その方は「人事部門の人とはあまり付き合いたくない」とおっしゃっていました。何故かを伺うと、「ろくに面識が無い人が自分の評価や個人事情を知っていることが嫌だ」とおっしゃっていました。私は歴史ある大企業での人事経験は無いのですが、その方に伺った限りでは人事は会社の中でも特別な位置づけで、社内でも人事は人事同士でしか付き合いが無い、などとおっしゃっていました。
別の方で、人員整理などリストラ経験がある方に伺ったときは、人を追い出す仕事をしたのに自分だけ会社に残ることは自分自身の心情としても許されず、すべて片付いたときに自分も辞めた、という話を伺いました。自分としてもけじめが付かないし、恨みもかいたくなかったとのことでした。
人事部門の大きな役割として、会社の人的リソースが如何に最大の力を発揮できるような環境を整えていくかということがあるので、そんなに嫌われる存在では大事な役割をこなすことが出来ないはずです。自分の経験として、好かれる存在とはいえなかったかもしれませんが、そこまで煙たがられる存在だった経験も無く、社内のいろいろな人と幅広く付き合い、相談も受け、一緒に遊んでいました。私がシステム開発の現場出身ということもあったのかもしれません。
「嫌われる人事」の話を聞いて、なぜそんなことになるのかをいつも考えていたのですが、私の中での結論は、会社が人事の位置づけをどう考えているのかに尽きると思っています。本来人事部門というのは、人という切り口で経営と社員を繋ぐ立場であることが理想だと思いますが、人事という仕事は経営と近いところで動くことも多く、社員にとってマイナスに働くことでもしなければならないことがあります。内部的な情報に触れ、個々の社員の身の上に関わるようなことを決めなければならないこともあります。会社が経営的な都合だけで人事部門を利用しようとすれば、社員から遠い存在になってしまうのは当然でしょうし、経営環境が厳しい昨今ではそのような傾向が強まっているように思います。また企業規模が大きくなり、組織化が進むほどに現場と人事部門の距離は遠くなり、同じような傾向が強くなっていくようにも思います。
どんな部門においても、組織に属している限りは多かれ少なかれあるのかもしれませんが、特に人事部門においては、そこに属していながら自分の信条に合った動きを取り続けるのは難しいことなのかもしれません。それでも本来の役割を考えれば、経営からの要求に対して強く物申すことも、時には必要だと思います。私自身が組織に属している時に、そのような行動ができていたかといえば全く不足だったと思いますが、現場の人たちが持っている気持ちから遠ざかることだけは絶対しない、という信条は忘れたことがありません。
人事部門が人を扱う仕事である限り、単純に嫌われる存在であってはならないということだけは強く思っています。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
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