米国特許法改正規則ガイド 第10回 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許法改正規則ガイド 第10回 (第2回)

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米国特許法改正規則ガイド

第10回 (第2回)

先願主義に関する規則及びガイドラインの解説

河野特許事務所 2013年4月15日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

3.米国特許法第102条(新規性)

(1)概要

 米国特許制度を理解する上で困難であった先発明主義に基づく米国特許法第102条(a)~(f)の規定が大幅に改正され、新たに先願主義をベースとする米国特許法第102条(a)~(d)が新設された。また米国特許法第102条(g)(先発明を決定するインターフェアランス)は削除され、代わりに由来手続(冒認手続)が導入された。以下、102条の改正点について解説する。

 

(2)米国特許法第102条(a)

 102条(a)(1)及び(2)に該当する場合、(b)に規定する例外を除き新規性を有さないと判断される。

 

(i)先願主義 102条(a)(1)

 クレーム発明が、有効出願日前に特許されるか、刊行物に記載されるか、または、公然使用、販売、その他公衆に対し利用可能となった場合、新規性は否定される(102条(a)(1))。このように先発明主義から先願主義へ移行した結果、法改正前のように、他人の出願日より前に発明したことを立証したとしても特許を受けることができなくなった。

 なお、この公然使用及び刊行物等の記載は米国国内または国外の別を問わない。法改正以前は公知及び公然実施については米国内に限られていたが、国際的調和の観点から世界主義へと改正された。

 

 米国特許法第102条(a)(1)には、新たな概念「その他公衆に利用可能となった場合Otherwise available prior art (to the public)」が規定されている。ガイドラインによれば、「包括的」な意味であり、クレーム発明が、十分に公衆に利用可能であれば、たとえ文書その他の開示が印刷された文書であろうがなかろうが、取引で販売されてあろうがなかろうが、米国特許法第102条(a)(1)の規定に基づく「その他利用可能」な先行技術に該当する。

 

 例えば、大学図書館における学生論文、科学会議におけるポスター表示または配布したその他の情報、公開特許公報における主題、電子的にインターネットに投稿された文書、米国統一商事法典に基づく販売を構成しない商取引等も「利用可能」と判断される。

 

 また、米国特許法第102条(a)(1)では、「他人による開示」は旧法と異なり条件とされていない。その他、出願人自身が先行技術として明細書または審査段階で提出したものは、審査官が新規性及び非自明性の判断の根拠に用いることができる[1]。

 

 販売(on sale)に関しては、販売により発明が公衆に利用可能となっていることが必要とされる。改正米国特許法第102条(a)(1)は、上述したとおり「その他公衆に対し利用可能となった場合」と規定していることから、「販売」も秘密の販売及び販売の申し出を含まないこととなる。例えば、発明者と第三者との間に守秘義務がある場合、当該守秘義務下での販売、販売の申し出、または他の商業活動は非公知として取り扱われる。同様に改正前と異なり販売も国内外を問わない。

 

(ii)拡大先願の地位 102条(a)(2)

 クレーム発明が、151条(特許の発行)の規定に基づき登録された特許に記載されるか、または、122条(b)(特許出願の公開)の規定に基づき公開された出願に記載されており、当該特許または出願が、他の発明者を挙げており、かつ、クレーム発明の有効出願日前に有効に出願されている場合も、新規性を有さないとして拒絶される(102条(a)(2))。

 102条(a)(2)は、日本国特許法第29条の2に規定する、所謂拡大先願の地位と同様の規定である。すなわち、参考図1に示すように未公開の先願が、後願の出願後に特許または公開された場合に、後願の新規性は否定される。なお、先願が他の発明者を挙げている場合にのみ、後願は米国特許法第102条(a)(2)に基づき新規性が否定される。

 

 

参考図1

 

(a)拡大先願の地位を有する対象

 後述するようにヒルマードクトリンが廃止されたため(米国特許法第102条(d))、米国特許法第102条(a)(2)の「公開」には、国際特許出願(先出願)の国際公開(後公開)が含まれる(WIPO公開公報)。

 

 すなわち、米国特許法第102条(a)(2)の公開とは、

米国特許、

米国公開公報、及び

WIPOにより公開された出願

の3つとなる。

 

 このように、改正米国特許法においては、米国を指定国とするPCT出願のWIPO公報は、国際出願日にかかわらず、当該WIPO公報が英語でされようがいまいが、または、PCT国際特許出願が米国国内段階に移行しようがしまいが、拡大先願の地位の適用に関し、US特許出願刊行物とみなされる

 

 従って、他の発明者を記載しており、出願に係るクレーム発明の有効出願日前の有効出願日を有する米国特許、米国特許公開公報、またはWIPOが公開した出願は、米国特許法第102条(a)(2)における先行技術に該当する。

 

(b)発明者の同一性

 また日本国特許法第29条の2かっこ書きと同じく、同一発明者には米国特許法第102条(a)(2)の規定は適用されない。

 

 ガイドラインによれば、先行技術に係る米国特許、米国公開特許公報、またはWIPO公開出願の発明者と、審査または再審査対象の出願の発明者との間に何らかの相違があれば、当該米国特許、米国公開特許公報、またはWIPO公開出願は、米国特許法第102条(a)(2)における「他の発明者を挙げており」の要件を満たす(102条(b)(2)の例外を除く)。

 

 たとえ、何人かの発明者が、先願である米国特許、米国公開特許公報、またはWIPO公開出願と、後に出願された審査または再審査対象の出願とで共通したとしても、当該米国特許、米国公開特許公報、またはWIPO公開出願は米国特許法第102条(a)(2)における「他の発明者を挙げており」の要件を満たす(102条(b)(2)の例外を除く)。

 

 従って一部一致ではなく、先願及び後願の発明者が完全に一致していない限り拡大先願の地位規定である米国特許法第102(a)(2)が適用される。

 

 

改正前

改正後

第102 条 特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失

次の各項の一 に該当するときを除き,人は特許を受ける権利を有するものとする。

(a) その発明が,当該特許出願人による発明の前に,合衆国において他人に知られ若しくは使用されたか,又は合衆国若しくは外国において特許を受けたか若しくは刊行物に記載された場合,

第102 条 特許要件;新規性

(a)新規性;先行技術-次の各項の一 に該当するときを除き,人は特許を受ける権利を有するものとする。

 (1)クレームされた発明が、有効出願日前に特許されるか、刊行物に記載されるか、または、公然使用、販売、その他公衆に対し利用可能となった場合

 (2)クレームされた発明が米国特許法第151条(特許の発行)の規定に基づき登録された特許に記載されるか、または、米国特許法第122条(b)(特許出願の公開)の規定に基づき公開された出願に記載されており、当該特許または出願が、場合によっては、他の発明者を挙げており、かつ、クレームされた発明の有効出願日前に有効に出願されている場合

 

(iii)先発明主義の適用か、先願主義の適用か

(a)2013年3月16日より前に提出された出願

 新法は2013年3月16日より前に提出された出願には適用されず、旧法すなわち、先発明主義下での改正前米国特許法第102条及び103条が適用される。

 

 ただし、再審査請求(RCE Request for Continued Examination)、及び、米国特許法第371条に基づく国内段階への移行は、新出願とはならない。従って、2013年3月16日以前に提出された出願において、規則1.114に基づくRCEの請求が2013年3月16日以降にされたとしても、当該出願に対しては旧102条及び103条が適用される。同様に、2013年3月16日以前に米国特許法第363条に基づきPCT出願がなされ、米国特許法第371条に基づき当該出願が国内段階に2013年3月16日より後になされても旧102条及び103条が適用される。

 

(b)2013年3月16日以降に提出された出願

 2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレーム発明を含んでいるか、過去のある時点において当該クレーム発明を含んでいた特許出願には新法が適用される。たとえ当該出願において少なくとも一つのクレームが2013316日以降の有効出願日を有する場合、全クレームの特許性を決定するにあたり新法が適用される。従って、たとえ残りのクレーム発明が全て2013年3月16日以前の有効出願日を有し、かつ、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレーム発明がキャンセルされた場合でも新法が適用される。

 

 2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレーム発明に関するクレームを含んでいない2013年3月16日以降に提出された出願(旧法出願)が、2013316日以降の有効出願日を有するクレームを含むよう補正された場合、当該出願には新法が適用される。もちろん、新規にクレームに追加した事項が、米国特許法第112条(a)の規定に基づき明細書によりサポートされていることが必要とされる。

 

 オフィスアクション後の補正により、当該出願が旧法でなく新法の規定に従うことになった場合、適用可能な法律における変更により新たに必要となった拒絶理由は、次のオフィスアクションを最終としてよいか否かを判断するために、補正により必要となった新たな拒絶理由とみなされる。

 

 2013年3月16日以降の出願であって、原出願時に、先に出願された旧法に基づく出願(当該2013年3月16日以降の出願が優先権を主張し、または、米国特許法第119条,120条,121条もしくは365条に基づく利益を得ている出願)にも開示された主題のみを開示およびクレームしている出願のクレーム発明に、新規事項となるクレームを追加する補正(当該出願と同日に提出された予備補正を除く)をしても、当該出願が旧法に基づくものからAIAに基づくものへと変更されることはない。すなわち、旧法に基づく出願に基づき優先権等を主張した2013年3月16日以降の出願において、新規事項追加の補正を行ったとしても、これは米国特許法第132条(a)(新規事項追加)の規定に反するため、新法ではなく、依然として旧法が適用されることとなる。

 

(c) 新法が適用される出願であるが2013年3月16日以前の有効出願日を有するクレームを含む場合

 改正米国特許法第102条及び103条が適用されるとしても、改正前米国特許法第102条(g) [2]は以下の場合、出願における全てのクレームに対し適用される。

(ア)出願が、2013年3月16日以前の有効出願日を有するクレーム発明を含むか、過去のある時点において含んでいた場合、または

(イ)出願が、2013年3月16日以前の有効出願日を有するクレーム発明を含むかまたは過去のある時点において含んでいた継続出願、分割出願またはCIP出願としてかつて指定されていた場合

 なお、改正前米国特許法第102条(g)は同102条(g)が適用される出願から派生した特許にも適用される。

 

(d)陳述書の提出

 2013年3月16日を跨いで日本から米国に特許出願を行う際に、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレームを含む場合、所定期間内に陳述書を提出しなければならない(規則1.55,1.78)。これは、旧法を適用すべきか、新法を適用すべきかについて、審査官が容易に判断できるようにするためである。なお、明細書のみに新たな事項が追加されている場合は、特に陳述書を提出する必要は無い

 

 また、陳述書には、単に

「There is a claim in the nonprovisional application that has an effective filing date on or after March 16, 2013.」とだけ述べるだけでよい。新法クレームが何個あるとか、どのクレームが新法クレームか等は言及する必要が無い(規則1.55(j)の解説)。

 

 規則1.55(j)は以下のとおり規定している。

規則1.55(j) 2013年3月16日以降に提出された特定の出願についての要件

 2013年3月16日以後に行われた非仮出願が、2013年3月16日より前に出願された外国出願の優先権を主張し、かつ、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレーム発明に対するクレームを含むか、または、過去のある時点において当該クレームを含んでいた場合、出願人は、その趣旨での陳述書を、当該非仮出願の実際の出願日から4月、規則1.491に規定する国際特許出願の国内移行日から4月、先の外国特許出願日から16月、または、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレーム発明に対する最初のクレームが当該出願にて提示された日のいずれか遅い日以内に提供しなければならない。

 

 出願人は、規則1.56(c)(特許出願又はその手続の遂行に関与する個人)にて特定される個人に既に知られている情報に基づき、当該非仮出願が、2013年3月16日以降の有効出願日を有するクレーム発明に対するクレームを含んでいないか、何れの時にも含んでいなかったと合理的に信じる場合、当該陳述書を提供する必要はない

 

 また、一度当該陳述書を提出していれば、その後の利益を引き継ぐ出願において再度陳述書を提出する必要は無い(規則1.78(c)(6)(i))。上述した陳述書提出期間は延長できない点に注意すべきである(規則1.55(l))。

 

(e)優先権主張と優先権主張を行う場合の認証謄本の提出

 優先権主張に関する規則1.55についても数多くの改正がなされた。特に認証謄本の提出方法について、暫定写し(Interim Copy)の提出が認められる等の改正がなされた(規則1.55(i))。ただし、「外国出願の認証謄本」に関しては日本と米国との間に優先権書類交換協定が結ばれているため、USPTOに取得を求める請求を提出すればよく、実務上の影響は少ない。

 



[1] Riverwood Int'l Corp. v. R.A. Jones & Co., 324 F.3d 1346, 1354 (Fed. Cir. 2003);

[2] 旧102条(g):(1) 第135条又は291条に基づいて行われるインターフェアレンスにおいて,それに係る他の発明者が,第104条によって許容される限りにおいて,当該人の発明前に,その発明が当該他の発明者によって行われており,かつ,それが放棄,隠匿若しくは隠蔽されていなかったこと,又は(2) 当該人の発明前に,その発明が合衆国において他の発明者によって行われており,かつ,その発明者が放棄,隠匿若しくは隠蔽していなかったこと,を証明する場合。本項に基づいて発明の優先日を決定するときは,それぞれの発明の着想日及び実施化の日のみならず,その発明を最初に着想し最後に実施することになった者による,前記他人による着想の日前からの合理的精励も考慮されなければならない。

 

(第3回へ続く)

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