- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:企業法務
- 尾上 雅典
- (行政書士)
- 河野 英仁
- (弁理士)
2 取締役会への一任
前述の通り,取締役の報酬に関して,取締役会への無条件の一任は許されません
が,いわゆるお手盛り防止の趣旨からは,支給総額を定め,その具体的配分を取締
役会に委ねることはできることを説明しました。このことは,退職慰労金の場合に
も当てはまります。もっとも,退職慰労金支給に関しては,支給を受ける者が一人
である場合に,総額を定めたところで,個人の退職慰労金の具体額が明らかとなっ
てしまい,これを避ける必要から,株主総会で金額を決議せずにその決定を取締役
会に委ねることが多く行われています。この取扱いの可否に関し,判例(最判昭和
44・10・28判時577号92頁)は,①慣行および内規によって一定の支給基準が確
立されており,②支給基準が株主にも推知できるものであって,③黙示的にであれ,
その決議が支給基準の範囲内において,各自の在職中の功罪,退職理由など種々の
事情を考慮し,相当な金額を支給すべきものとする趣旨であれば,会社法361条に
違反することはないとしています。
上記①~③の要件につき,要件ごとに解説します。
(1)要件①一定の支給基準の確立
支給基準が不明確であったり,無限定な裁量を許すものであれば,取締役会への無
条件の一任と同じことになりかねません。そこで,支給基準は,お手盛りを防止で
きる程度に明確であって,裁量の限度を有した合理的なものであることが必要にな
ります。また,支給基準は,株主総会によって承認されたものである必要はなく,
取締役会で決定されたものでも足ります(最判昭和48・11・26判時722号94頁)。
(2)要件②株主による推知可能性
この点,支給基準の内容が明らかでなくとも,取締役会議事録等によってその存
在を知ることができ,株主総会の席上で質問できることをもって,株主は支給基準
を知りうる状況にあったとされます(最判昭和58・2・22判タ495号84頁)。
もっとも,書面投票や電磁的方法による議決権行使を定めた株式会社は,株主総
会招集通知に際して,法務省令で定めるとことにより,株主に対して,株主総会参
考書類を交付しなければならず,(会社法301条1項,302条1項),株主総会参考
書類には,各株主が支給基準を知ることができるようにするための適切な措置を講
じている場合(例えば,役員退職慰労金支給規程を各株主がいつでも閲覧可能な状
態にしている場合)を除き,支給基準の内容を記載する必要があります(会社法施
行規則82条2項)。
(3)要件③支給基準の範囲内で金額を一任する旨の株主総会決議
「当社所定の基準に従い,相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することとし,そ
の具体的金額・時期・方法等は取締役会に一任する」といった文言で明示されて決
議される限り,問題はありません。判例(最判昭和44・10・28判時577号92頁)
によれば,黙示的にでも,かかる趣旨の決議であれば,問題はないということにな
ります。ただし,株主総会において,支給基準によることがお手盛り防止の趣旨に
反せず,したがって,株主の利益に反しない理由を説明する必要があります。具体
的には,①,②の内容及び数値を代入すれば支給額を一意的に算出できるものであ
ることについて説明をする必要があります(東京地判昭和63・1・28判タ658号
52頁)。
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