有期雇用契約の留意点(最高裁平成2・6・5神戸弘陵学園事件) - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
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有期雇用契約の留意点(最高裁平成2・6・5神戸弘陵学園事件)

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神戸弘陵学園事件
最高裁平成2・6・5民集第44巻4号668頁(原判決破棄、差し戻し)。
一 労働者の新規採用契約においてその適性を評価し、判断するために期間を設けた場合には、期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
二 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところはなく、試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、当該雇用契約は解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。

この判例を前提としても、
労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項により、「労働契約の期間に関する事項」(労働基準法施行規則5条1項1号)で有期契約であること、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」(1号の2) で「機関満了後に更新しない」旨明示して労働契約を書面にてあらかじめ締結し、かつ、就業規則も作成・備え置き・届出・周知されている場合であって、かつ、客観的に、有期雇用契約であることを必要とする合理的な事情がある場合には、有期雇用契約であることが明らかな場合とされ、試用期間付き雇用契約ではないと解されよう。


(上記判決の骨子)
一 原審の認定した事実関係は、次のとおりである。
 Yは、昭和58年4月からD学園高等学校(以下「本校」という。)を設置する学校法人である。Xは、昭和59年4月1日付で本校の社会科担当の教員(常勤講師)として採用された(以下、XとYとの間の契約を「本件雇用契約」という。)。採用に当たり、Xは、同年3月1日に第2回目の際、Yの理事長から、採用後の身分は常勤講師とし、契約期間は一応同年4月1日から1年とすること及び1年間の勤務状態を見て再雇用するか否かの判定をすることなどにつき説明を受けるとともに、口頭で、採用したい旨の申出を受けた。Xは、当時1年の期限付の非常勤講師として採用内定を受けていたE学園への就業を辞退した上で、同年3月5日、Yから提出を求められていた勤務後の抱負等を記述したレポートを作成持参し、その場で、教頭代理らから勤務時間、給料、担当すべき教科等につき大まかな説明を受けてこれを了承した上、前記採用申出を受諾した。そして、Xは、同年4月1日付で本校の社会科担当の常勤講師として採用されて、その職務に従事し始めた。同年5月中旬、Xは、Yから求められるままに、同年4月7日ころに予めYより交付されていた「Xが昭和60年3月31日までの1年の期限付の常勤講師としてYに採用される旨の合意がXとYとの間に成立したこと及び期限が満了したときは.. 解雇予告その他何らの通知を要せず期限満了の日に当然退職の効果を生ずること」などが記載されている期限付職員契約書に自ら署名捺印した。
二 原審は、本件雇用契約は、昭和59年3月5日に、同年4月1日の始期付で、かつ、契約期間を1年として成立したものであり、期間の満了により本件雇用契約は終了したと判断している。
三 しかしながら、原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 原審は、Yが本件雇用契約を1年の期間付のものとしたのは、本校の開設後間もなく一時に大量の教員を採用する必要があり、Xのように教員経験のない者を新規に教員として採用するに当たっては、その適性について吟味する必要があることから、1年間の判断期間を設ける趣旨でしたものであり、期間を1年としたのは、学校教育は行事等も含め1年単位で行われることから、各教員にひととおりの経験をしてもらった上で、その適性を判断しようという趣旨からであるという事実を認定している。
 ところで、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設-けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、
・試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、
・試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、
・他に特段の事情が認められない限り、
これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。
そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。
 そこで、本件において、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立しているなどの特段の事情が認められるかどうかであるが、原審は、
① Xは、昭和59年3月1日の第2回目の面接の際に、Yの理事長から、採用後の身分は常勤講師とし、契約期間は一応同年4月1日から1年とすること及び1年間の勤務状態を見て再雇用するか否かの-判定をすることなどにつき説明を受けるとともに、口頭で、採用したい旨の申出を受け、同年3月5日、申出を受諾したが、契約期間につきYの理事長が「一応」という表現を用いたこと。
② 原審は、Xは、第2回目の面接の際に、Yの理事長から「Eは断って、うちで30年でも40年でもがんばってくれ。」とか「公立の試験も受けないでうちへきてくれ。」とか言われた旨供述しているが、Yの理事長はXが教員としての適性を有することを期待し、契約を更新して末永く本校において教鞭をとることを望んでいたことが認められるから、1年の期限付契約を結んだこととYの理事長の発言とは矛盾するものではない、としている。原審はYの理事長がXの供述するとおりの発言をしたと認定しているのかどうかは必ずしも明らかではないが、もし発言がされたのであるとすれば、Yの理事長は契約期間の1年を「一応」のものと述べたというのであり、理事長が用いたと認定されている「再雇用」の文言も、厳格な法律的意味において、雇用契約を新たに締結しなければ期間の満了により契約が終了する趣旨で述べたものとは必ずしも断定しがたいのであって、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立していたとすることには相当の疑問が残るといわなければならない。
③ Xが署名捺印した期限付職員契約書には、「Xが昭和60年3月30日までの1年の期限付の常勤講師としてYに採用される旨の合意がXとYとの間に成立したこと及び期限が満了したときは解雇予告その他何らの通知を要せず期限満了の日に当然退職の効果を生ずること」などの記載がされているというのであり、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立していたかの如くである。しかし、XがYから期限付職員契約書の交付を受けたのは本件雇用契約が成立した後である昭和59年4月7日ころであり、これに署名捺印したのは同年5月中旬であるというのである。
④ XがYに提出した期限付職員契約書の第1条には、Yは学園の生徒数、職員数等の事情から昭和59年度に限り本契約職員を採用する必要がある旨記載されていることが窺われるところ、本校は昭和58年4月に開校されたというのであるから、昭和59年度は開校2年目で、生徒は1年次生と2年次生のみであり、昭和60年度になって1年次生から3年次生までが初めて揃う状況にあった。したがって、昭和59年度から昭和60年度にかけてはむしろ生徒数が増加する状況にあり、生徒数の事情から昭和59年度に限って期限付職員を採用する必要があったとは思われず、同様に職員についても生徒数の増加に伴い増員する必要こそあれ、職員数の事情から昭和59年度に限って期限付職員を採用する必要があったとは思われない。
⑤ 期限付職員契約書の第二条には、XはY学園勤務規定を遵守して誠実に勤務する旨の記載があることが窺われるが、昭和59年5月当時には勤務規定はいまだ作成されていなかったこと。
以上によれば、Xの提出した期限付職員契約書は、本件雇用契約の趣旨・内容を必ずしも適切に表現していないのではないかという疑問の余地がある。
⑥ Xは昭和58年3月にF大学経済学部を卒業後、昭和59年3月にG大学社会学部通信教育課程を終了して、Xは、当時1年の期限付の非常勤講師として採用内定を受けていたE学園への就業を辞退した上本校の教員に採用されたものであることが窺われるところ、このような場合には、短期間の就職(E学園の非常勤講師)よりも長期間の安定した就職(Yの常勤講師)を望むのがわが国の社会における一般的な傾向であるから、本件においてXが1年後の雇用の継続を期待することにはもっともな事情があったものと思われる。
 以上のとおりであるから、本件雇用契約締結の際に、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意がXとYとの間に成立しているなどの特段の事情が認められるとすることには疑問が残るといわざるを得ず、このような疑問が残るのにかかわらず、本件雇用契約に付された1年の期間を契約の存続期間であるとし、本件雇用契約は1年の期間の満了により終了したとした原判決は、雇用契約の期間の性質についての法令の解釈を誤り、審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。 したがって、原判決は破棄を免れない。
 そして、本件においては、前記疑問を解消し、本件雇用契約を1年の存続期間付のものであると解すべき特段の事情が認められるかどうか、特段の事情が認められないとして本件雇用契約を試用期間付雇用契約であり、その法的性質を解約権留保付雇用契約であると解することが相当であるかどうか、そのように解することが.相当であるとして本件が留保解約権の行使が許される場合に当たるかどうかにつき、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。


(参照条文)
労働基準法
(労働条件の明示)
第15条1項  使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2  前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3  前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。


労働基準法施行規則
第5条1項  使用者が労働基準法第15条第1項 前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第1号の2に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第4号の2から第11号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一  労働契約の期間に関する事項
一の二  期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三  就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二  始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三  賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四  退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二  退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五  臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六  労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七  安全及び衛生に関する事項
八  職業訓練に関する事項
九  災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十  表彰及び制裁に関する事項
十一  休職に関する事項
2  法第15条第1項 後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第1号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
3  法第15条第1項 後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

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