特定調停のメリット、デメリット - 事業・企業再生戦略 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:事業再生と承継・M&A

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

特定調停のメリット、デメリット

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 事業再生と承継・M&A
  3. 事業・企業再生戦略
債務整理

2 特定調停のメリット

(1) 費用

 私的整理の場合と比較した場合,私的整理は,経営者自身で行うことは一般に困難であり,代理人として弁護士を選任する必要がありますが,特定調停は,弁護士や公認会計士やその他の専門家などの調停委員の助けを借りながら自ら貸主と交渉することで,その手続を行うことができます。   

したがって,弁護士費用をかけずに経営者本人が手続を行うことも可能です。

 ただし,私的整理の場合にはなかった,調停申立てに際しての手数料と郵便切手が必要になります。手数料の額は,紛争の対象となっている金額によって異なりますが,その額は,訴訟の場合よりも安くなっています。例えば,紛争の対象の額が30万円の場合には申立手数料は1,500円に,100万円の場合には5,000円になります(民事訴訟費用等に関する法律3条1項参照)。裁判所に予納する郵便切手は,関係者に書類を送るためなどに使います。予納郵便切手の金額は,相手方の人数や書類を送る回数などによって異なりますので,申立書を提出する裁判所に問い合わせて下さい。

 もっとも,管財人(破産,民事再生,会社更生)または監督委員(民事再生)などの場合と異なり,管財人等の報酬にあてられる多額の予納金は必要ありません。

(2) 公正かつ妥当で経済的合理性を有する再建案

 調停委員会が特定調停に係る事件の当事者に対し調停条項案を提示する場合には,当該調停条項案は,特定債務者の経済的再生に資するとの観点から,公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならないとされます(特定調停法15条)。

 また,調停委員会は,当事者の共同の申立てがあるときは,事件の解決のために適当な調停条項を定めることができますが(特定調停法17条1項),調停条項は,特定債務者の経済的再生に資するとの観点から,公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならないとされます(特定調停法17条2項)。

 そして,裁判所は,調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは,当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で,当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件の解決のために必要な決定をすることができます(民事調停法17条 実務上,「17条決定」又は「調停に代わる決定」と呼ばれています。)が,特定調停法17条2項の規定は,特定調停に係る事件に関し裁判所がする民事調停法17条の決定について準用されています(特定調停法20条)。

 したがって,債権者,債務者双方にとって,公正かつ妥当で経済的合理性のある再建案の成立が期待できるというメリットがあります。

(3) 債務名義の成立

特定調停に代わる決定に対して,当事者は決定の告知を受けた日から二週間内に異議の申立てをすることができ,その期間内に異議の申立がないときは,特定調停に代わる決定は,裁判上の和解と同一の効力を有することになります(民事調停法18条)。また,調停が成立した場合も裁判上の和解と同一の効力が認められます(民事調停法16条)。

したがって,調停ないしこれに代わる決定を得た債権者は,強制執行を行うことができます(民事執行法22条7号)から,合意された弁済計画について履行確保が法的に担保されることになります。

(4) 民事執行手続停止の制度

 特定調停に係る事件の係属する裁判所は,事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において,特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき,又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは,申立てにより,特定調停が終了するまでの間,担保を立てさせて,又は立てさせないで,特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができます(特定調停法7条)。

 民事調停手続においても,民事執行手続停止の制度が設けられていますが(民事調停規則6条),特定調停においては(ⅰ)「担保」を「立てさせないで」民事執行手続停止の余地を認めている点,(ⅱ)「調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき」のみならず,「調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるとき」にも民事執行手続停止が認められる点につき,通常の民事調停の場合よりも拡充が図られています。

(5) 管轄・移送・併合

 特定調停手続においては,多数の債権者が存在する場合に一括して処理できるように,土地管轄や移送の要件が緩和されたり(特定調停法4条,5条),手続の併合についての規定が設けられたりしています(特定調停法6条)。

 したがって,私的整理の場合に弁護士が個々の債権者と個別に交渉機会を確保しなければならないのに比べて,複数の債権者との交渉をよりスムーズに行うことができるといえます。

 

3 特定調停のデメリット

(1) 債権者の同意が必要

 再建案の遂行のために債務の減免等の同意を得る必要がある債権者の同意が得られなければ,再建案の実効性に欠けることとなります。

(2) 強制執行の可能性

 特定調停では,任意整理とは異なり,債権者に調停調書などの債務名義が与えられます(民事調停法16条,18条,民事執行法22条7号)ので,返済が滞った場合,債権者が調停調書に基づいた強制執行を行うことがあり得ます。

 

 

 

 

このコラムに類似したコラム

特定調停 村田 英幸 - 弁護士(2012/01/22 07:03)

事業再生ADR 村田 英幸 - 弁護士(2012/01/22 09:10)

特別清算のメリット、デメリット 村田 英幸 - 弁護士(2012/01/22 07:29)

私的整理ガイドライン 村田 英幸 - 弁護士(2013/04/15 07:17)

「中小企業のための金融円滑化法出口対応の手引き」 村田 英幸 - 弁護士(2013/04/08 16:52)