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河野 英仁
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米国特許判例紹介:転職後の自明型ダブルパテントの適用

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米国特許判例紹介:転職後の自明型ダブルパテントの適用

~自明型ダブルパテントとターミナルディスクレーマー~

河野特許事務所 2013年6月11日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

In re Hubbell

 

1.概要

 自明型ダブルパテントによる拒絶は、判例により確立された特許要件であり、存続期間の実質的延長の防止、及び、権利主体の異なる複数の特許権者による権利行使の防止を目的とするものである。

 

 同一出願人が関連する案件を同時期に多数出願した場合、自明型ダブルパテントによる拒絶理由を受けることが多い。この場合、一方の出願について、ターミナルディスクレーマーを行うことで、拒絶理由を回避することができる。

 

 本事件では、先行する特許と,出願との発明者は一部共通するが、発明者が途中で転職したため、先行特許と、出願との譲受人が異なっていた。USPTOは自明型ダブルパテントによる拒絶を通知し、また出願人はターミナルディスクレーマーを主張することができなかったため、後の出願は拒絶された。出願人はこれを不服としてCAFCに控訴したが、CAFCはUSPTOの判断を支持する判決をなした。

 

 

2.背景

(1)特許出願の内容

 米国出願番号No. 10/650,509 (以下、509出願)は、発明者Hubbell氏及びSchense氏らによるものであり、技術内容は組織の修復と再生に関するものである。509出願は、2003年8月27日に出願された。参考図1は509出願の代表図である。

 

 

   

 参考図1 509出願の代表図

 

 509出願は、Hubbell氏がCalifornia Institute of Technology (以下、CalTechという)化学工学部の教授であり、Schense氏が同学部で博士号を取得したときのものである。509出願の発明者は全部でHubbell氏、Schense氏、Zich氏及びHall氏の全4名である。509出願の全共同発明者はCalTechに属するため、509出願はCalTechに譲渡された。

 

 その後、Hubbell氏はCalTechを去り、1998年Eidgenossische Technische Hochschule Zurich (以下、ETHZという)の教員となった。509出願の約5年後のことである。685特許として成立した出願は、2002年12月17日出願され、当該出願はETHZでのHubbell氏及びSchense氏の研究に基づくものである。

 

 685特許は2009年10月13日に発行され、発明者としてHubbell氏, Schense氏及びElbert氏が挙げられ、ETHZ及びチューリッヒ大学が譲渡人となった。まとめると以下の関係となる。

 

発明者

譲受人

685特許

Hubbell氏, Schense氏及びElbert氏

ETHZ及びチューリッヒ大学

509出願

Hubbell氏、Schense氏、Zich氏及びHall氏

CalTech

 

 このように、発明者構成の一部が共通するものの、譲渡人が異なるという関係を有する。

 

 

(2)509出願の審査

 審査官は685特許による自明型ダブルパテントを根拠に、509出願を拒絶した。クレーム発明は685特許と509出願とで同一ではないが、自明なものであった。Hubbell氏(以下、原告)は、509出願と685特許との発明者は一部共通するものの、譲受人が相違するため、自明型ダブルパテントに基づく拒絶は適用されないと主張した。また、仮に自明型ダブルパテントに基づく拒絶が適用されるとしても、ターミナルディスクレーマーの主張を認めるべきであると主張した。

 

 審査官は原告の主張を認めず拒絶した。審判部も審査官の拒絶を支持する判断をなした。原告はこれを不服として、CAFCへ控訴した。

 

 

3.CAFCでの争点

争点1:発明者が共通し、譲受人が異なる場合に自明型ダブルパテントの拒絶が適用されるか。

 上述したとおり、685特許と、509出願とは一部の発明者構成が共通するが、譲受人が当初から相違する。このような場合に、自明型ダブルパテントの拒絶が509出願に適用されるか否かが問題となった。

 

争点2:自明型ダブルパテントが適用されるとすれば、ターミナルディスクレーマーの主張が認められるか?

 509出願に自明型ダブルパテントの拒絶が適用されるとすれば、当該拒絶を回避するために、ターミナルディスクレーマーを主張することができるか否かが問題となった。

 

4.CAFCの判断

結論1:譲受人が相違する場合でも、発明者構成の一部が共通する場合、自明型ダブルパテントの拒絶が適用される。

 自明型ダブルパテントの拒絶は以下の場合に適用される。

 後のクレームが先のクレームに対して、自明、または予期できる場合、後の特許クレームは、先のクレームに対し、特許的に区別できないものであり[1]、当該区別不可能な後のクレームの発行は禁止される[2]。

 

 このようなクレームに対し、特許を認めないのは、第1に、存続期間の実質的延長を防止するためであり[3]、第2に権利主体の異なる複数の特許権者による権利行使を防止するためである[4]。

 

 ここで問題となるのが、出願と抵触特許とが、一または複数の共通の発明者を有するが、発明者構成が同一でなく、かつ、当該出願が共同で所有されていない場合に、自明型ダブルパテントが、適用されるか否かにある。

 

 CAFCは過去の判例により、このような場合でも自明型ダブルパテントの拒絶は適用されると述べた。

 例えばVan Ornum事件においては、自明型ダブルパテント拒絶のベースとなった特許はspeciesクレームであり、出願に係るクレームはgenericという関係にあった。先行特許と当該出願とは、共通の発明者構成であったが、発明者らは、特許をGeneral Motorsに譲渡し、出願をRockcor社へ譲渡した。この場合も、CAFCは、自明型ダブルパテント拒絶は完全に正当化されると結論づけていた。またFallaux事件においても同様の判断をなしていた。

 

 原告は、Van Ornum事件及びFallaux事件においては、特許が登録された時点の譲受人と、他の出願に係る譲受人はかつて同一であり、その後、譲渡により、別譲渡人となったものであり、本件と相違すると反論した。すなわち、Van Ornum事件及びFallaux事件では、かつてこれらの権利が一度共通に所有されていた点で、最初から、ETHZ及びチューリッヒ大学に譲渡されていた685特許、CalTechに最初から譲渡されていた509出願とは相違すると主張した。

 

 この点について、CAFCは状況が異なる点を認めつつも、CalTechと ETHZ及びチューリッヒ大学との双方から、第三者は訴訟を受ける可能性があるということには変わりなく、同一特許に対する複数の権利者による権利行使を防止するという趣旨からは、同様に自明型ダブルパテントにより拒絶すべきものであると判示した。

 

結論2:譲受人が相違するため、ターミナルディスクレーマーは主張できない。

 原告は、自明型ダブルパテントに基づく拒絶が適用されるのであれば、権利期間延長の問題を回避すべく、裁判所は原告にターミナルディスクレーマーを主張する機会を認めるべきであると主張した。

 

 CAFCは、一般的なルールとして、自明型ダブルパテント拒絶を回避するためのターミナルディスクレーマーは、出願及び抵触する特許が共有されている場合だけに効果的であると述べ、原告の主張を採用しなかった。

 

 特に米国特許法規則1.321(c)(3)には、以下の規定がなされている。

 

規則1.321(c)(3)

(c) ターミナルディスクレーマーが,特許出願又は再審査手続に関して司法的に創出される重複特許付与に対処するために提出される場合は,(d)に定める場合を除き,次の条件が満たされなければならない。

(1) (b)(2)から(b)(4)までの規定に適合すること

(2) 特許出願に関して提出される場合は(b)(1)に従って,又は再審査手続に関して提出される場合は(a)(1)に従って,署名されること,及び

(3) その出願に付与される特許又は再審査手続に付されている特許は,その特許が,司法的に創出される重複特許付与の基礎を形成している出願又は特許と共通して所有されている期間に限り権利行使可能とする旨の規定を含むこと

 

 すなわち、対象となる特許と出願とが共通の譲受人に譲受されている時点においてのみターミナルディスクレーマーの主張が認められるのであり、本件の如く発明者が共通していたとしても,譲受人が最初から相違する場合には、ターミナルディスクレーマーの主張は認められない。

 

 

5.結論

 CAFCは自明型ダブルパテントに基づく拒絶及びターミナルディスクレーマーの主張を認めなかった審判部の判断を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 技術的に関連する案件を開発過程に併せて集中的に出願することが多い。このような場合、自明型ダブルパテントの拒絶を受ける事が多く、ターミナルディスクレーマーにより当該拒絶を回避することとなる。本事件の如く、何らかの事情により特許出願の一部を他の特許群から切り離して他社へ譲渡する場合、自明型ダブルパテントに基づく拒絶がなされる可能性があり、さらにはターミナルディスクレーマーも主張することができないため、注意を要する。

 

判決 2013年3月7日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/2011-1547.opinion.3-5-2013.2.pdf



[1] Eli Lilly & Co. v. Barr Labs., Inc., 251 F.3d 955, 968 (Fed. Cir. 2001)

[2] In re Longi, 759 F.2d 887, 892 (Fed. Cir. 1985)

[3] In re Van Ornum, 686 F.2d 937 (CCPA 1982)

[4] In re Fallaux, 564 F.3d 1313 (Fed. Cir. 2009))

 

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