堀江 健一
ホリエ ケンイチグループ
ハーモニー1 周囲と同化してしまう安心感と個性を保つ不安
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ハーモニー
小説家 伊藤計劃氏の作品を元にした2015年11月公開の近未来SFアニメーション劇場作品です。
未来のアメリカで、暴動やウイルスのために大勢の人が亡くなったことをきっかけに、先進国の政府では人類の人体に「ウォッチ・ミー」と呼ばれるチップを注入し、データ化し、データを受け取る中枢機関で人間の健康状態や行動をモニターし、コントロールするようになりました。
おかげで寿命は飛躍的に伸び、犯罪も無くなり、自殺でもする以外にはほとんど死ぬこともない理想の(?)社会が実現しました。
日本と思われるとある女子高校であった御冷ミァハは、
そんな人権が無視され個人の自由が制限された社会に疑問を持ち、
友人であった霧慧トァンと零下堂キアンと共に
「自殺する」と言う形で社会に抗議しようとしますが、
実際に亡くなったのはミァハだけでした。
しかし、実はある研究のためにミァハは死んだ事にされただけで生きていたのです。
3人は数年後再会することとなります。
ミァハは、テロ集団の一員として。
トァンは、政府の世界保健機関(WHO)螺旋監察事務局の上級監察官として。
キアンは、政府の健康政策の恩恵を受けている一般市民として。
ちなみに螺旋とは遺伝子の二重螺旋を意味するものです。
ミァハは、政府に対し、衝撃的な世界的テロを実行し、トァンは彼女を追う身となります。しかし政府はテロ対策として、人類の意思を一つに統一してしまう「ハーモニープロジェクト」を準備していたのです。
テロは阻止できるのか?ミァハとトァンの運命は?
ハーモニープロジェクトは発動されてしまうのか?
ハーモニー
ギリシャ語が起源で「一致 連結」を意味し、日本語では「調和」と言う意味で使われることが多い言葉です。
美しい響きを持つ言葉ですね。調和が取れている世界。大抵良い意味で使われるかと思います。
コーラスなどでは、個人個人の歌声が混ざり合い、一つの調和した歌声となります。そこでは個人の声は主張しませんが、集団の塊の声として響き渡ります。
でもこの作品では
調和が取れている世界=個人の個性や自由が剥奪された大きな全体の塊でしかない世界を意味しています。
主人公達が出会うのは、高校時代で、みな制服を着ています。
学生は制服を着ることで、個人としての存在感は希薄になり、「学校の中のとある一人の生徒」と言う一つの記号と化します。
みな同じ制服を着ることで、個人は集団の中の一人として「一致」するわけです。
そうした没個性化することで、「私は、みんなと同じ」と、
集団の中に埋没することで安心感を感じる人もいるでしょう。
中には、少しでもいいから個人として主張したい!目立っていたい!」と思う人もいるでしょう。
昔は制服のスカートをかなり長くすることで、学校と言う管理社会に抗議しようとする(単に反抗する)女子が多かったものですが、暫く前からはミニスカート化することで、自分の「カワイラシサ」を強調する傾向があるかと思われます。
学校生活の中で最もエネルギーを使うのは、勉強ではなく権力闘争だったりするかも知れません。学校のカイダンで描かれたような、いじめるかいじめられるか?
どれだけ良い成績を取ったり、スポーツや部活で実力を発揮して学校のピラミッドの上の方にいられるか?
そんなことにエネルギーを使う人もいるでしょう。
そうでない人は、いかに目立たない存在でいるか、
息を殺してじっとしているかが、身の安全には必要な生活態度になってしまうかも知れません
。なるべく全体に同化して、存在を消しておきたいと考える人には、この「ハーモニー」のウォッチ・ミーを注入される世界はとても平和な世界と感じられるかも知れません。
「自分は他の人と比べた時に、違ってしまっているところはないかしら?変なところがないかしら?おかしくないかしら?」
そんな不安を強く感じてしまうこともあることです。
それが強迫的になってしまう「視線恐怖」と言う神経症があります。
周囲の人たちが自分を見て「変な人がいる」と笑われているように感じたり、
悪意の目を向けられているように感じてしまうのです。
その不安が高じてしまうと、もう外の世界は恐怖の世界と化し、引きこもりになってしまったりします。
なんと生き難い世界でしょう。
しかし、実際には街中や電車の中でも、人のことなんか気にして、そうそうジロジロ見たりはしないものです。
しかし一瞬で人を観察することも実際あるわけで、感受性が強い人は、その一瞬でまるで
自分がスキャニングされたように感じてしまうこともあるのです。
そして人は優劣を付けて人を判断する傾向が強い人もいるので、「あぁ私は下に見られたな」と思うこともあるのです。
しかし、すれ違う人がみんな「みんなが私を見て笑っている」と感じるのは自意識過剰ではあるのかも知れません。
「みんなに好意的に見て欲しい。みんな私のことを好きになって欲しい」と言う
やや極端な願望の裏返しであることもあるようです。
すべての他人から好かれることなんて無理なのに。
逆に個人として目立っていたい、「私は人と違う」と思っていたい人でも、アーチストタイプの人は別かも知れませんが、大抵の人は「目立ちたいけれど、変な人とは思われたくない」でしょう。
流行のファッションに身を包み、周囲の人と差をつけて目立ちたいと思うことはあっても、
それはあくまで「流行の服」と世間が認めたおしゃれな服を身にまとうのであって、
本当に誰一人着ていない、自分が創った自分だけが着ている服を着ていたい、とは思わないのではないでしょうか?
せいぜいみんなが使っているスマホを買って、でも個性を主張もしたいから自分らしい「スマホカバー」を装着している程度かと思います。
一見、真逆のような二つのタイプですが、どちらも集団の平均的な価値観から外れてしまうことにはとても不安があるのだと思います。
「私を見て欲しい」「みんなに好かれていたい」
と言う共通する集団的無意識的な願望があるのですね。
もし、ハーモニープロジェクトが発動されたら、
「私はみんな、であり、みんなは私となる」
のでしょうから、もうそんな願望を抱く必要も無く、悩む人もいなくなるのでしょう。
しかし、それが果たして幸福な事なのか?
そんな色々な事を考えさせてくれる映画です。
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