- 塚本 有紀
- フランス料理・製菓教室「アトリエ・イグレック」 主宰
- 大阪府
- 料理講師
対象:料理・クッキング
- 黄 惠子
- (料理講師)
フランス菓子がお好きな方なら、プラリネpralinéというペースト状の素材をご存じではないでしょうか。これはアーモンドやヘーゼルナッツにキャラメルがけして砕き、ペースト状になるまでローラーにかけたもの。家庭で作ることもできますが、買うほうが普通だと思います。
さてこのプラリネのもととなる、「キャラメルがけしたアーモンド」をプラリーヌpralineとよびます。そのままボンボンとして食べたり、ケーキの飾りに使ったりもします。
さて今回は、このプラリーヌの発祥の街、フランスのモンタルジーへ行って来ました。モンタルジーMontargisはパリから電車で1時間半ほど南に行ったところにある街です。セーヌとロワールを結ぶ運河が街を走り、美しいところ。
昔むかしプレシ・プララン伯爵Comte du Plessis-Plaslin(1598〜1675)が、王党軍の指揮者としてボルドー市へ入城できなかった時、話し合いのためにボルドーの幹部をモンタルジーへ招いて宴会を催したのだそうです。そのとき料理長が鍋に残っていたカラメルにアーモンドを入れて作ったデザートを、伯爵の名前プラランにちなんでプラリーヌと命名し、好評を得たのだとか。
プラリーヌを砕いたもの、あるはペースト状にしたものはプラランpralinと呼ばれるようになったそうです。これはプラリネと同義で、今では圧倒的にプラリネと呼ぶことのほうが多いと思います。今もこの流れを汲むコンフィズリー(糖菓屋)がモンタルジーの街にあるマゼMazetです。
http://www.mazetconfiseur.com/
じつはモンタルジーに行けば、あちこちのお菓子屋さんで競うようにプラリーヌを作っているに違いないと楽しい想像を巡らせていました。ところが出発前にモンタルジー市のホームページをチェックしましたが、どこにもプラリーヌの文字さえなく・・・。
発祥の街なのに、このマゼしかない、というのが行ってみて分かったこと。しかし店内はシックで美しく、老舗の風格が漂います。銘菓のプラリーヌは一般的な呼び方であるPRALINESではなくPRASLINESと表記されています。材料はアーモンドと砂糖、ヴァニラとアラビアゴムのみ。375年間オリジナルのレシピを守り続けていると、お店のパンフレットには書かれています。
発祥のプラリーヌは素朴でおいしいのですが、それ以外のコンフィズリーも素晴らしく上質なものばかりでした。アーモンドのチョコレートがけはもちろんのこと、ヘーゼルナッツのミルクチョコレートがけやオレンジピールの香りのするもの、ジャンドゥージャで包んだもの、生姜のコンフィをチョコレートでかけたものなどいろいろでしたが、とくにヘーゼルナッツ入りが秀逸。端から試食させてもらいました。
この手のお菓子はどこにでも売っているし、誰が作ってもそれなりにおいしいものですが、マゼのものはナッツの選定、煎り加減、微妙なチョコレートのかかり具合や種類の変え方など、さすがに吟味されたものであることが実感できます。
さてこの街でもう一つおもしろかったのは、教会にあったステンドグラスです。マゼはミラボー広場に面していますが、同じ広場にサント・マドレーヌ教会があります。
ここにはなんと「日本で布教するフランシスコ・サビエル」のステンドグラスがあるのです。同行者がテレビ番組で見たからと、教えてくれました。着物の女の人、ちょんまげの町人、お侍さん(ちょっと今流行のゲームに登場しそうな出で立ち!)など日本人に向かって、ザビエルが布教している様子です。ザビエルは若い頃パリ大学に留学していたようですが(そういえばパリのメトロに「サン・フランソワ・グザヴィエSaint-Francois-Xavier」という駅があります)、スペイン生まれ。ポルトガル王の依頼で日本へ派遣されたザビエルの姿がなぜフランスの小さい街の教会にあるのでしょうか。なんだかとても不思議で興味深く、思いがけず美しいものを見せてもらいました。
じつはわざわざモンタルジーまで行かなくても、最近パリにも支店ができました。それはともかく、帰国するときシャルル・ド・ゴール空港に戻ったら・・。売店には、山のようなプラリーヌが売られていて、うれしいのか悲しいのか微妙な気分。でもこれからはいつでも買うことができるのです。軽くておいしいので、お土産にも最適。そして添える言葉は「これはね、フランスで最初にできたプラリーヌなのだよ!」
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