昨年のことですが、あるプロ野球チームのベテラン選手が、選手登録を抹消された理由を自身のフェイスブックに書いたことが話題になっていました。
「降格の仕方がパワハラ的だ」という監督批判と、その逆に「愚痴をネットで言うのは良くない」という選手批判の両方があったようです。
「パワハラ」というのは、事実関係がどうあれ、受けた人がそうだとと感じてしまえば、それは「パワハラ」になってしまいますが、この「パワハラ」について調べてみると、労働局への相談件数で「職場のいじめ・嫌がらせ」という項目が、平成24年度に初めて5万件を超えたとのことで、この状況はやはり大きな社会問題だと思います。
しかし、このプロ野球で起こった話は、一般的な企業や組織でいわれている「パワハラ」とは少し状況が違うように思います。プロ野球の監督と選手の関係を、ついつい企業の上司部下の関係と同じように思ってしまいますが、この点がかなり違うと思うからです。
まず、監督も選手と同じく球団とは契約関係の身であり、成績によってはいつクビになるかわかりません。さらに選手との力関係でも、監督よりも年俸が高い選手はたくさんいるし、スターはあくまでも選手です。監督と折り合いが悪かったとしても、実力があれば他チームに移籍することも可能です。
監督は選手起用に関する権限を持っていて、選手との間には一定の上下関係があるでしょうが、成績が悪ければ、監督の方が先にチームを追い出される事もあり得ます。監督が身分安泰の絶対権力者ではないということです。
これに対して、一般的な企業や組織の場合、上司部下の力関係では確実に上司の方が上ですし、部下の方も上司と折り合いが悪いからと言って、他の企業や組織に移るのは、そう簡単なことではありません。上司より部下の給料の方が高いなどということも、特に日本企業の場合はまだまだ稀でしょう。
こんなところから考えると、一見上下関係が厳しそうなプロ野球より、企業の方がはるかに上司部下の力関係の差が明確であり、「パワハラ」を産みやすい環境といえるのではないかと思います。
このところ、パワハラが原因での自殺という報道をいくつか耳にし、そこで多かったのは警察や自衛隊などで起こった事例ですが、これらの組織は比較的上下関係が厳しく、上司に対して意見が言いづらい風土があるのではないでしょうか。
その一方で、最近はごく普通の業務指示と思うことでも、ちょっと厳し目に注意しただけで、部下の側から「パワハラだ」などと言われるケースが増えていると聞きます。
こんなことを聞いていると、どちらが良いとか悪いとか一概には言えず、ついついどっちもどっちと思ってしまいますが、パワハラ自殺などという事態にまで発展してしまうというのは、やはり力関係が上である上司の側に問題が多いと言わざるを得ないでしょう。
ある調査では、パワハラに関する相談件数が多い職場に共通する特徴として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない」という結果がありました。
お互いを尊重したコミュニケーションを取るということが、まずは問題解決に向けた第一歩ということなのだろうと思います。
「コミュニケーションが良くない」という点は、今回のプロ野球の件でも共通しているのかもしれません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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