【人の絆を育む家】の続編です。
■人と人とのいい関係とは
それでは、どうしたら家族の絆は深まるのでしょうか。家族が皆いつも同じ一つの空間で過ごしていれば、それだけで絆は自ずと育まれるのでしょうか。それで十分だと感じる方もいるでしょうが、家族といえども自分自身の世界はしっかり守りたいと感じる方もいることでしょう。ここで大切なことは一人一人が独立した人格をもった人間であるということです。人は自らの世界が冒されそうになると、本能的に心を閉ざし自分の世界を防御します。それは子どもでも同じです。そのように心を閉ざしていては他者との心の絆が生まれるわけがありません。人が心を開くためには、自分の世界が守られているという確かな実感が必要になります。一方、個人の世界ばかりがしっかり守られ、そこに閉じこもって何の不都合もなくなると、家族ですごす必要を感じなくなり一緒に住む意味さえ失いかねません。どうしたら「一人一人が守られていること」と「ともに過ごすこと」とを両立させることができるのでしょうか。
そのことを考えるヒントとして一つのたとえ話を紹介します。心理学の分野で「ヤマアラシ夫婦のジレンマ」といわれる話です。ヤマアラシは全身にとげがある動物で、夫婦が暖をとろうと体を寄せ合うとそれぞれのトゲで相手を傷つけてしまいます。でも離れ過ぎると今度は寒さで凍えます。双方にとってちょうどいい距離を見つけて、はじめてお互いのいい関係を築くことができたという話です。これを家におきかえると、家族一人一人が自分の世界を浸食されないと感じられる必要があり、その前提のもと一緒にいる方が暖かい、居心地がいいと思うとき、お互いのいい関係が生まれるということになります。『個の世界が守られつつ、同時にともにすごす喜びを感じられる』そのような建築空間が絆を育む住宅といえそうです。
(つづく)
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このコラムの執筆専門家
- 西島 正樹
- (東京都 / 建築家)
- 西島正樹/プライム一級建築士事務所 建築家
一人ひとりの生き方と呼応し、内面を健やかに育む住宅を
家づくりを大切に考えることは、生き方を大切に考えることにつながるのではないでしょうか。一人ひとりの生き方、考え方に呼応してこそ、住む人の心を育む建築空間が生まれます。この世にひとつだけの家づくり。ぜひ、ご一緒できればと願っています。
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