「アイツは能力が低い」「仕事ができない」と、他者の「能力不足」を批判する声というのは、程度の違いはあっても、ほぼすべての企業で聞かれるものです。この指摘のすべてが間違っているわけではないと思いますが、一方で私は「度量不足」ということを感じます。
“度量”とは、辞書によれば「他人の言行をよく受けいれる、広くおおらかな心」とあり、同じような意味の言葉では、“器の大きさ”“寛大さ”“ 寛容性”“ 包容力”“心の広さ”“慈悲深さ”“懐の深さ”などが出てきます。
要はその「能力不足」の人に対する、仕事を与える側、指導する側、雇っている側の姿勢や態度にも問題があるのではないかということです。
確かに今のビジネスの世界では、スピードは速いし結果もシビアに問われるので、やむを得ない面はありますが、大して教えもせず、フォローもフィードバックもせず、自力で出来ないから「能力不足」だといい、すぐに「使えないから辞めさせろ!」などと言います。あまりにも見切りが早くて無責任な感じがします。
また、そういう言い方をする人は、おおむね「自分はできる」という自負を持っています。しかし第三者として客観的に見ると、ある一面ではそうであっても、できていないこともまだまだたくさんあります。たまたま顕在化した部分はできていたというだけで、それをよりどころにして他者攻撃をしているだけです。自分のことを謙虚に客観視できていません。
人によって「能力不足」は確かにあるし、本人が自覚して努力、克服することが最も必要ですが、会社にもその人を採用した責任があります。能力の見込み違いは自分たちのせいであり、成長速度が遅いのは、周りの指導に問題があるかもしれません。成果を出しづらい仕事を与えているかもしれません。これを棚に上げて排除しようとするのは、やっぱり「度量不足」と言わざるを得ません。
「度量不足」は「能力不足」の陰に隠れてしまいがちですが、これを自覚できないと、他者攻撃をして人の見切りが早い企業風土がどんどん定着していきます。そして組織内での他者攻撃は、確実に業績の足を引っ張ります。
もしも自社に気になる点があるならば、一度じっくり見なおして頂ければと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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