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早わかり中国特許
~中国特許の基礎と中国特許最新情報~
2014年10月14日
執筆者 河野特許事務所
弁理士 河野英仁
(月刊ザ・ローヤーズ 10月号掲載)
第41回 特許権評価報告制度
1.特許権評価報告制度の趣旨
実用新型特許及び外観設計特許は、実質審査を経ることなく特許権が付与されるため、権利が有効か否かの判断が難しい。
しかしながら、権利の有効性が不安定なまま権利行使され、後に特許が無効となったのでは、訴訟経済の浪費、第三者の利益を害することとなる。特に日本と異なり、実用新型特許出願及び外観設計特許出願の件数が多く、成立した特許権に基づく訴訟件数も増加傾向にあり、制度を円滑に図るべく権利の安定化に向けた制度の構築が必要となる。
そこで、権利化後に請求により実用新型特許及び外観設計特許が特許性を有するか審査官に審査させ、その結果を特許権評価報告として作成させる特許権評価報告制度(専利法第61条第2項)を採用した。
専利法第61条第2項
特許権侵害の紛争が実用新型特許又は外観設計特許に関わる場合、人民法院又は専利業務管理部門は、特許権者又は利害関係者に、国務院特許行政部門により係争実用新型又は外観設計に対する調査、分析及び評価の上で作成された特許権評価報告を提出するよう要求し、それを特許権侵害の紛争を審理、処理するための証拠とすることができる。
2.請求人
特許権者または利害関係者である(専利法第61条第2項)。ここで、利害関係者は専利法第60条に規定する者に限られる。すなわち、単独で人民法院に対し提訴または専利業務管理部門に対し処理を請求することができる者に限られる。具体的には、独占的実施許諾契約(日本の専用実施権に相当)を受けた被許諾者及び特許財産権利の合法的相続人等が含まれる(司法解釈[2001]第20号第1条)。また普通実施許諾契約(日本の通常実施権に相当)の被許諾者は特許権者から起訴権を付与された場合に限り、特許権評価報告を請求することができる(審査指南第5部分第10章2.2)。排他的実施許諾契約(日本の独占的通常実施権に相当)の被許諾者は特許権者が請求しない場合に限り、特許権評価報告を請求することができる。
逆に被疑侵害者を含めた第三者は、専利法第60条に規定する「利害関係人」ではないことから特許権評価報告を請求することができない。この点、何人も請求することが可能な日本国における実用新案技術評価制度とは相違する[1]。
ただし、特許権評価報告が作成された後は、第三者も自由に閲覧することができる(実施細則第57条)。警告を受けた者も、当該警告を受けた特許の有効性について情報を得る必要があるからである。
3.評価報告の内容
評価書には単に先行技術文献が列挙されるのみならず、新規性及び創造性を有するか否かの見解も記載される。またサポート要件等の明細書の記載要件を具備しているか否か、及び、補正の際の新規事項追加の有無までもが記載される[2]。
4.請求手続
実用新型特許権又は外観設計特許権を付与する決定が公告された後であれば、いつでも請求することができる。特許番号を記載した特許権評価報告の請求書を知識産権局に提出する。
特許権評価報告の請求書が規定の要件に合致しない場合、知識産権局は請求人に指定期間内に補正するよう通知する。ここで請求人が期間内に補正しない場合、請求を提出しなかったものとみなされる(実施細則第56条)
知識産権局は、特許権評価報告を作成する審査官を指定し、指定を受けた審査官は特許権評価報告の請求書を受領した日から2ヶ月以内に特許権評価報告を作成する(実施細則第57条)。
5.特許権評価報告に対する訂正
特許権評価報告に対し、請求人は2ヶ月以内に限り訂正の請求を申立てることができる(審査指南第5部分第10章6.2)。
(1)訂正内容
特許権評価報告に以下の誤りがある場合に、訂正を行うことができる。
①書誌的事項の情報又は文字が間違っている;
②専利権評価報告の作成手続が間違っている;
③法の適用が明らかに間違っている;
④結論が依拠した事実の認定が明らかに間違っている;
⑤その他訂正すべき誤り。
(2)訂正の手続
請求人は、訂正すべき内容及び訂正理由を明記した意見陳述書を、特許権評価報告を受け取ってから2ヶ月以内に知識産権局へ提出する。
(3)再検討のプロセス
訂正請求を受理した場合、特許権評価報告を作成した部門はグループ長、主要審査係と一般審査係からなる3人再審査グループを構成し、再審査を行う。再審査は再審査グループによる合議体により多数決方式で行われる。元の特許権評価報告を作成した審査官と審査・認可係は再審査グループに参加することができない。
再審査グループは、訂正理由が成り立たず、元の特許権評価報告に誤りがなく、訂正する必要がないと認めた場合、特許権評価報告再審査意見通知書を発行し、訂正しないという理由を説明し、訂正手続を終了させる。
一方、訂正理由が成立し、元の特許権評価報告に誤りがあり、訂正する必要があると認めた場合、訂正された特許権評価報告を発行する。
(4)訂正請求の回数
訂正の請求は原則として1回しか認められない。ただし、再審査グループが先行技術調査のため補充検索を行い、新たな特許権評価報告を作成した場合は、再度の訂正請求を行うことができる(審査指南第5部分第10章6.3)。先行技術の認定の誤り等により特許権評価報告の内容に納得できない場合は、積極的に訂正手続を行うべきである。
6.請求の効果
特許権侵害の紛争を審理、処理するための証拠とすることができる。有効性を示す特許権評価報告が証拠として提出された場合、審理が中止されることなく進行する。逆に否定的な見解がなされた特許権評価報告のコピーを被告側が提出した場合、人民法院は審理を中止することができる。なお、上述したとおり人民法院は権利の有効性を判断しないため、特許権評価報告に基づく特許無効の抗弁は認められない。
専利法第61条第2項には、「証拠とすることができる」と規定されているとおり、特許権評価報告は行政決定でもなく、特許の有効性に対する知識産権局の正式な決定でもなく、あくまで権利の安定性を示す一証拠に過ぎない。従って、いったん発行された特許権評価報告に対しては異議を申立てることはできない。特許の有効性については、復審委員会に対し無効宣告請求を行い、最終的な判断を仰ぐほかない。
→続きは、月刊ザ・ローヤーズ2014年10月号をご覧ください。
中国特許に関するご相談は河野特許事務所まで
[1] 日本国実用新案法第12条第1項
実用新案登録出願又は実用新案登録については、何人も、特許庁長官に、その実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案に関する技術的な評価であつて、第3条第1項第3号及び第2項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第3条の2並びに第7条第1項から第3項まで及び第7項の規定に係るもの(以下「実用新案技術評価」という。)を請求することができる。
[2] 専利法導読p74
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