(続き)・・さて近年、職場に於ける社員の心の状況が悪化している原因としては、どのようなものが挙げられるでしょうか。企業の現場スタッフや出入りしている専門家からよく聞かれるのは「コミュニケーション不足」というものです。社員間あるいは経営幹部と一般社員との間のコミュニケーションが不足した結果、社員が精神的な不具合を起こして元気を失い、それが進むと心の病に発展する、という訳です。
確かに人間は有史以来、人とコミュニケーションを取ることによって生きのび、発展してきました。言葉も文字も、さらには手紙も電話もメールも、まさにコミュニケーションを目的とした人類の発明品です。この大切なコミュニケーションの手段や機会を奪われると人間は孤立して、様々な不便や不利益を被るだけでなく、精神的にも不満や不安、恐怖、絶望といったネガティブな感情を抱き、それが高じると心の病にも発展しかねません。まさにコミュニケーションは人間の「心の糧」とさえ言えるのです。
それでは職場内にコミュニケーションが減ってしまった理由は何でしょうか。それは職場内が以前よりも、話しづらくなっていることが指摘されています。その一つの要因としては、1990年代から本格的に導入された「成果主義」の影響が挙げられます。組織を活性化しようと導入された成果主義ですが、短期的な成果だけで社員を評価してしまうと、誰もがライバルを蹴落として成果を一人占めしようと考えてしまい、その結果、皆で協働して何かを成し遂げようという雰囲気がなくなってしまいます。
特にその悪影響を受けているのが30代の社員です。社会生産性本部の統計によると、心の病を持っている割合の最も高い世代は30代だ、と答えた企業が最も多く、何と61%に上ります。成果主義が普及したのがちょうどこの30代が入社した頃に一致し、その悪影響を強く受けたことが示唆されます。また30代は管理職一歩手前の係長から課長代理クラスの人が多く、上と下からの「板ばさみ」状態となって大きなストレスがかかっていると考えられるのです。
それから世代間の仕事や職場に対する意識のギャップも大切な要素です。若い世代には仕事とプライベートをきっちり分けて考える人が多く、残業や休日出勤が当然というセンスで上司が仕事の指示を出すと、今の若い世代はついてきません。また部下が上司に求めている素質に関しても以前からは変化がみられ、きちんと叱ってくれる上司よりは「やさしく指導してくれる上司」を期待している若者が目立ちます。従って上司が昔の感覚で、俺について来い!といった感じの厳しい接し方をすると、それだけで若者が不適応や心の問題を起こしてしまうことが考えられます。
従って単に上司が部下とコミュニケーションを密接に取るといっても、上記の要因を考慮しなければ、かえってお互いの溝を深くしてしまうこともあり得るのです。そのような理解不足からくるミスコミュニケーションに懲り懲りして、部下や同僚との話し合いに積極的になれない上司や経営者が多数おります。コミュニケーションは量も大切ですが、その「質」がより重要になってくるのです。それでは社員との質の良いコミュニケーションとは、いったいどのようなものなのでしょうか・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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