事業承継の方法と問題点 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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東京都
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対象:事業再生と承継・M&A

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事業承継の方法と問題点

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相続

第3 事業承継の方法

1 概要

 事業承継の方法は,「親族内承継」と「親族外承継」とに大別することができ,「親族外承継」はさらに「役員・従業員等への承継」と「M&A」に分けることができます。

 なお,本コラムでは,「親族内承継」,「役員・従業員等への承継」,「M&A」に続く,第4の方法として「信託」を掲げます。

また,本コラムでは,事業承継に際して企業の再生を図る場合や,結果として事業を廃業せざるを得ない場合も広義には事業承継に含まれると考えています。

2 親族内承継

 親族内承継とは,現経営者の一族の内部で事業承継を行うことをいいます。事業承継における中心的な手法がこの親族内承継です。

(1)事業承継対策がなされない場合に想起される問題

事前の事業承継対策がないままに現経営者に相続が開始した場合,どのような問題が起こるのか,検討してみます。

まず,株式や事業用資産について,後継者を含む相続人間で遺産分割が行われ,その分配が行われることになりますが,法定相続分に従って,あるいは,特別受益や寄与分を考慮して具体的相続分に従って遺産分割をしても,後継者に株式や事業用資産を集中させることができないことが想定されます。この場合,後継者は,これまでのように会社経営を行うことはできなくなります。

また,遺産分割の際,その分配方法をめぐって協議が難航した場合には,遺産分割が終了するまでの間に,会社経営に影響が生じ得ます。

(2)その問題に対する事業承継対策

従前の会社経営を後継者に引き継がせるために,現経営者は株式や会社経営に不可欠な個人資産を後継者に確実に承継させるか,あるいは,後継者を含む相続人間で当該個人資産の利用形態について合意を形成させておく必要があります。

具体的には,現経営者は,生前に株式や事業用資産を譲渡し(売買,贈与),相続させる旨の遺言,遺贈,死因贈与により,これらを後継者に集中させる方法をとることになります。この場合に,一つの重要なポイントとなるものが,後継者以外の相続人の遺留分です。

これに関しては,中小企業承継円滑化法に遺留分に関する民法の特例制度が用意されています(第2部第3章 中小企業円滑化法)。

 株式の後継者への集中方法としては,民法のほかに会社法を利用することもできます。会社が株式を買い集め(自己株式の取得),後に新株発行で後継者へ株式を取得させたり,持ち株比率を変更させることにより,後継者へ議決権を集中させることができます。

 また,前述の後継者以外の相続人の遺留分対策として,例えば,議決権制限株式を活用することが考えられます(第3部第5章 株式)。

さらに,現経営者が拒否権付種類株式を所有することにより,特定の重要事項に関して,会社経営を監視しつつ,後継者に事業を承継させることも可能となります(第3部第5章 株式)。

(3)事業承継税制

従来,贈与時点で多額の贈与税負担が発生するため,これが,現経営者の生前での円滑な事業承継の障壁となっていました。しかし,平成15年に創設された相続時精算課税制度によって,贈与時点での贈与税の負担が軽減され,生前に事業承継対策を取り組むのが容易になりました。この制度は,所定の要件を充たした場合には,2500万円までの贈与対象財産についての贈与税を非課税とし,相続時に持ち戻して課税するというものです。

また,平成21年度の税制改正において,株式についての納税猶予制度が創設されました。この制度は,所定の要件を充たした非上場株式を相続した場合に,その相続した株式等に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予するものです。これにより,一般的に換金性の乏しい非上場株式についての相続税の納付が猶予されますから,円滑な事業承継が可能となります。

 ほかにも,会社の資産に含み益がある場合や業績が好調な場合,自社株の相続税評価額が高くなりますから,多額の相続税が課されることがあります。そこで,株式の評価方法や事業承継における株式の税金,株価対策といった問題についての検討が必要とされます。

 

3 親族外承継

 親族外承継とは,現経営者の一族の外部の者に事業を承継させることをいいます。親族外承継は,役員・従業員等への承継とM&Aに分けることができます。

(1)役員・従業員等への承継

 親族に適当な後継者がいない場合には,役員・従業員等といった社内の者に事業を承継させることが考えられます。役員・従業員等へ事業を承継する場合にも,親族内承継のときと同様に,後継者に株式を集中させる必要がありますが,後継者となるべき者が株式を取得するのに十分な資金を有していない場合も多くあります。この場合には,現経営者以外の会社の経営陣の一部が事業の買取りを行うMBO(management buy out)や従業員を主体として事業の買取りを行うEBO(employee buy out)を検討することが考えられます。

近年,MBOやEBOは企業の再生の局面だけでなく事業承継の手法としても注目されています。

(2)M&A

役員・従業員等といった社内に適当な後継者がいない場合には,M&Aにより会社や事業そのものを売却する等して社外の第三者に事業を承継させることが考えられます。M&Aの手法としては合併,会社分割,株式交換,株式移転,事業譲渡等が挙げられます。M&Aの領域は複数の法律の規制が複雑に絡み合っていますから,M&Aの法律について,より詳しい情報を知りたい読者は,拙著『M&Aの法務〔第2版〕』(中央経済社)をご参照ください。

 

4 その他の方法

(1)信託法上の手法

その他応用的な手法として,事業承継に信託を利用することが考えられます。これまで事業承継の方法として信託が利用されることはほとんどありませんでした。しかし,平成19年9月30日に施行された改正信託法とそれに対応して信託税制が整備されたことにより,事業承継対策としての信託の利用法が注目されています。例えば,受益者連続型信託を利用すれば,次代の事業承継についてまで現経営者の意思を反映することができるようになります。また,遺言代用信託を利用することで,遺言による場合に生じうる経営の空白域を生じさせることなく後継者に事業を承継させることができるようになります。

(2)事業再生・廃業の手法

 会社の業績が好調であるならば,債務(負債)の処理について考える必要はありませんが,業績が好調な会社ばかりではないのが現実です。そこで,事業承継を行うにあたって,債務をどのように処理するか問題となり得ます。仮に,収益力のある事業があれば,債権者と交渉して債務を減免してもらい,あるいは返済条件を緩和してもらうことが考えられます。また,収益力ある事業を第三者に譲渡して事業の継続を図り,負債・赤字部門を抱えた会社を清算する手法(第二会社方式)も考えられます。

 他方,現在及び将来において収益を生み出す事業が考えにくく,親族内承継,親族外承継が困難であり,もはや廃業せざるを得ない場合には,清算,破産の手法を採ることになります。

 

第4 事業承継によって引き起こされる問題

 事業承継を行うに当たり,相続をめぐる親族内の問題のみならず,会社内,外においても様々な問題に直面することになります。

 例えば,ワンマン社長として手腕を奮っていた場合には,社長の引退により対外的に会社の信用を落とし,又,社内における経営陣の足並みが揃わなくなり,会社経営が急速に傾くことがあります。

 また,後継者のポストをめぐって役員・従業員間で争いが生じ,事業承継が一応は行われたものの,会社役員や従業員の理解が得られずに経営の足並みが揃わずに,その間に会社経営が傾くことも考えられます。

 この場合,後継者は役員・従業員の処遇についても考えなければなりません。そこで,役員・従業員の処遇について労務の問題が提起されます。  

事業承継に伴い,あるいは,事業承継後に新たな融資を得なければならないこともあるでしょう。

この場合,中小企業金融円滑化法の利用や事業再生ADR手続の利用が考えられます。

 


 

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