京品ホテル、東京地裁が明け渡し命令 - 経営戦略・事業ビジョン - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士

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寺崎 芳紀
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閲覧数順 2024年05月01日更新

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京品ホテル、東京地裁が明け渡し命令

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発表 実務に役立つ判例紹介
15日12時58分asahi.com記事によると、

廃業により解雇を通告された京品ホテル(東京都港区)の一部の
従業員らが雇用継続などを求めてホテル内の飲食店などを自主営業
している問題で、東京地裁は15日、従業員らに対しホテルを明け渡す
よう命じる仮処分を出した。従業員側は「仮に強制執行があっても、
出て行くつもりはない」としている。

仮処分は、ホテルを経営する京品実業(同)が「従業員らの自主営業は
建物の不法占拠だ」などとして申し立てた。従業員側は「正当な組合活動」
などと反論したが、退けられた。

同じく15日16時21分YOMIURI ONLINE 記事によると、

東京地裁(蓮井俊治裁判長)は15日、「従業員に(営業の)再開を求める
権限はなく、ホテル占有にも正当性はない」として明け渡しを命じる
決定をした。

労組側は同地裁に異議を申し立てる予定だが、異議が認められるケースは
少なく、近く強制的に立ち退きが執行される可能性が高い。

という。


品川駅前の老舗ホテル「京品ホテル」を巡る労使対決は、結果的に
裁判に持ち込まれ、一昨日の15日、一応の決着を見た。地裁段階のため、
確定された判断とはならないが、過去の判例等を考えれば、このまま
自主営業を行う元従業員たちの強制退去となるものと思われます。

京品ホテルのHPにアクセスすると、京品実業側の見解がアップされています。
それによれば、

会社の閉鎖(現在、清算手続中)、従業員全員の解雇は、平成20年5月に
決定されており、組合に対しても平成20年5月7日の団体交渉において
宣言しているとのこと。
また、平成20年7月2日付で文書により、平成20年10月24日までに
すべての給与等の支払いを支払う旨、最雇用先の斡旋を行う旨等を
記載して、全従業員に通知し、平成20年10月26日現在で、給与等の
支払は完了し、精算済みとなっているものの、再雇用先の斡旋については、
一部の辞退者を除きほぼ完了しているとのことである。

また、12月7日付の見解によれば、

今回当社が清算法人として、精算業務を行うに当たって当社の債務及び
買掛金、未払金等の清算を行います。
特に現況の土地については個人所有となっており、建物についてのみ
法人の所有となっております。
只、建物についての評価額は低く、すべての債務は個人資産である土地の
売却によって、京品実業株式会社の債務を肩代わりし、支払いを行う
ものであります。

マスコミ等の報道によりますと、民事再生や会社売却を行うべきではないか
との報道があります。
第一に、民事再生については、多くの取引先及び債権者に多大なご迷惑を
掛けるスキームであると認識しております。
第二に、会社売却については、当社の債務状況からお引き受けいただける
会社がありませんでした。
この様な状況から、当社は清算法人としての選択をさせて頂きました。


会社側の見解ばかり引用し、組合側の意見を引用しないのは、公平に反する
とのご批判を受けるかもしれないが、少なくとも、会社側は、再建の努力は
していたと見るべきであろう。しかし、個人による債務肩代わりをした上での
清算の道を選ぶしかなかったのかは、私が入手できる資料からは分からない。

ただ、言えることは、民事再生にしろ、会社売却にしろ、外資系を中心とした
投資銀行が得意とするスキームであり、また、専門とするコンサルタントでさえ、
ホワイトナイトたる救済支援企業が見つからなければ、困難なスキームである。

民事再生であれば、自主再建の道もあろうが、それは債権者が足並みを
揃えて、大幅な債権放棄ないしは超長期へのリスケに応じて頂ける場合であって、
京品ホテルの場合には、債権の大半を支配するサンライズファイナンスが
債権放棄に応じない以上、民事再生の道は取りようがなかった。
それもサンライズ社はリーマン系で、9月のリーマンブラザーズの破綻
を受けて、共倒れした会社である。

もともと、ハゲタカファンドが京品ホテルの土地に目をつけ、ホテルを
解体した上で、転売ないし新ビルによる事業展開を考えての投資であったと
思われるだけに、リーマンショック前に清算手続が進んだのもうなづける。

こういう経緯を考えれば、今回の従業員側の対応には、心情的には理解できる
ものがあるが、わが国が法治国家なるがゆえに、その行動には問題があろう。

まず、従業員側は不当解雇を主張していたのであるが、例えば、
一部の従業員のみを解雇するリストラや、赤字会社が別会社を作って、
一部の従業員のみを再雇用するような場合であれば、
採用しない従業員の線引きに合理性がない限り不当解雇とみなされよう。

しかし、今回のケースでは、全従業員が解雇され、会社も閉鎖する。
そのため、一部のみに対する不当解雇の場合にあたらない。

それも、5月から労使交渉を続けての結果であれば、事前通知なしの
場合にもあたらない。

したがって、今回のケースでは、不当解雇として認定することは困難であろう。

また、本件ホテル建物は、京品実業の持ち物であり、一部の者のみを
立入禁止にしたのではなく、管理上必要ある場合を除き、立入禁止にした
建物に対して、元従業員とはいえ、管理者の許可なく建物に侵入している
ことになり、刑法犯としての住居不法侵入罪を適用されてもやむを得まい。
さらに、ホテル建物の賃借料を支払う意志もなく、ホテル営業許可を
得ないままでの自主営業になっていること、等を鑑みれば、
京品実業が刑事告発をした場合には、労使問題ではなく、
警察の領域に入ってしまう状況にあると言えよう。

このような状況を踏まえた上で、本件判決は妥当であると言わざるを得ない。