
- 寺崎 芳紀
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
- 東京都
- 経営コンサルタント
-
03-5858-9916
対象:経営コンサルティング
- 戸村 智憲
- (経営コンサルタント ジャーナリスト 講師)
- 荒井 信雄
- (起業コンサルタント)
日本の超高齢社会において、介護保険制度は高齢者の生活を支える重要な役割を担っています。しかし、制度の持続可能性を確保するためには、給付と負担の見直しが不可欠です。近年、その議論の中で浮上しているのが「ケアマネジメントの利用者負担導入」です。今回は、このテーマについて深く掘り下げていき、その背景、目的、課題について考察します。
●ケアマネジメントとは
ケアマネジメントとは、介護が必要な人が適切なサービスを利用できるよう、ケアマネジャー(介護支援専門員)が中心となって作成するケアプランに基づいた支援のことです。ケアマネジャーは、利用者の心身の状況や希望を把握し、サービス事業者との連絡調整を行い、ケアプランの作成や見直しを行います。
●利用者負担導入の背景と目的
現在、ケアマネジメントにかかる費用は介護保険で全額給付されており、利用者の自己負担はありません。しかし、介護保険財政が逼迫する中で、利用者負担を導入することで、財源を確保し、制度の持続可能性を高めることが検討されています。
利用者負担導入の主な目的は以下の通りです。
- 介護保険財政の安定化: 利用者負担を導入することで、介護保険給付費を抑制し、財政負担を軽減します。
- サービスの質の向上: 利用者が費用を負担することで、ケアマネジャーのサービスの質に対する意識が高まり、より質の高いケアマネジメントが期待できます。
- 利用者の主体的な選択: 利用者が費用を負担することで、ケアマネジメントに対する意識が高まり、より主体的にサービスを選択するようになることが期待できます。
- 公正・中立なケアマネジメントの確保: 利用者負担を導入することで、ケアマネジャーが特定のサービス事業者に偏ることなく、利用者本位の公正・中立なケアマネジメントを提供する動機付けとなります。
●利用者負担導入の課題と懸念点
しかし、ケアマネジメントの利用者負担導入には、多くの課題や懸念点も存在します。
- 利用者の負担増: 利用者にとって新たな負担が生じることで、サービス利用をためらう人が増える可能性があります。特に、経済的に困窮している人にとっては、大きな負担となる可能性があります。
- ケアマネジメントの利用抑制: 利用者負担の導入により、ケアマネジメントの利用が抑制され、結果的に適切なサービスを受けられない人が増える可能性があります。
- ケアマネジャーの業務範囲の不明確さ: 現在、ケアマネジャーの業務範囲は多岐にわたり、明確に定義されていません。利用者負担を導入するにあたり、業務範囲を明確化し、利用者に対して適切な説明を行う必要があります。
- ケアマネジャーの処遇改善: ケアマネジャーの業務は多岐にわたり、負担が大きいにも関わらず、処遇は十分とは言えません。利用者負担を導入するのであれば、ケアマネジャーの処遇改善も同時に検討する必要があります。
- 制度移行に伴う混乱: 新たな制度を導入するにあたり、利用者やサービス提供事業者に混乱が生じる可能性があります。十分な周知期間を設け、丁寧な説明を行う必要があります。
●課題解決に向けた検討事項
これらの課題を踏まえ、利用者負担導入にあたっては、以下の点を検討する必要があります。
- 負担額の設定: 利用者の負担能力やサービス内容を考慮し、適切な負担額を設定する必要があります。低所得者に対する減免制度や、負担上限額の設定なども検討する必要があります。
- 業務範囲の明確化: ケアマネジャーの業務範囲を明確化し、利用者に対して分かりやすく説明する必要があります。業務内容に応じた報酬体系を検討することも重要です。
- ケアマネジャーの処遇改善: ケアマネジャーの専門性や業務内容に見合った処遇改善を行う必要があります。給与水準の引き上げや、キャリアアップ支援制度の充実などが考えられます。
- 丁寧な情報提供と相談体制の整備: 利用者やサービス提供事業者に対して、制度変更に関する情報を丁寧に提供し、相談体制を整備する必要があります。
- 段階的な導入: 一度に全ての利用者に負担を求めるのではなく、段階的に導入することで、混乱を避けることができます。
●国民的な議論と合意形成の必要性
ケアマネジメントの利用者負担導入は、介護保険制度の根幹に関わる重要な問題であり、国民全体の議論が必要です。高齢者や家族、ケアマネジャー、サービス提供事業者など、様々な立場の人が意見を出し合い、合意形成を図ることが重要です。
●まとめ
ケアマネジメントの利用者負担導入は、介護保険制度の持続可能性を高めるための選択肢の一つですが、多くの課題や懸念点も存在します。利用者負担を導入するのであれば、利用者の負担増を抑制し、ケアマネジメントの質を向上させるための対策を講じる必要があります。
また、ケアマネジャーの業務範囲の明確化や処遇改善も同時に検討する必要があります。国民的な議論と合意形成を通じて、より良い介護保険制度を構築していくことが求められます。
このコラムの執筆専門家

- 寺崎 芳紀
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- 株式会社アースソリューション 代表取締役
介護事業所の開設から運営まで、オールワンでお手伝いいたします
有料老人ホーム施設長・訪問・通所介護管理者・老健相談員、事業所開発等の経験を活かし、2007年7月に弊社を設立しました。介護施設紹介サービスをはじめ、介護事業所の開設・運営支援等を行い、最近では介護関連の執筆活動にも力を入れております。
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