米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第5回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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対象:特許・商標・著作権

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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第5回)

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米国特許判例紹介:先行技術の提出と不正行為(第5回)

~IDS提出基準の大幅見直しへ~

     Therasense, Inc., et al.,

               Plaintiffs Appellants,

           v.

  Becton, Dickinson and Company, et al.,

               Defendants- Appellees.

河野特許事務所 2011年9月7日 執筆者:弁理士  河野 英仁

争点2:被疑侵害者が明白かつ確信を持つに足る証拠を証明しない限り意図は認定されない。the knowing and deliberate standard認識と故意基準」の確立

 CAFCは、「意図」を認定するためには、被疑侵害者が、出願人が文献について知っており、それが重要であることを知っており、かつ、当該文献を保留すべく意図的な決定をなしたという明白かつ確信をもつに足る証拠により証明しなければならないと判示した。

  単に「文献の重要性について知っていたはずであろうこと」、および、「文献をPTOに提出しないと決定したこと」、は欺く意図を証明することにはならないとも述べた。

 さらに、開示されなかった情報が、後に重要であると分かったという事実自体は、「意図」の要件を満たすことができないと判示した。

  「意図」を証明するのは、被疑侵害者側の責務であり、被疑侵害者側が上述した「意図」の要件を越える事実を証明した場合を除き、特許権者は善意の釈明を行う必要がない。また重要な先行技術を差し控えたことに関する善意の釈明を怠ったとしても、それ自体は欺く意図を立証することにはならないと判示した。

  また意図を立証するのは一般に困難であり、通常は間接的・状況的証拠から意図を立証する。この場合、証拠は単一の証拠であることが必要とされる。複数の証拠を用いて欺く意図があったと判断することは許されない。

  以上のとおり、欺く意図の立証基準は大幅に上昇した。

 

争点3:重要性はBut for基準により判断する

 CAFCは重要性に関しBut for基準を採用し、規則1.56の基準を廃止した。

(i)Corona事件[1]

 But forルールが初めて判示されたのはCorona事件である。このBut forルールとは、因果関係の成立要件であり、被告がある行為をしなかったのであれば、原告に被害がなかったものの、ある行為をしたために生じた、ことをいう仮定ルールである。

 Corona事件において、最高裁は特許権者のPTOに対する虚偽陳述の重要性について検討した。特許権者は、実際にはゴムのテストスラブだけが製造されたにもかかわらず、発明はゴム製品の製造において使用されていたと偽って主張した。

 しかしながら、最高裁は虚偽の陳述があったものの、特許成立とは無関係であったため、「重要」ではなく、特許は有効であると判示した。つまり、使用または販売についてのゴム製品の製造は、特許を取得するために必須のものではない。従って当該特許権者の主張は虚偽ではあったが、その基礎となる特許成立に関しては無関係であるため、特許は有効と判断された。逆に特許成立に影響のある虚偽の陳述であれば重要と判断されたのであろう。

 

(ii)But for重要性の確立

 CAFC大法廷は、Corona事件に基づき、先行技術が重要であるか否かを判断するに際しては、「But for重要性(以下、「仮定重要性」という)」の基準を打ち出した。つまり、出願人が先行技術をPTOに開示していない場合において、仮に開示されていない先行技術にPTOが気付きクレームを許可していなかったのであれば、当該先行技術は、仮定重要と認定される。

 従ってPTOに対して単に先行技術を開示していなかったこと、宣誓供述書において先行技術に言及していなかったことだけをもって、「重要性」があり、不正行為があったとは認定できない。これらの判断は上述した仮定重要性の証明が必要とされる。

 もっとも、仮定重要性は一つの判断指針であり、例外がある。それは上述した3つの最高裁判決で示した甚だしい不正行為があった場合である。3つの事件で示したような紛れもない虚偽の宣誓陳述書の提出など、特許権者が甚だしい不正行為に積極的に関与していた場合、「重要」と判断される。



[1] Corona Cord Tire Co. v. Dovan Chemical Corp., 276 U.S. 358, 373-74 (1928)

(第6回へ続く)

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