スポンサーがついて民事再生手続により事業を再建した事例 - 事業・企業再生全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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スポンサーがついて民事再生手続により事業を再建した事例

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○    スポンサーがついて民事再生手続により事業を再建した事例

 A社は、携帯電話の部品を作る会社である。将来の新製品開発に乗り出したが、新製品は結局、思ったほど売上があげられず、新規の設備投資をした分だけ過剰な債務を抱えることとなった。

 資金繰りに窮したA社は、民事再生手続の申立てを行うこととした。

 申立てと同時に監督委員の弁護士が選任され、監督命令と弁済禁止等の保全処分が裁判所から発令された。

 裁判所で1回目の打ち合せが行われた。A社の社長、経理担当者、A社の申立て代理人、監督委員が裁判所に集まり、裁判官と打ち合せをもった。監督委員は、民事再生手続を開始するのが相当かどうかの意見書を2週間後に提出することとなった。

 監督委員は、補助者となる公認会計士と連絡をとり、5日後にA社の本社兼工場の現地視察に赴くこととした。監督委員は工場の操業状況を視察するためである。公認会計士はA社の帳簿類を実査する。

 A社の社長室において、A社の社長、経理担当者、申立て代理人弁護士、監督委員の弁護士、公認会計士が集まり打ち合せが始まった。

 公認会計士は、手元現金有高、通帳残高の照合をした。次いで会計帳簿の点検が行われる。疑問点について公認会計士が質問していき、経理担当者が答えていく。

 かなり細かい会計的な質疑応答となってきたので、監督委員は、本社兼工場を視察して回ることとした。まず、携帯電話の部品を使っている工場を見て回る。工場内に入るためにはエアロックがある。外部からのチリの侵入を防ぐためだ。次いで空気洗浄の部屋を通る。洋服についたホコリなどを落とすためだ。それから防塵服とマスク、ヘルメットを着用して工場内に入る。工場の中の半分はガランとしていて、半分のみが稼動していた。新製品を製造するラインを既に止めてしまっているため、広い工場の半分は稼動していないのだ。

 製造機械の一つ一つについて、A社の社長は説明をしていく。

 監督委員は、機械によって次々と生産される部品一つ一つが、携帯電話にとって必須なものであることを覚り、まるで宝の山の中にいるような気持ちになった。

 工場内を一巡して、防塵服を脱ぎ、総務や営業の部署を見て回る。空席が目立つ。民事再生手続申立てに先立って、人員整理をしたため、従業員が半分しか残っていないのだ。その様子は痛々しいほどだった。しかし、疲労の色は濃かったものの、従業員はかいがいしく働いていた。

 監督委員と公認会計士は調査を遂げ、同社を辞した。

 第2回の裁判所での打ち合せは、A社の下請のB社に対する連鎖倒産防止のための例外的な弁済が問題となった。B社はA社のために特殊な部品を作っており、B社が連鎖倒産すれば、A社も重要な主力製品の供給を受けられなくなってしまい、事業が立ち行かなくなる。B社のA社に対する債権は6000万円位で、A社はその半分の3000万円を支払いたいと思ったが、申立て代理人は認められる可能性が少ないとして1000万円の弁済を受けることで妥協してはどうかと説得した。債権額6000万円に対して1000万円の弁済ならば弁済率15%であるため、A社の予想弁済率10%を大きく超えていた。

 これに対して監督委員は、再建できるかどうかの方向性が決まっていないため時期尚早であること、弁済率からして不平等な弁済であることを理由に反対した。A社が仮に再生に失敗して破産した場合、B社に対して支払ってしまった1000万円を後で返してくれとはいえないだろうというのが、その理由である。

裁判所は、連鎖倒産防止の制度の趣旨に立ち返って、連鎖倒産防止の弁済を許可した。

 A社とB社の事業規模(資本金、売上高など)、B社のA社に対する依存度、連鎖倒産防止弁済をすることによるA社の利害得失などである。これらの要素を考慮した末、裁判官は連鎖倒産防止の弁済を許可した。

 A社の社長は喜んだ。B社とは古い付き合いであり、取引の重要なパートナーであったから、B社の資金繰りの窮状をよく知っていた。連鎖倒産防止の例外的弁済により、B社の危機を救うことができるのだ。

 第2回目の裁判官との打ち合せでは、A社から、少額弁済の許可申請も提出された。100万円以下の小口債権については、例えば、弁済率10%を想定して、10万円を限度として支払い、その余の債権は放棄してもらうという制度だ。ただし、大企業の場合だと、少額債権の額は500万円になったり、零細企業の場合には、少額債権の額が20万円となったりすることもある。この制度は、再生手続を円滑かつ迅速に進めるものなので、問題なく認められた。

 第3回目の裁判所での打ち合わせは再生手続開始から3か月後と定められ、再生計画案を提出する期限でもある。A社にとって難関であった。

 第2回目の裁判所での打ち合わせの後、A社の社長は再生に向けてのスポンサー探しに奔走した。同業者、販売先など訪問して歩いたが、捗々しくない。そのうちに関係者から紹介された再生投資ファンドが興味を示してくれた。機密保持契約を結んだ上で、A社の財務内容、技術資料を再生ファンドに開示し、本社兼工場も視察してもらった。再生投資ファンドは、A社の技術力を評価してくれた。ことにA社は、民事再生手続開始後も売上がさほど減少しなかった。民事再生手続を申立てると、大手企業は取引を打ち切ってしまうのが通例なのに、売上の落ち込みがないのは驚異的とも言えた。これは業界内でA社の技術力が高く評価されていることの証といってよい。

 再生投資ファンドも、この点を高く評価して、A社の将来性に期待をもった。

 A社と再生投資ファンドは、再生計画案が認可されることを条件として、増資に応ずる形で出資をするというスポンサー契約を締結することとした。

 これを基に再生計画案をA社は作成し、裁判所と監督委員に提出した。

 3回目の裁判所での打ち合わせでは字句の訂正もあったが、再生投資ファンドから入金される資金で弁済率10%、一括弁済の再生計画案でよいであろうという話になった。

 裁判所は、再生計画案と監督委員の意見書をコピーして、書面投票用紙を同封して各債権者へ送付した。

 A社は大口債権者に根回しをした。一括弁済で10%ならば、条件面では良い。何年もかかって返済されるよりも、一括で10%弁済の方が良いと考えるものだ。

 書面投票用紙は続々とA社の代理人のもとへ返送されてくる。

 債権者集会が裁判所の大きな法廷で開かれ債権者も詰めかけた。

 裁判長が開会を宣言すると、A社の社長は立ち上がって深々と頭を下げた。

 書面投票用紙が予め届いている分は、集計が終わっている。そして、債権者集会場で書記官が投票用紙を回収していき、コンピューターで集計をした。

 結果は、債権者の過半数かつ議決権額の過半数という要件を充たしていた。正確に言うと、一部反対票があり、約9割の賛成だった。

 裁判長は「再生計画は可決されました。よって、認可いたします。」と告げた。

 A社の社長は再び立ち上がり、債権者集会場の債権者たちに深々と頭を下げた。

 債権者集会が終わったあと、A社の社長も申立て代理人も監督委員に礼を述べた。

 こうして、A社の再生は成し遂げられた。

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