- 中沢 努
- パンセ・ソバージュ・アンド・カンパニー 代表
- 東京都
- コンサルタント・研修講師・講演講師
対象:人材育成
あるところに「事例」、それも「他社のそれ」が大好きなビジネスマンがいた。
彼はネットで他社事例を見つけると常にブックマークし、本屋では他社事例が載っているページの有無を必ずチェックした。
彼のスマートフォンはそれらの結果を蓄積した「他社事例のデータベース」と化しており、周りからも何かと頼りにされているようだった。
彼と私は勉強会の場で知り合った。
私は“知り合いの知り合いのそのまた知り合い”に頼まれ、ある企業の有志がやっている社内勉強会に講師として招かれたのだ。
私は会の幹事役の人が用意してくれた資料を使いながら参加者と一緒にディスカッションし、論点をホワイトボードに箇条書きしていった。
2つ目の話題に入った時、「あっ僕、その事例知ってます」という参加者がいた。彼だった。
私は彼に喋ってもらうことにした。
彼はスマートフォンを取り出し、人差し指を上下させながらある会社の事例を説明し始めた。
彼は組織図を描いたりイベントを時系列で書き出すなどし、一生懸命に説明した。
他の参加者は「へぇ―」と言ったり、ノートにメモしたり、メモ代わりに携帯で写真を撮ったりしていた。
そればかりやっていると時間がなくなるので、私はその事例を依頼された会社の実態と比較するような方向に議論を進めようとした。
「ありがとう、他社の話しはそのくらいにしておこうか。続けて自社の実態についても発表してよ」
彼は部屋の後ろからもう一つのホワイトボードを持ってきて、自社の組織図を描き始めた。
「あれ、最新の組織図ってこれでよかったっけ?」…彼は他の出席者に尋ねた。
次に社内の実態を書き始めた。
「自分の部署については書けるけど、よその部署については知らないなあ。製造は今どうなっているの?」
「えっ、そうなんだ。知らなかったなぁ」
「総務は?」
「営業は?」
…彼の質問は続いた。
質問が終わり、自社の実態がホワイトボードに示された。
時計を見たら、勉強会の終了時間だった。
彼は他社の事例は非常によく知っていたが、自分の会社のことはほとんど知らなかった。
それはそれで困ったことだが、もっと困ったことがあった。
彼は、そういう自分に全く気づいていないのである。
(中沢努「思考のための習作」から抜粋)
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