- 茅野 分
- 銀座泰明クリニック 院長
- 東京都
- 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医)
-
03-5537-3496
日本では、いまだ戦争により、戦死者が続出している。
もちろん、世界規模の武力紛争のことではない。
経済という名の戦場で起きている戦争のことだ。
戦後、二度と戦争はしないと誓った日本だが、高度経済成長が始まると、経済そのものが戦争と化し、働く者たちは企業戦士となりました。この頃からすでに、過労死で命を落とす者はおり、戦後日本でも戦死者は減ることがなかったと言えるのです。右肩上がりの経済成長が、バブル崩壊を経て終焉を迎え、国内の企業が、スケールメリットを追うことをやめた今、IT化にともなう人員削減が当たり前となりました。1人当たりに課せられる仕事量は留まるところを知りません。
経済の中で繰り広げられる企業同士の戦渦の下、企業戦士である社員たちは、後方支援部隊もいない状態で、長時間闘うことを余儀なくされています。そうして、疲れ切り、過労死や過労自殺が起きたとすれば、それは戦死以外のなにものでもありません。
しかも、企業を守ったと称賛されることもなく、企業のために命を落としたことさえ認められない戦死がある。憲法改正のシュプレヒコールが起これば、子どもたちを戦場へ送るつもりかと怒り狂う人たちがいるというのに、殺される可能性のある戦場へ、企業戦士が当たり前のように送り出されている現実は、異常としか思えません。
さらに、戦死はしていないものの、ストレスによって戦えなくなった者は、負傷兵のように英雄として称えられるわけでもなく、単なる負け組として社会から排除されてしまうのです。
銀座で精神科クリニックを開業して10年が経ちました。
東京、大手町、日比谷、有楽町などで働く企業戦士が、21時まで開院していることもあり、連日連夜、訪れます。国内屈指のコンサルティング会社、コンピュータ関連メーカー、メガバンク、総合商社…。彼らは声を揃えます。「頑張っても、頑張っても報われない」頑張れば、頑張るほど、高くなる要求。残業150時間越えが3か月続き、単純な計算さえできなくなった20代。週2回の徹夜を丸2年続け、睡眠障害に陥った30代。プロジェクトチーム内での過酷な競争に疲れ果て、頭痛が止まらなくなった40代。昇進のレールに乗れずアルコール依存症になった50代。
終わりのない戦争に飲み込まれ、気が付けば心を病み、体をむしばまれた戦士たち。中には自ら命を絶つ者さえいるのです。
企業戦士の命を脅かすのは弾丸でも爆弾でもなく「ストレス」です。 時に人殺しにさえなり得る恐ろしいストレスを、このまま見過ごしていれば多くの企業戦士が苦しみ続けることになります。
精神科医として、私にできることはないのか。日々、疲れ切った企業戦士と向き合うたびに考え続けてきました。戦場に蔓延るストレスを消し去ることはできませんが、ストレスをできる限り小さくし、うまくかわす方法であれば指南できる。その思いで本書を書く決意をしました。
脳科学者ではない者が記す内容ではないと、不愉快に思う方もいるかもしれません。
それでも、苦しい心のまま戦い続ける戦士たちを見ていると、精神科医だからこそ伝えられることがあるという、強い決意のもと筆を進めました。また、実例からストレスの恐ろしさを感じ取って欲しいと、クリニックの患者さんの様子をご紹介しました。本人が特定されないよう、加工修正していることはご了承ください。
危険極まりない戦場で、今日も戦い続ける企業戦士たちへエールを込めて、ストレスから身を守る術を、ここにご紹介いたします。
医療法人社団泰明 銀座泰明クリニック理事長 茅野分拝
このコラムの執筆専門家
- 茅野 分
- (東京都 / 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))
- 銀座泰明クリニック 院長
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