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河野 英仁
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インド特許法の基礎(第19回)~外国出願許可と秘密保持命令(1)~

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インド特許法の基礎(第19回)

~外国出願許可と秘密保持命令(1)~


2015年1月9日

執筆者 河野特許事務所 

弁理士 安田 恵

 

(3)外国へ特許出願を行う方法

(a)一般的方法

 インド居住者が外国特許出願を行う方法としては以下の3つの方法が考えられる。

(方法1)インドに特許出願し,6週間経過後[1]に外国特許出願を行う方法(図1)

 まずインドにおいて最初に通常の特許出願又は仮特許出願[2]を行い,当該出願の日から6週間経過後にパリ条約による優先権を主張して外国へ特許出願又はPCT出願を行う(第39条(1))。但し,後述する秘密保持の指示が発せられている場合(第35条),外国へ特許出願を行うことはできない(第39条(1))。

 方法1によれば,英文明細書が用意されているような場合,最初にインドへ直接出願を行うことによって早期に優先日を確保することができる。

図1 外国特許出願の方法1 

 

(方法2)事前に外国出願許可を取得して外国出願を行う方法(図2)

 事前に外国出願の許可を請求し(規則71(1)),外国出願許可を取得した後,外国へ特許出願又はPCT出願を行うことができる(第39条(1))。外国出願の許可は,国防及び原子力に関する発明を除き,通常は請求の日から21日以内に発行[1]される(規則71(2))。

 方法2によれば,インド国内の出願を省き,外国へ特許出願を行うことができる。例えば,日本語で用意された明細書でPCT出願を行うような場合,翻訳を行ってインドへ最初の特許出願を行うより,外国出願許可を取得して外国出願を行う方が早期に優先日を確保することができる。

 

 

図2 外国特許出願の方法2 

 

(方法3)出願後に外国出願許可を得て外国特許出願を行う方法(図3)

 外国出願許可の取得前にインドに通常の特許出願又は仮特許[2]出願を行い,出願と同時又はそれ以降に外国出願許可を請求する(規則71)。そして,当該出願の日から6週間経過前,外国出願許可の取得後にパリ条約による優先権を主張して外国へ特許出願又はPCT出願を行う(第39条(1))。

 方法1と同様,早期に優先日を確保した上,更に外国特許出願を早期に行うことができる。

 

図3 外国特許出願の方法3

 

(b)最初にPCT出願を行う場合

 インドへ特許出願すること無く,最初にPCT出願を行うことも可能である。PCT出願を行う場合も当然に外国出願許可が必要であるが,上述の(方法2)と異なる手続きで外国出願許可を得ることができる。

 PCT出願は,出願人の選択によって,出願人の住所がある締約国の国内官庁又は国際事務局に対して行うことができる(PCT規則19.1)。国際事務局を受理官庁としてPCT出願を行う場合は,事前に外国出願許可を得る必要がある(「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)[3]」,項目07.02.02)。しかし,インド特許庁を受理官庁としてPCT出願を行う場合は,PCT出願と共に様式25による外国出願許可の申請を行うこともできる(「特許庁の特許実務及び手続の手引(インド)」,項目07.02.02)。但し,この場合,国際出願日が,インド特許庁によるPCT出願の受理日より繰り下がるおそれがある点に注意が必要である[4]

 

(4)外国出願許可の手続き

 外国出願許可の申請は様式25により行わなければならない(規則71)。様式25の申請書には発明の簡単な説明書を添付し,所定の手数料を納付しなければならない(様式25,第142条,規則7,第1附則)。申請書(様式25)には,発明の名称,発明者の氏名,住所及び国籍,譲受人の名称及び住所(特許出願権が出願人に譲渡されている場合),外国出願予定国の国名,外国特許出願の理由等を記載する。

 

3.秘密保持命令

 秘密保持命令手続きの流れを図4に示す。



図4 秘密保持命令手続き

 

 長官は,特許出願(図中①)に係る発明が国防目的に関連するものであると認める場合,その発明に関する情報の公開又は伝達を禁止又は制限すべき旨の秘密保持命令を発することができる(第35条(1),図中②)。秘密保持命令は,外国出願許可と異なる処理手続きである。

 秘密保持命令が発せられた場合,その命令が効力を有している間,発明の内容は出願公開されず(第11A条(3)),秘密保持命令の取り消し後に公開される(第11A条(4))。インド特許庁が受理官庁として受理された国際出願の原本及びその写しは,秘密保持命令が取り消されるまで,国際事務局及び国際調査機関に送付されない(PCT規則19.4(b))。審査請求は,原則として優先日から4年以内に行う必要があるが,秘密保持命令が発せられている場合,秘密保持命令が取り消されてから6ヶ月まで審査請求を行うことができる(第11B条(4),規則24B条(1)(ⅲ))。

 秘密保持命令が効力を有する限り,特許出願の拒絶査定はされない(第37条(1)(a))。特許性を有する発明については,特許付与直前の段階まで出願処理手続きが遂行されるが,特許は付与されない(第37条(1)(b))。秘密保持命令によって特許が付与されない期間の更新手数料の支払いは不要である(第37条(3))。また,状況によっては出願人に慰謝料が支払われる(第37条(2))。

 

 長官による秘密保持命令に対しては,いかなる審判請求も提起することができない(第37条(1)(b))。秘密保持命令は終局的なものであり,裁判所においても一切異議を唱えることができない(第41条)。

 

 長官は,秘密保持命令を発した場合,特許出願及び秘密保持命令の内容を中央政府に通知する(第35条(2),第43条,図中③)。中央政府は当該発明の公開がインド国防に有害か否かを検討する(第35条(2),図中④)。当該発明が有害で無いと認められた場合,その旨が長官に通知され(図中⑤),長官は秘密保持命令を取り消し,秘密保持命令の取り消しを出願人に通知する(第35条(2),図中⑥)。当該発明が有害であると認められた場合,秘密保持命令が維持されるが,6ヶ月置きに,又は出願人からの請求により,秘密保持命令に関して再検討され(第36条(1)),再検討結果は長官に通知される(第36条(2))。長官は当該再検討の結果を15日以内に出願人に通知する(規則72)。

 

 なお,長官が秘密保持命令を発しない場合であっても,当該発明が国防目的に関連するものと中央政府において認められたときは,その旨が長官に通知され,長官によって秘密保持命令が発せられる(第35条(3))。中央政府は,安全確保に有害と認める発明の情報を開示してはならない(第157A条)。

 

4.罰則等

(1)秘密保持命令(第35条)又は外国出願許可の規定(第39条)に違反して外国特許出願を行い又はさせた場合,当該発明に対応するインド特許出願は放棄されたものとみなされる。特許が付与されている場合,当該特許は第64条に基づいて取り消される(第40条)。

 

(2)秘密保持命令(第35条)又は外国出願許可の規定(第39条)に違反して外国特許出願を行い又はさせた場合,その者は2年以下の禁固若しくは罰金に処され,又は併科される(第118条)。

 

5.まとめ

 発明者又は出願人がインド居住者に該当し,第39条が適用される疑いがある場合,外国出願許可を取得した後,外国特許出願を行うことが望ましい。外国出願許可の取得によって,対応するインド出願が無効となり,発明者又は出願人に対して罰則規定が適用されることを避けることができる。また,インドへの特許出願に比べ,外国出願許可の取得手続きは比較的簡素であり,短期間で当該許可を得ることができる。

 

以上

 


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[1] インドにおいては特許規則に規定された期日通りに手続きが進まないこともあるが,外国出願許可に関しては請求日から21日以内に当該許可が発行されているようである。

[2] 仮明細書を添付した特許出願(第7条(4))

[3] https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/ip/pdf/201103_tokkyo_01.pdf

[4] 例えば,国際出願番号PCT/IN2012/000868のPCT出願は2012年9月14日に行われたが,付与された国際出願日は2012年9月27日であった。詳細は次号において説明する。



[1] 米国の場合は6ヶ月である。

[2] 仮明細書を添付した特許出願(第7条(4))

 

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