払い仮処分
地位確認の仮処分
配転命令無効確認の仮処分など
・東京地方裁判所では、申立てから約3か月で終了(労働審判とそれほど時間的な差はない)。
・労使双方審尋
・保証金を立てさせないで仮処分命令は可能。

 賃金仮払い仮処分の場合、労働審判(保全の必要性は必要ない)と異なり、仮払いの必要性(保全の必要性)を疎明する必要性がある。すなわち、債権者(労働者)の財産・収入の状況により、債務者(使用者)から賃金の仮払いを受けないと債権者(労働者)が生活できないことを疎明する必要がある。なお、労働者が共働き夫婦の場合には、配偶者の収入なども考慮される。
したがって、労働審判よりも、逆にハードルが高くなる場合が有り得ることには注意が必要である。現在では、仮の地位を定める仮処分よりは、労働審判のおうが利用される傾向がある。

メリット
仮払い命令が発令されると、強制執行ができる。
通常訴訟と比べて、時間がかからない。
通常訴訟と比べて、印紙代(申立事項1件につき2000円)・郵便切手・交通費などについて、比較的費用がかからない。
デメリット
準備などに労力がかかる。
保全の必要がある場合に限られる。

(手続)
 仮処分手続の流れは,以下のようになる。
・仮処分の申立て(仮処分申立書の提出)
・尋期期日
・仮処分命令
・賃金の仮払い
・仮処分が認められた場合、債務者から保全異議(地方裁判所で3人の合議体の裁判官による)、保全異議決定について不服がある場合には高等裁判所に保全抗告
・仮処分申立が認められない場合には、債権者が高等裁判所に保全抗告

◎労働債権の先取特権による差押
・民法306条2号
・債務名義なしに、いきなり強制執行できる。
・証拠書類によってのみ立証(雇用契約書、就業規則、賃金台帳、タイムカード、給料振込の銀行口座の通帳、代表取締役の印鑑証明書付きの未払い賃金の証明書など)
・各地の地方裁判所で運用が異なるが、東京地方裁判所では、厳格な立証(債務名義に準じる程度の高度な立証)を求められるため、判決などの債務名義を取得した方が、かえって迅速・簡便な場合がある。
・印紙代は申立事項1件または債権者1名ごとにつき4000円。
・郵便切手が必要である。
・差押手続は、通常は裁判所に出頭する必要はない。

◎少額訴訟(民事訴訟法368条以下)
少額訴訟とは,60万円以下の金銭請求をする場合に,簡易裁判所が1回だけの審理で判決を出してくれる簡易迅速な訴訟手続をいう。
・60万円以下の金銭請求のみ(解雇予告手当、未払い賃金など。ただし、計算や実労働時間について激しく対立している残業代の事案などには不向き。)
・地位確認訴訟には使えない。
・簡易裁判所に申立て
・即時に取調べできる証拠に限られる(民事訴訟法371条)。当事者尋問、同行する証人の証人尋問は可能。
・反訴は禁止される(民事訴訟法369条)。
・1回の期日で審理終結(民事訴訟法370条1項)
・裁判官が心証を得た上で、その場で和解を試みることも多い。
・判決はただちに出る(民事訴訟法374条1項)。判決はその場で言い渡すこともあれば、当事者の不満を避けるため、時間をずらして同じ日に言い渡す場合もある。
・相手方(主に使用者)は、第1回期日までに少額訴訟手続によることに異議を出せば、通常訴訟に移行できる(民事訴訟法373条)。
・また、少額訴訟の判決に対する異議を出すことによって、通常訴訟へ移行する。ただし、少額訴訟判決によって強制執行を受ける危険性あり。

期日が1回で終わるため,証拠資料が十分に整っている場合には有効であり,分割払いや支払猶予も含んで判決できるという利点もある。
 他方,1回の期日しかなく,証拠調べの対象も即時に取り調べることのできるものに限られることから,証拠資料が十分に整っていない場合は,不本意な和解勧告に応じざるをえないこともあるので注意が必要である。
 また,判決に対して当事者から異議が述べられた場合は,通常の民事訴訟に移行することになる。

メリット
強制執行ができる。
通常訴訟と比べて、印紙代の金額は同じだが、郵便切手・交通費などについて、比較的費用がかからない。
通常訴訟と比べて、時間がかからない。

デメリット
通常訴訟に移行した場合、訴訟と同じになる。

手続
少額訴訟手続の流れは以下のようになる。
・訴えの提起(訴状の提出)
  ※裁判所に定型の訴状用紙が備え付けられている
・相手方への訴状の送達
・答弁書の提出
・口頭弁論期日(1回),即日判決,もしくは和解

◎民事調停
民事調停とは,当事者がお互いに譲り合って(互譲という)、裁判所に対して話し合いによる解決の仲立ちを求める手続である。
・原則として、簡易裁判所
・互譲によって解決するため、話し合いが可能な事案にのみ適する。
・調停調書には、裁判上の和解と同一の効力(民事調停法16条)
 会社の住所地を管轄する簡易裁判所(あるいは当事者が合意で定める簡易裁判所・地方裁判所)に申立てると,その事件について裁判所は裁判官と民間人2人(通常は弁護士、学識経験者、元裁判所関係者)から選任される民事調停委員により構成される調停委員会を設け,調停委員が双方の主張を聞き,説得をするなどして解決を図る。
 合意すれば,調停調書が作成・交付される。調停調書は確定判決と同様の効力を有しているので,仮に相手が合意内容に従わない場合は,裁判所から執行文の付与を得て強制執行をすることができる。
 なお,裁判所は調停が成立しない場合で相当と認めるときは,民事調停委員の意見を聞いて調停に代わる決定をすることができ,当事者から2週間以内にその決定に対する異議がでなかった場合には,同決定は確定判決と同一の効力を有する(異議があった場合は決定の効力は失われる)。

メリット
強制執行ができる。
比較的費用がかからない。印紙代は通常訴訟の場合の額の約半分である。郵便切手は裁判所によって異なる。

デメリット
時間がかかる。
準備などに労力がかかる。
ただし、訴訟に比べれば、比較的費用・時間・労力がかからない。

(2)手続
民事調停手続の流れは以下のようになる。
・民事調停の申立て
・当事者への通知
・調停期日
 申立人・相手方それぞれの言い分を順番に聞くケースが多いである。しかし,双方から同時に聞くケースもある。また,合意に至る可能性がある間は調停が続きますので,10回近く続くようなこともある。
・(調停成立の場合)調停調書の作成,もしくは(調停不成立の場合)調停に代わる決定

◎労働審判
(1)労働審判は,個別労働紛争に関して,裁判官と労働関係の専門的な知識を有する者(労働審判員)が審判委員会を構成して事件を審理し,解決案をあっせんして当該紛争を解決する制度である。労働審判員は,労働組合等の労働者側の団体,経営者協会等の経営者側の団体から労働事件に詳しい専門家が一名ずつ選ばれることになっており,公平性が保たれている。
 労働審判は,調停(審判委員会を交えた当事者の話し合い)の成立による解決の見込みがある場合はこれを試みるとされており,その解決に至らない場合に労働審判を行うこととなる。
 労働審判では,使用者に対する民事上の請求をすることができる。例えば,解雇無効確認,出向・転籍・懲戒処分の無効確認,未払賃金請求等をすることができる。支払督促や仮差押のように、金銭支払い請求権に限られない。
 また,労働審判の申立先は地方裁判所で,通常,3回以内の審理で終わるという簡易迅速な手続となっている。

メリット
強制執行ができる。
通常訴訟と比べて、費用・時間が、それほどかからない。
印紙代
郵便切手は裁判所によって異なる。

デメリット
準備などに労力がかかる。
労働審判の決定に対して異議が出た場合、通常訴訟に移行した場合には、通常訴訟と同じになる。

(2)手続
労働審判手続の流れは以下のようになる。
・労働審判の申立て(労働審判の申立書の提出)
・相手方への申立書の送達
・期日(原則3回以内)
・調停成立,調停が成立しない場合は労働審判


◎支払督促
支払督促とは,裁判所書記官から相手に金銭の支払いを命ずる書面を出してもらう制度(裁判所書記官の処分)をいう。
相手(債務者)が支払督促に異議申し立てをしなかった場合は,そのまま強制執行をする手続に移行できる。この場合には、裁判所で期日が開かれることはないため、裁判例に出頭する必要がない。裁判所から請求が来るため,支払う義務があることを認識している使用者に対しては有効な手段となり得る。
 もっとも,支払督促は債務者の住所地(相手が会社の場合、本店・支店・営業所)の管轄裁判所にしなければならず,また,相手方が支払督促に対して異議を述べた場合は,当該管轄裁判所において通常訴訟の提起があったものとされるので,債務者の住所地が遠隔地の場合等は注意が必要である。


メリット
支払督促に債務者から異議がないと、仮執行宣言が付されて、強制執行ができる。
債務者から異議があった場合には、通常訴訟に移行し、すぐには強制執行はできない。
時間がかからない。
比較的費用がかからない。印紙代の額は、通常訴訟の場合と比べて、約1/4である。
電子申請ができる(通常訴訟、民事調停、労働審判と異なる)。

デメリット
支払督促に債務者から異議があった場合には、通常訴訟手続に移行し、いきなりは強制執行ができない。


(2)手続
支払督促手続の流れは以下のようになる。
 ①支払督促の申立(支払督促申立書の提出)
 ②債務者へ支払督促の発令・送達
 ③債権者が仮執行宣言の申立て
 ④仮執行宣言付支払督促の発令・確定
  ※③・④は債務者から異議がない場合

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