早わかり中国特許:第16回 出願から登録までの手続概要 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第16回 出願から登録までの手続概要

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第16回 出願から登録までの手続概要

河野特許事務所 2012年10月18日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年8月号掲載)

 

1.前回に引き続き出願から登録までの流れを説明する。今回は実体審査後に審査意見通知が発行された場合の手続、前置審査、復審委員会での審理内容について解説する。 

 

2.出願から特許成立までの流れ

 参考図1は発明特許出願から登録までの流れを示す説明図である。

 

 参考図1 発明特許出願から登録までの流れ

 

(1)実体審査に移行する旨の通知

 実体審査請求が行われ、審査官が審査に着手する場合、事前に実体審査に移行する旨の通知が出願人になされる。この場合、当該通知書を受領した日から3ヵ月以内に、発明の特許出願について自発的に補正することができる(細則第51条第2項)。この期間を逃すと後に自発補正ができなくなるため、請求項の範囲を拡大する補正等は当該期間内に事前に行っておくことが必要となる。

 

(2)審査意見通知の受領

 国務院特許行政部門は、発明特許出願の実体審査を行った後、本法の規定に適合しないと認めた場合は、出願人に通知し、指定期間内に意見を陳述し、またはその出願について補正を行うよう指令しなければならない(専利法第37条)。

 審査官は審査意見通知書において、応答期限を指定する。当該期限は、審査官が出願に関連している要素を考慮した上で確定する。これらの要素には、審査意見の数と性質、出願で補正となり得る作業量または複雑さ等がある。

 第1回審査意見通知書に対する応答期間は一般に、審査意見通知書の発送日から4ヵ月である(審査指南第2部第8章4.10.3)。また第2回目以降の審査意見通知書に対する応答期間は一般に2ヵ月与えられる(審査指南第5部分第7章)。これは、2回目以降は既に争点が明確化されているため、短い期間としたものである。ただし、翻訳及び引用文献の分析等の期間を考慮すれば2ヵ月という期間は短いため、迅速に対応する必要がある。出願人が正当な理由なく期間を経過しても応答しなかった場合は、その出願は取り下げられたものとみなされる。

 中国の審査官は拒絶理由毎に審査意見を通知することが多い。すなわち、拒絶理由の主なものとして、記載不備及び創造性欠如の2つがある。これら拒絶理由をまとめて通知することは少なく、むしろ第1回審査意見通知書にて記載不備を指摘し、第2回審査意見通知書にて創造性欠如を指摘することが多い。なお、審査意見通知を受けた場合の補正要件については別途詳述する。

 

(3)期間の計算

 出願人による意見書または補正についての応答期限は、出願人が審査意見通知書を受領したと推定される推定受取日に基づき計算される。ここで推定受領日は受領推定15日と設定されている(審査指南第5部分第7章2.1)。例えば、2001年7月4日が第1回審査意見通知書の発行日であるとする。ここで、郵送による期間を考慮した推定受領日は、15日後の2001年7月19日となる。当該推定日から4ヵ月後の2001年11月19日が応答期限となる。

 

(4)期間の延長

 上述した応答期間は延長することができる。特に日本企業は翻訳の期間が必要となるため、期間延長を請求することが多い。請求できる期間の延長は指定期間に限られる。ただし、後述する無効宣告手続において復審委員会が指定した期間は延長することができない。

 期間延長を請求する場合、期間が満了する前に延長の理由を記載した期間延長請求書を提出しなければならない。期間延長の際には期間延長請求費を納付しなければならない。米国と異なり期間満了前に延長請求を行うことが必要である。

 期間の延長は月単位で計算され、最大2ヵ月である。同一の審査意見通知において指定された期間に対する延長は一般に一回に限られる(審査指南第5部分第2章4.1)。

 

(5)面接審査

  中国においても知識産権局における面接審査が認められる(審査指南第2部分第8章4.12)。審査手続を加速化するために、審査官から出願人に面接審査を要請することができ、また電話を通じた討論も行うことができる。

 出願人側も面接の要請を行うことができる。審査官が面接を通じて有益となる目的を果たすことができると判断した場合に限り、面接審査が認められる。それ以外は、審査官は面接審査を拒否することができる。実務上は日本及び米国と異なり、面接審査が認められることは少ない。むしろ電話討論で済ませることが多い(審査指南第2部分第8章4.13)。

 面接審査が認められる条件は以下のとおりである。

(i)審査官がすでに第1回審査意見通知書を発行しており、かつ

(ii)出願人が審査意見通知書の応答と同時にまたはその後に面接の要請を申し立てている、若しくは、審査官が案件の事情に応じて出願人に面接を要請している。

 面接は知識産権局専利局で指定された場所で行わなければならない。審査官はそれ以外の場所で出願に関する事項について出願人との面接を行ってはならない。

 一般に面接に参加する事のできる人数は2名に限られる。共同出願の場合、会社数に応じて参加人数を増加することができる。

 審査官は、討論した問題点、結論、同意した補正の内容等を面接審査記録として明記する。面接審査記録は出願ファイル内に保存される。面接審査において、どのように補正するかについて合意したとしても、出願人は改めて正式な補正書類を提出しなければならない。

 

(6)特許査定

 実体審査の結果、出願が専利法及び実施細則の規定に合致している場合、審査官は発明特許権付与通知書を発行する。国務院特許行政部門は発明特許証書を公布し、同時にそれを登記して公告する(専利法第39条)。発明特許権は公告の日より効力を生じ、存続期間は出願日から20年である(専利法第42条)。なお、実用新型特許権及び外観設計特許権の存続期間は出願日から10年である。

 実体審査請求を行ってから公告されるまでの平均審査期間は2011年度で22.9ヵ月である。知識産権局は審査官を増員し2015年までに22ヶ月以内に短縮することを目標としている。なお、実用新型特許出願については出願から登録まで平均4.7ヵ月、外観設計特許については平均2.6ヵ月で登録される。

 

(7)拒絶査定

 日本と異なり、中国の審査意見通知書には、最初の拒絶理由と最後の拒絶理由という概念はなく、また、審査意見通知書が発行される回数にも決まりはない。審査官が拒絶理由克服の見込みがないと判断した場合、駁回決定(以下、拒絶査定)を行う(専利法第38条)。3回または4回審査意見通知書を発行しても拒絶理由が解消しない場合に拒絶査定となることが多い。特許出願人が国務院特許行政部門の拒絶査定に不服があるときは、通知を受領した日から3ヶ月以内に特許復審委員会に復審(拒絶査定不服審判)を請求することができる(専利法第41条)。

 なお初歩審査における補正命令に対し、不備が解消しない場合、出願が却下される。当該出願決定に対しても復審委員会に復審を請求することができる(審査指南第1部分第1章3.6)

 

(8)前置審査

 復審が請求された場合、復審委員会は受理した復審請求書を国務院特許行政部門の元の審査部門に移送し、前置審査を行わせる(実施細則第63条)。日本と異なり、補正の有無にかかわらず審査を行った元の審査部門が再度審査(前置審査)を行う。

 元の審査部門は、前置審査意見を提出し、前置審査意見書を作成しなければならない。特別な場合を除き、前置審査は案件ファイルを受け取った1ヶ月以内に完成しなければならない。

 前置審査意見は以下の3つの類型に分けられる。

 

(i)復審請求が成立し、拒絶査定の取り消しに同意する。

(ii)復審請求人が提出した出願書類の補正書は、出願中に存在した欠陥を克服しており、補正文書に基づいた拒絶査定の取り消しに同意する。

(iii)復審請求人が陳述した意見及び補正書は、拒絶査定を取り消すに足るものでないため、拒絶査定を維持する。

 

 元の審査部門は、その前置審査意見が前述した類型のどれに該当するかを説明する。ここで、拒絶査定を維持する場合、維持している各種拒絶理由及び個々の欠陥について見解を詳細に説明する。

 復審請求人が補正書を提出した場合、元の審査部門は再度審査を行い、審査した結果、補正が新規事項追加等の要件に反しないと判断した場合、補正書を基礎にして前置審査を行う。元の審査部門は補正が新規事項追加等の要件に合致しないと判断した場合、拒絶査定を維持する。そして補正要件に合致しないとの見解を詳細に説明するとともに、拒絶査定の対象となる出願文書における各種拒絶理由に関連している欠陥を説明する。

 復審請求人が新たな証拠を提出するか、若しくは新たな理由を陳述した場合、元の審査部門は当該証拠または理由を審査する。

 前置審査において、拒絶査定の取り消しに同意する場合、復審委員会は合議審査を行うことなく、前置審査意見に基づいて復審決定を行う。復審決定は、復審請求人に通知され、元の審査部門は審査許可手続を進めることとなる。

 

(9)復審(拒絶査定不服審判)

 前置審査により拒絶理由が解消しない場合、合議体による審理が行われる。審理の結果、復審請求が専利法及び実施細則の規定に合致しない場合、復審請求人にその旨が通知される。復審請求人は、指定期間内に意見を陳述することができる。当該指摘管内に回答がない場合、復審請求が取り下げられたものとみなされる。

 意見陳述または補正によっても、復審委員会が依然として専利法及び実施細則の規定に合致しないと判断した場合、元の拒絶査定を維持する決定がなされる(実施細則第63条第1項)。

 一方、復審委員会は審判の審理後、元の拒絶査定が専利法及び実施細則の関係規定に合致しないと判断した場合、または補正により欠陥が除去されたと判断した場合、元の拒絶査定を取り消す。事件は元の審査部門に差し戻され、審査が継続して行われる(実施細則第63条第2項)。なお、復審における具体的な手続については回を改めて説明する。

 特許出願人は復審委員会の決定に不服がある場合、通知を受領した日から3ヶ月以内に人民法院に提訴することができる(専利法第41条第2項)。復審委員会の決定に対する不服申し立ては北京市第一中級人民法院に対して行う。北京市第一中級人民法院の判決に対しては、15日以内(在外者は30日以内)に北京市高級人民法院へ上訴することができる(行政訴訟法第58条)。

 

(10)無効宣告請求

 中国では日本の無効審判に対応するものとして、無効宣告請求が認められている。国務院特許行政部門が特許権を付与することを公告した日から、いかなる機関又は組織又は個人もその特許権の付与が本法の規定に適合しないと認めたときは、復審委員会に当該特許権の無効を宣告するよう請求することができる(専利法第45条)。

 復審委員会は、特許権の無効宣告請求に対して迅速に審査及び決定を行い、かつ請求人及び特許権者に通知する(専利法第46条)。特許権無効と宣告した決定は、国務院特許行政部門が登録と公告を行う。

 特許復審委員会の特許権無効宣告または特許権維持の決定に不服がある場合、通知を受領した日から3ヶ月以内に、北京市第一中級人民法院に提訴することができる。

 無効宣告決定取消訴訟における被告は復審委員会となる。無効宣告請求は本来当事者対立構造をとるため、無効宣告請求の相手方当事者は第三者として訴訟に参加することができる。

 無効宣告された特許権は、最初から存在しなかったものとみなされる(専利法第47条)。なお、無効宣告請求の具体的手続については回を改めて説明する。

 

                                                                           以上

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