(続き)・・前述の油の場合もこの炭水化物の場合も、高度に精製している食材の本質的な宿命として、栄養素が単調になりやすいことと、酸化しやすいことがあります。どうしても製造工程に於いて各栄養素が欠落したり変質したりしやすいのです。また食材自体に含まれる抗酸化物質から切り離されてしまうため、加工されるに従って容易に酸化されてしまいます。そのために酸化、変性しやすい成分をあらかじめ除去し、不足する栄養素や抗酸化剤などを後から付加するような加工がなされます。
一例を挙げると、米や麦の胚芽成分は酸化し臭いを発しやすいので、それを除去することが精製の大きな理由の一つになっています。またそれによってビタミン類やミネラル類がどうしても不足しやすいので、これらの成分を後から付加し、それを成分表示に明示することを忘れません。そして流通の過程や店舗、購入後の家庭などに於いて腐敗することの決してないように、また食感や香りを良くするなどの目的で、各種添加物や保存料の類を付加することが一般的となっています。
そのような事情から、加工食品の多くには何種類もの栄養素、保存料、香料などの添加物が含まれる結果となっています。これらの添加物は国の基準で「安全性」が証明されていますが、これは通常量を単独で摂取した場合の短期的な安全性であって、複数の添加物を長期間摂取した場合の安全性を証明したものではありません。従って加工食品を毎日のように多量に摂取する場合には、これら添加物による影響を充分に考慮に入れておく必要があるのです。
その一方で、畑で採れた野菜や果物等は果たして安全なのでしょうか。上記の加工食品に比べれば添加物の類は少なく、より自然でヘルシーなのは確かですが、こちらも手放しでは安心できないのが実情です。言わずと知れた「農薬」の問題です。昔から畑や田んぼに作物を食い荒らす害虫は付き物ですが、昔は主に手作業などで駆除していたものです。それに少し虫に食われているくらいでは、生産者も消費者もそれほど気にしていなかったのです。
ところが近代農法が普及し、上記の麦や大豆、トウモロコシ、それに米など主要作物の大量単一栽培が一般的になると、土壌の栄養バランスが崩れたため、窒素やリン、カリウムなどの化学肥料を大量に土壌に投与するようになりました。それによって作物の生育が飛躍的に促進されましたが、その半面で作物がたいへん害虫に弱くなってしまい、農薬を多量に用いる必要が出てきたのです。また消費者が虫の食っていない清潔な野菜を求めるようになったことも、農薬の多用を促しました。
そのようにして、生産性と清潔さ、作業能率の高さを追及した結果、現代農業は化学肥料と農薬に過度に依存するようになってしまいました。日本でも、農協など主要な生産組合や流通を通した農作物の大半は「農薬入り」となってしまっていますが、ごく一部では無農薬や有機栽培などの比較的安全な栽培方法による作物も出回っており、健康に関心の高い層を中心に人気を集めています。かように野菜などの一次産品の分野でも、我々はその安全性を検証する必要があるのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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