労働者派遣法の平成24年改正、その4 - パート・派遣トラブル - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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労働者派遣法の平成24年改正、その4

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派遣元事業主・派遣先に新たに課される事項

改正により新たに派遣会社・派遣先に新たに課される事項は以下のとおりである。
下記1~10は平成24年10月1日より施行、11は平成27年10月1日より施行される。

今回の改正は、一般派遣元事業主だけではなく特定派遣元事業主に対しても当然適用される。

1 日雇派遣の原則禁止
 日雇派遣については、派遣会社・派遣先のそれぞれで雇用管理責任が果たされておらず、労働災害の発生の原因にもなっていたことから、雇用期間が30日以内の日雇派遣は原則禁止になった。
 ただし、[1] または [2] の場合は例外として認められる。
[1]禁止の例外として政令指定業務について派遣する場合
[2]以下のいずれかに該当する人を派遣する場合
(ア)60歳以上の人 (イ)雇用保険の適用を受けない学生 (ウ)副業として日雇派遣に従事する人 (エ)主たる生計者でない人 (ウ)は生業収入が500万円以上、(エ)は世帯収入が500万円以上の場合に限る。

2 グループ企業内派遣の8割規制
 派遣会社と同一グループ内の事業主が派遣先の大半を占めるような場合は、派遣会社が本来果たすべき労働力需給調整機能としての役割が果たされないことから、派遣会社がそのグループ企業に派遣する割合は全体の8割以下に制限される。

3 離職後1年以内の人を元の勤務先に派遣することの禁止
本来直接雇用とすべき労働者を派遣労働者に置き換えることで、労働条件が切り下げられることのないよう、派遣会社が離職後1年以内の人と労働契約を結び、元の勤務先に派遣することはできなくなった(元の勤務先が該当者を受け入れることも禁止される)。

【派遣会社】 離職前事業者へ派遣労働者として派遣することを禁止
【派遣先】 該当する元従業員を派遣労働者として受け入れることを禁止

※ 60歳以上の定年退職者は禁止対象から除外される。この場合、再就職が難しいからである。
※ 禁止対象となる勤務先の範囲は事業者単位となる。

4 マージン率などの情報提供派遣料金の明示
【関係者への情報公開】
労働者や派遣先となる事業主がより適切な派遣会社を選択できるよう、インターネットなどにより派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などの情報提供が義務化される。
改正後の労働者派遣法第23条第5項の「関係者」とは、具体的には、派遣労働者、派遣労働者となり得る者、派遣先、派遣先となり得る者等が想定される。

【派遣労働者への明示】
雇入時、派遣開始時、派遣料金額の変更時には、派遣労働者の「労働者派遣に関する料金額(派遣料金)」の明示が義務化される。

<明示すべき派遣料金(次のうちいずれかを明示)>
[1]派遣労働者本人の派遣料金
[2]派遣労働者が所属する事業所における派遣料金の平均額(1人あたり)
<明示の方法>
 書面・FAX・電子メールのいずれか
【派遣料金額の明示について】
・労働者に明示する派遣料金額を「当該事業所における派遣料金額の平均額」とする場合について、明示すべき額は当該事業所に所属する全派遣労働者の全業務平均の額でも足り、必ずしも業務別に分けて計算する必要はない。
・派遣料金額を明示する場合の金額の単位(時間単位・日単位・月単位等)には、制限がない。

【マージン率】
派遣会社の手数料(マージン)=派遣先企業が派遣会社に支払う料金―派遣会社が派遣労働者に実際に支払う賃金
マージン率=(派遣料金の平均額―派遣労働者の賃金の平均額)÷派遣料金の平均額

派遣会社のマージンには、以下の費用などが含まれている。
<含まれている費用の例>
マージン率はその他の情報と組み合わせて総合的に評価することがポイントである
  ・派遣会社が負担する社会保険料(厚生年金保険・健康保険)
  ・派遣会社が負担する雇用保険料・労災保険料
  ・有給休暇に関する負担分
  ・派遣会社での教育訓練費・福利厚生費
  ・派遣会社の社員の人件費
  ・営業利益

マージンには、社会保険料、労働保険料、福利厚生費や教育訓練費なども含まれているので、マージン率は低いほどよいというわけではなく、その他の情報と組み合わせて総合的に評価することが重要である。

【公開の時期について】
 派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取組状況などの公開は、平成24年10月1日以降に終了する事業年度が終了した後、改正労働者派遣法の施行後に終了する事業年度分からの公開が義務付けられているため、平成24年10月以降、すぐに全ての派遣会社についての情報を確認できるようになるというわけではない。例えば、事業年度の終了が3月末の派遣元事業主であれば、平成25年4月以降速やかに公表する必要がある。
 
【マージン率等の情報提供について】
・いわゆるマージン部分(派遣料金と賃金の差額部分)について、労働者や派遣先に正確な情報を提供する観点から、教育訓練費や法定福利費・法定外福利費等に分けて情報提供する取扱いでも差し支えない。いずれにせよ、情報提供の際には、マージン率のみならず、教育訓練やその他参考となると認められる事項(福利厚生等)についても可能な限り分かりやすく記載することで、派遣元事業主の取組が労働者や派遣先等に正確に伝わるようにすることが重要である。

6 待遇に関する事項などの説明
派遣会社は、労働契約締結前に、派遣労働者として雇用しようとする労働者に対して、
[1]雇用された場合の賃金の見込み額や待遇に関すること
[2]派遣会社の事業運営に関すること
[3]労働者派遣制度の概要
の説明をすることが義務化される。

【待遇に関する事項等の説明について】
・改正後の労働者派遣法第31条の2の規定により派遣元事業主に義務付けられる「待遇に関する事項等の説明」とは、労働契約締結前の説明を指しており、例えば、登録状態にある労働者に対して説明するような場合等が該当する。
・労働契約の締結前である以上、説明する「賃金の額の見込み」は一定の幅を持ったものとせざるを得ないが、そのような取扱いでもよい。
・「賃金の額の見込み」の説明方法として、例えば、「派遣元事業主のホームページにより確認されたい」という形で説明に代えることは不可である。「賃金の額の見込み」については、書面、ファックス又は電子メールにより説明する必要があるからである。ただし、「賃金の額の見込み」以外の事項に関しては、書面、ファックス又は電子メール以外の方法により説明することも可能であり、口頭やインターネット等による説明も認められる。

7 派遣先の都合で派遣契約を解除するときに講ずべき措置
労働者派遣契約の中途解除によって、派遣労働者の雇用が失われることを防ぐため、派遣先の都合により派遣契約を解除する場合には、
ア 派遣労働者の新たな就業機会の確保
イ 休業手当などの支払いに要する費用の負担 
などの措置をとることが、派遣先の義務となる。
(派遣契約時にこれらの措置について明記しなければならない)

8 有期雇用派遣労働者の無期雇用への転換推進措置
派遣労働者が無期雇用になるための機会が少ないことなどから、派遣会社は、有期雇用の派遣労働者(雇用期間が通算1年以上)の希望に応じ、以下のいずれかの措置をとるよう努めなければならない。
[1]無期雇用の労働者として雇用する機会の提供
[2]紹介予定派遣の対象とすることで、派遣先での直接雇用を推進
[3]無期雇用の労働者への転換を推進するための教育訓練などの実施

9 派遣労働者が無期雇用労働者か否かを派遣先への通知事項に追加

10 均衡待遇の確保
【派遣会社の義務】
派遣会社は、派遣労働者の賃金を決定する際、
[1]派遣先で同種の業務に従事する労働者の賃金水準
[2]派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験など
に配慮しなければならない。
教育訓練や福利厚生などについても均衡に向けた配慮が求められる。

【派遣先の義務】
派遣会社に対し、必要な情報を提供するなどの協力が求められる。

11 労働契約申込みみなし制度(平成27年10月1日施行)
労働契約申込みみなし制度とは、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたものとみなす制度である。平成27年10月1日からの施行となっている。
労働契約申込みみなし制度の具体的な運用については、施行が平成27年10月1日とされており、それまでに厚生労働省から示される予定である。

【その他】
・政令指定の26業務の号番号について、改正労働者派遣法の施行に伴う政令改正により変更が生じているが、改正政令の施行前に締結した契約書に「●号業務」(旧号番号)という記載がなされている場合には、改正政令の施行後に契約書を変更する必要はない。次回の契約更新時に改正後の政令に基づく条番号及び号番号を記載すればよく、改正政令の施行前に締結した契約書まで変更する必要はない。

・派遣元事業主から派遣先への通知事項に「派遣労働者が無期契約であるか否か」が追加されるが、改正労働者派遣法の施行前に締結した労働者派遣契約についても、改正労働者派遣法の施行後に当該派遣労働者が無期契約であるか否かを追加通知する必要はない。次回の契約更新時に「派遣労働者が無期契約であるか否か」を通知すればよく、改正労働者派遣法の施行前に締結した契約に関して、改正労働者派遣法の施行後に追加通知する必要はない。

 

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