中国特許判例紹介:中国における間接侵害の認定 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における間接侵害の認定 (第2回)

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中国特許判例紹介:中国における間接侵害の認定 (第2回)

~一部品を欠く場合の侵害認定~

河野特許事務所 2012年9月6日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

                         約克広州空調冷凍設備有限公司

                                                    上訴人、原審被告

                                    v.

                                  張委三

                                                   被上訴人、原審原告

3.高級人民法院での争点

争点1: 構成要件の一つを欠く場合に特許権侵害が成立するか否か?

 イ号製品は523特許の請求項1と比較すれば、イ号製品は制冷連接管を有さない点で相違する。つまり、請求項1では2つの箱体Aと箱体Bとを連接する制冷連接管を必要としているところ、被告Aは制冷連接管を有さない箱体A及び箱体Bを製造していたのである。このような場合に、特許権侵害が成立するか否かが問題となった。

 

 

4.高級人民法院の判断

制冷連接管は実際上必須の部品であり、特許権侵害が成立する

 北京市高級人民法院は、イ号製品は室内側の箱体と室外側の箱体とを接続する制冷連接管が存在しないことを認めた上で、イ号製品の2つの箱体上には共に当該制冷接管を取り付けるために用いる継ぎ口が、残されている点を指摘した。

 

 また、北京市高級人民法院は、被告Aがイ号製品に付随して送付する《取り付け、操作及びメンテナンスハンドブック》に注目した。“室内外ユニット制冷管路の連接及び空気排出”の項には以下のとおり記載されていた。

 

「配管の連接は通常先に室内機を連接し,その後室外機を連接する」

「開始時に,連接ナットは手できつく閉めることができ、連接ナットの締め付けトルクは下表を参考……」

 

 このように、被告Aがイ号製品に付随して送付する《取り付け、操作及びメンテナンスハンドブック》には、実際の使用中において制冷接管を取り付けることが必須であることの明確な指導がなされている。また、制冷連接管を取り付けなければイ号製品は動作することもない

 

 以上のことから、北京市高級人民法院は、イ号製品そのものは、実際上制冷連接管というこの必要技術特徴を欠くことができないと判断し、523特許に対する特許権侵害が成立すると結論づけた。

 

 

5.結論

 北京市高級人民法院は、特許権侵害が成立するとした北京市第二中級人民法院の判決を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 冒頭で述べたとおり、中国では間接侵害については専利法、実施細則及び司法解釈のいずれにおいても明記されていないが、数多くの事件で特許権侵害の成立を認める判断がなされている。

 

 北京市高級人民法院が公布した「特許権侵害判定における若干の問題に関する意見(試行)」[1](以下、北京高裁意見という)(2001年9月29日)には、間接侵害に関し以下のとおり述べている[2]。

 

「第73条 間接侵害とは、行為者が実施した行為は、特許権に対する直接侵害を構成しないが、他人に特許の実施を誘導、慫慂、教唆して直接的に侵害行為を起こし、行為者は、主観上、他人に特許権の侵害を誘導又は教唆する故意があり、客観上、他人による直接侵害行為の発生に必要な条件を提供している場合をいう。

第74条 間接侵害の対象は専用品に限り、通用品を含まない。専用品とは、他人の製品の実施のみに用いられるキー部品又は方法に係る特許の中間製品であって、他人の特許技術(製品又は方法)の一部の実施を構成し、他の用途がないものをいう。」

 

 本事件においては、判決文書において直接間接侵害であることが明記されていないものの、制冷連接管が必要であることをユーザに教唆しており、事実上当該制冷連接管を使用しなければイ号製品は動作しないことを理由に、特許権侵害の成立を認めたのである。

 

判決 2008年12月15日

                                                                                                                                        以上



[1] 司法解釈ではないため、普遍的拘束力がなく、北京市の人民法院のみに対して指導的意義がある。

[2] 詳細については拙著(張嵩との共著)「中国特許民事訴訟概説」発明協会を参照されたい。

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