- 茅野 分
- 銀座泰明クリニック 院長
- 東京都
- 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医)
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PC4台駆使、違法動画1000万円超荒稼ぎの男は「記憶喪失」の怪…
生活保護も不正受給、裁判には仮の名「鈴木太郎」で出廷の異例
動画投稿サイト「FC2」にテレビドラマなどを違法アップロードし1000万円以上を荒稼ぎしたとして群馬、栃木両県警の合同捜査班に著作権法違反容疑で逮捕された男が、自分の名前も言えないほどの「記憶喪失」で、生活保護まで不正受給していたことが分かり、詐欺容疑で再逮捕された。「唯一の身分証である生活保護の受給者証を失うわけにはいかなかった」と話す男の記憶は今も戻らず、「鈴木太郎」という仮の名で、公判に出廷している。平成20年03月に静岡県熱海市の路上で倒れているところを発見されてからの男の足跡をたどった。(大橋拓史/産経ニュース)
「記憶喪失/全生活史健忘」とはどのような病気でしょう。精神医学的には「解離性健忘/ICD10/WHO」と定義され、「最近の重要な出来事の記憶喪失」であり、非常に強いストレスやトラウマ(心的外傷)を生じた際に起きる精神障害です。「遁走」(家庭や職場からの逃避)と伴うことが常であります。通常は2-3日で終わることがほとんどで、長期にわたる場合はでも、日常生活は保たれるものです。
今回の事件は数年間におよび、PC4台を駆使して、1000万円以上を荒稼ぎしたという、悪質ながら、稀(まれ)な症例であり、精神医学的には注目に値します。犯罪は用意周到、計画的で、精神鑑定をしても責任能力は十分に有していると判断されることでしょう。
でも、なぜ、このような現象が起きるのでしょうか。それは、非常に強いストレスやトラウマ(心的外傷)、生死や人生に関わるような事件に遭遇した人がとりうる、病的・心理的・防衛機制といえます。辛い出来事に直面できず、心理的に逃避した結果、起きる病的反応です。
一般的には数日間で現実に戻らざるをえない現象ですが、本症例は、数年間におよび、生活保護を受給しながら、著しい犯罪を生じたことは、学問的に特筆に値するとも言えるでしょう。
犯罪は刑法で裁かれなければならないことですが、精神医学的に何が彼をそうのような行動や生活に至らしめたのか解明することは、学問的に、社会的に必要なことと思います。そして、精神科医としましては、「罪を憎んで人を憎まず」の気持ちで事件の解明を見守る次第です。
このコラムの執筆専門家
- 茅野 分
- (東京都 / 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))
- 銀座泰明クリニック 院長
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