米国特許判例:審判請求時における従属クレームに対する議論(1) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例:審判請求時における従属クレームに対する議論(1)

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米国特許判例紹介:審判請求時における従属クレームに対する議論(第1回)

~形式的な議論では独立クレームと生死を共にする~

              In re Lovin, et al.

河野特許事務所 2011年11月4日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

1.概要

 クレームには独立クレームと従属クレームとがあり、大多数の特許出願は数多くの従属クレームを含んでいる。新規性欠如(米国特許法第102条[1])または自明(米国特許法第103条[2])であることを理由に拒絶理由を受けた場合、意見書にて先行技術との相違点を明確化すべく反論を行う。

 

 ここで反論を行う対象となるクレームは独立クレームであり、一般的には従属クレームについては議論を行わないことが多い。不用意に反論すれば禁反言の法理により、権利範囲が限定解釈されるおそれがあるからである[3]。

 

 本事件において出願人は審判請求の際、従属クレームに対しては形式的な議論しか行わなかったため、審判部は従属クレームに対する議論は放棄されたものとみなし、独立クレームと同様の理由により審理することなく従属クレームを拒絶した。出願人は従属クレームについて十分に議論しなかった審判部の判断を不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは審判部の判断を維持する判決をなした。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 Lovin(出願人)は2004年8月24日、USPTOに対し、10/924,633号特許出願(以下、633出願という)を行った。633出願の発明の名称は「摩擦溶接の方法及びシステム」である。

 

 参考図1は摩擦溶接システムの要部を示す側面図である。摩擦溶接を行う際、第1部分22を高速回転させ、第2部分30に接触させる。第1部分22と第2部分30との間に発生する熱により、第1部分22と第2部分30とが融合する。

 

 このような溶接方法をアップセット溶接という。アップセット溶接は、溶接面の接触抵抗等のジュール熱を利用し、接合面の温度上昇により溶接を行うものである。633出願に係る発明は、繰り返し使用される溶接機械に関し、アップセット溶接における部品間のばらつき(偏差)を低減するよう設計されている。具体的には、回転する第1部分に適用されるトルクを調節する。

 

参考図1 摩擦溶接システムの要部を示す側面図

 

  633出願は合計34のクレームを有し、クレーム1, 8, 17, 23, 30, 34は独立クレームであり、残りは従属クレームである。633出願に係る発明の方法は2つのステップを有する。第1ステップは、2つのサンプル部品を溶接している間にデータを取得し、さらに、取得したデータからプロファイルを計算する。これには、異なる速度でのサンプル部品の「アップセット構成」を決定することを含む。

 

 第2ステップは、2つの製品部品の摩擦溶接、及び、計算したプロファイルに従って、製品部品の「アップセット構成」が決定済みのサンプル部品の「アップセット構成」をコピーするよう、第1製品部品に適用される「トルクを継続的に調節する」ものである。


 


[1] 第102 条 特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失

次の各項の1 に該当するときを除き,人は特許を受ける権利を有するものとする。

(a) その発明が,当該特許出願人による発明の前に,合衆国において他人に知られ若しくは使用されたか,又は合衆国若しくは外国において特許を受けたか若しくは刊行物に記載された場合,又は

(b) その発明が,合衆国における特許出願日前1 年より前に,合衆国若しくは外国において特許を受けた若しくは刊行物に記載されたか,又は合衆国において公然実施若しくは販売された場合,・・・(以下、省略)

[2] 第103 条 特許要件;自明でない主題

(a) 発明が,同一のものとしては第102 条に規定した開示又は記載がされていない場合であっても,特許を受けようとするその主題と先行技術との間の差異が,発明が行われた時点でその主題が全体として,当該主題が属する技術の分野において通常の知識を有する者にとって自明であるような差異であるときは,特許を受けることができない。

[3] Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co, 535 U.S. 722 (2002)

(第2回へ続く)

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