- 鈴木 祥平
- 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
みなさんは、サービサーという会社を聞いたことがあるでしょうか。サービサーというのは、「法務大臣の許可を得て設立された債権管理・債権回収の専門の株式会社」のことをいいます。
日本では、弁護士法の規制により「弁護士以外の者が債権者から委託を受けて取立て行為をしたり、債務者から弁済を受け取ったりすることを業として(=ビジネスとして)行うこと」が「禁止」されています(弁護士法72条)。これを「非弁行為の禁止」といいます。「非弁行為」とは、「弁護士以外のものが法律業務をビジネスとして行うこと」をいいます。なぜ禁止がされているかというと、人のトラブルに顔を突っ込んで不当に利益を上げることを防止するためです。
しかし、バブル経済が崩壊したあと、金融機関が膨大な不良債権(=回収しようとしても債務者がお金を持っていないので支払ってもらえない債権)を抱え込む事態になってしまいました。これを処理しないと「お金が新しい成長分野に回っていかないことになる」ので、日本の経済再生のために「不良債権の処理」(=債権の回収活動をきちんと行って、支払ってくれない企業には市場から撤退してもらう)が重要な課題となりました。
そこで、法務大臣の許可を受けることを条件として、民間の株式会社が債権管理回収業をできるようにしたわけです。これは、「弁護士法の非弁行為の禁止規制」を「解除」するものです。
ただ、これまで「債権回収の分野」に暴力団などの反社会的勢力が参入し、違法な債権回収行為がなされることが多かったことから、「債権回収業務の適正化を図る」ため、サービサーの許可の要件や、サービサーの行為規制、サービサーの管理体制を厳しく「サービサー法」に定めることにしました。
サービサー法においては、サービサーが取り扱うことができる債権は、一定の範囲のものに限られています。その一定の範囲の債権のことを「特定金銭債権」と言います。サービサー法が定めている「特定金銭債権」には、以下のような債権があります。
1.銀行等の金融機関・貸金業者が有する(有していた)貸付債権等
2.リース・クレジット債権等
3.特定目的会社(SPC)が流動化対象資産として有する金銭債権等
4.法的整理手続中の者が有する金銭債権等
5.保証会社(特定金銭債権に係る債務の保証を行うもの)・金融機関等が有する求 償債権等
6.いわゆるファクタリング業者がその業務として買い取った金銭債権
7.その他、政令で定める金銭債権
サービサーは、これらの「特定金銭債権」に該当しない債権については、債権管理回収業を行うことはできないことになっています。
このようにサービサーは、上記に定めた「特定金銭債権」の債権管理回収が本来業務となっています。
ところが、他方で、サービサーは株式会社ですから「利益を上げることを目的とする会社」、すなわち「営利企業」です。ですから、一定限度で他の業務を兼ねることも認めて「利益を上げることができる」ようにした方が望ましいということもできます。そのため、サービサーには本業である債権管理回収業務に支障がない範囲で、「法務大臣の承認を得た業務」について、兼業をすることが許されています。
では、サービサーはどのような業務を兼業しているのでしょうか。代表的なものとしては、「集金代行業務」というものがあります。サービサーが行うことのできる「集金代行業務」とは、「法的に争いがない(=事件性・争訟性がない)正常な債権について、債務者の任意の弁済を債権者に代わって受け取ること」に限られています。
「法的に争いがないもの」に限られているので、サービサーが「集金代行業務」を行う中で、トラブルが生じた場合には、サービサーは、債務者に対して履行の請求はせずに債権を回収を委託した者(=債権者)に債権を返さなければなりません。
たとえば、サービサーが債務者に対して支払いの案内を出す場合であっても、その内容は、「債務の残高などを伝えた上で、支払い先を事務的に案内する程度のものにとどめなければならない」と考えられています。
債務者が支払を拒む意思を明らかにしているにもかかわらず、サービサーが債務の支払い要求をした場合には、弁護士法第72条(非弁行為)に抵触するおそれがあります。
実際には、以下のような行為を行うサービサーが出てきており、「サービサー法」を所管する法務省から業務改善命令が出されたことがあります。
(1)弁済を延滞した債務者に対して、約束どおり弁済するように促す。
(2)弁済金額の増額や減額を提示して弁済を求めるなどの請求を行う。
(3)約束どおりに弁済をすることが困難である申し出た債務者に対して、具体的な弁済計画を定めた後に連絡するように申し向ける。
(4)約束どおりに弁済を行わないことを非難する発言をする。
(5)債務者から一方的に電話を切られるなど、債務者がサービサーからの支払案内を拒む意思がうかがわれるものや債務の存在について争っていることが明らかな事件性や紛争性がある債権であるのに委託者へ債権を返却していない。
以上の説明したとおり、「サービサー」の本来の業務は、「特定金銭債権」の「債権管理回収業務」ですが、法務大臣の承認を受けた場合には、本業と兼ねて「集金代行業務」を行うことができます。
ただ、「集金代行業務」として許されているのは、「法的に争いがない正常債権についての弁済を代わりに受領する行為」に限られます。このような「法的争いがない正常債権の受領事務代行」という枠を超えて、トラブルが生じているような状況で、債務者に対して支払いの要求を行うことは、弁護士法72条が禁止する「非弁行為」に該当するおそれがあります。とはいっても、どこまでがサービサーに許されている受領代行業務なのか、履行の請求にあたるのかについては、線引きが難しいグレーゾーンであると思われます。
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