立場が違うとどうにもかみ合わない「残業代」に関する議論
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少し前のことになりますが、「残業代を求める若者は社会をなめているのか?」というウェブ記事を見ました。
日本生産性本部ほかの団体が、新社会人を対象に実施した「働くことの意識」調査で、「残業についてどう思うか」という質問に対して、「手当がもらえるならやってもよい」と答えた若者が約7割と過去最高だったということです。
一方で「手当にかかわらず仕事だからやる」は下降線をたどっていて今回は2割ほどにとどまったそうで、「残業はいとわないが、それに見合った処遇を求めている傾向がうかがえる」とする報告をまとめています。
これに対してネット上などでは、「給料をもらえない分まで仕事する意味がわからない」などの意見がある一方で、「残業代が欲しいなら、残業代が払えるほど利益を会社に与えろ」「まだロクに仕事も覚えてないのに…」「社会なめすぎ」といった意見もあったようです。
私は、残業代は法律で認められたものですし、働かせなければ払う必要はないですから、新入社員が残業代をもらうことが社会をなめているとは思いませんが、人によってはいろいろな捉え方があるようです。
ここ最近、残業時間の上限規制の話や、ホワイトカラーエグゼンプション(いわゆる労働時間規制の緩和)の話も、相変わらず法制化を進める動きが続いていますが、これらの話が具体的になればなるほど、経営者と労働者の間での残業代に関する認識ギャップの深さを感じます。
私は人事が専門の立場ですので、残業問題は常に身近にあることでした。
残業代の話でいつも感じていたのは、どんな人に聞いても「自分以外の誰かの働き方に問題がある」という話になることでした。
経営者の場合は、「残業するのは仕事の効率が悪いからだ」「必要な残業があるのはわかるが、それも含めた総合的な成果に対して報酬を払うべきだ」などという人がほとんどです。「だらだら時間ばかりかけて仕事をする奴に余分な給料なんて払いたくない」というのが本音だろうと思います。
経営者自身が時間換算で働くことは基本的にありませんから、「労働時間に応じた報酬」という考え方自体が受け入れがたいようです。経営者団体の労働時間法制に関する主張も、ほぼ同じようなニュアンスを感じます。
この話を社員に向けてみると、やはりほとんどの人は、「ムダな残業はするべきでない」「仕事ができない人間の給料が増えるのは納得できない」と言います。
そして「大した仕事もないはずなのに、何で毎日遅くまで残っているのか」「生活残業ではないか」などと他人の仕事ぶりを指摘しますが、そんな人に限って「ではあなたは・・・?」と問いかけると、自分自身が非効率な残業をしている自覚があるという人はほとんどいません。他人の残業は生活残業や非効率な残業で、自分の残業は仕事量に応じたやむを得ない残業ということです。
こうやってみると、経営者の主張も、社員の指摘も、どうも「自分以外の誰かが悪い」と言い合っているだけで、自分の立場中心の話ばかりをしている感じがします。
残業代など払う気もないブラック企業もありますし、非効率な働き方で残業代を稼ぐ社員もいるでしょうが、それは一部に限られた話です。しかし、こんな極端な例も含めて、経営者と労働者がそれぞれ都合の良い解釈で、良いとか悪いとかという話をしています。
今のままで話を続けても、きっとかみ合わずに中途半端な落としどころで終わってしまうと思います。
実際、残業上限時間の話は、時間数の線引きの条件闘争になってしまいましたし、「働き方改革」の話も、最近は労働時間管理の話ばかりで、“より良い働き方”という肝心の話からは離れてしまっています。
経営者が経営効率を求めるのは当たり前ですし、法律で決められた残業代を払うことも、これまた当たり前のことです。
また、社員の側も、自分の能力を上げる努力や成果につながる働き方をすることが、巡り巡って自分のプラスになるはずです。
このあたりは、お互いの利益主張ばかりでなく、もう少し建設的な議論ができないものかと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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