技術管理者の設置は災害防止に「有効」か? - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

尾上 雅典
行政書士エース環境法務事務所 
大阪府
行政書士

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村田 英幸
村田 英幸
(弁護士)
尾上 雅典
(行政書士)

閲覧数順 2024年04月17日更新

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技術管理者の設置は災害防止に「有効」か?

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技術管理者とは




 廃棄物処理法第21条で定められている
 「廃棄物処理施設の維持管理に関する技術上の業務を担当する」責任者のことです。

 その主な職務としては、廃棄物処理法第21条第2項で
 「管理に係る廃棄物処理施設に関して、技術上の基準に係る違反が行われないように、当該廃棄物処理施設を維持管理する事務に従事する他の職員を監督しなければならない」

 とされています。

 職務を具体例で説明すると

 例えば、焼却炉を設置している市町村の場合は、
 ・ダイオキシンを発生させないよう、焼却炉の維持管理を万全に行う
 ・焼却に適さない物(コンクリートくずなど)を、焼却場に搬入させないよう検査をする

 など、色々な職務があります。


技術管理者の設置を怠ると・・・




 技術管理者の設置を怠ると、廃棄物処理法第30条の定めにより
 「30万円以下の罰金」に処せられることがあります。

 仮に、市町村が技術管理者の設置を怠った場合は、その一般廃棄物処理施設の管理者(通常は首長)の責任となります。


技術管理者の未設置事業場で人命に関わる事故が発生




 読売新聞岐阜版 平成21年6月13日付の記事
 神戸町長、起訴猶予

 技術管理者を未設置だった一般廃棄物の最終処分場でダンプカーが横転し、現場にいた町職員がダンプの下敷きとなって死亡した事件の続報です。

 上述したように、技術管理者を置かなかったことは管理者(町長)の過失であり、刑事罰(30万円以下の罰金)に処せられてもまったくおかしくないケースです。

 検察サイドは、検察審査会の「起訴相当」の議決があったにもかかわらず、再度起訴猶予処分を選択しました。


 検察の判断の是非はさておき、
 今回の事件で、技術管理者を設置していれば事故を防げたかどうかを考えてみます。

 冒頭でご説明したとおり、技術管理者の主な職務は、
 廃棄物処理施設における技術上の処理基準が遵守されるよう監督することです。

 法律的な理屈からすると、技術上の処理基準の中には、
 「現場作業員の安全を確保する」という基準は入っていません・・・

 廃棄物処理法の技術基準は、廃棄物を(環境にとって)適切に処理するための基準ですので、労働安全などは全く考慮されていません。
 「労働安全衛生法」など、従業員の労働環境を守るための規制法は別途存在していますが、少なくとも、廃棄物処理法にその概念はまったくありません。


 そのため、今回のような労働安全面の事故は、技術管理者を設置しているかどうかに関係なく起こり得るものです。

 技術管理者を設置した ⇒ 法律の義務を遵守しているので、事故なんて起こるはずが無い!

 と、思考停止することは大変危険です。


 「リスクアセスメント」を実施し、組織全体で労働安全に関する意識や情報を共有していく必要があります。

 特に、廃棄物処理業は、全産業中、死亡事故の発生率が最も高い現場となっています。

 他の産業以上に、安全に対する取組みを改善し続ける必要があることは言うまでもありません。

 「法令順守」で満足してしまわないことが重要です。