中国司法解釈(二)意見募集稿(1) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国司法解釈(二)意見募集稿(1)

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中国最高人民法院特許権侵害紛争案件の審理における

法律適用についての若干の問題に関する解釈(二)意見募集稿(1)

2014年9月19日

河野特許事務所

弁理士 河野英仁

 

 中国最高人民法院は、2014年7月16日に公表された「特許権侵害紛争案件の審理における法律適用についての若干問題に関する解釈」に続き、「特許権侵害紛争案件の審理における法律適用についての若干の問題に関する解釈(二)」を公表した。現在意見募集が行われている段階である。本意見募集稿に対する意見提出期限は2014年9月1日である。

 

 今回公表された司法解釈は主に発明特許、実用新型特許及び外観設計特許の権利範囲解釈と、損害賠償額の認定について規定している。最高人民法院は近年下された重要判決[1]における判事事項を整理して条文形式に改め、本司法解釈案としている。司法解釈案が正式に公布された場合、法的拘束力を有することとなるため今後の実務に大きな影響を与えることとなる。以下、重要ポイントを解説する。

 

1.ファミリー特許が与える影響(第8条)

 司法解釈案第8条は以下のとおり規定している。

 

   第八条 対象特許と他の特許との間に分割出願等の直接関連する関係が存在する場合、人民法院は該他の特許及びその特許審查経過、効力が発生した特許権利付与の確認紛争裁判文書を活用して、対象特許の請求項を解釈することができる。

 

 ここで、特許審查経過とは、特許審查、復審、無効過程中の特許申請人または特許権者が提出した書面による資料を含み、国務院特許行政部門及び特許復審委員会がなした審查意見通知書、面接記録、口頭審理記録、効力を発した特許復審請求審查決定書及び特許権無効宣告請求審查決定書等である。すなわち、係争対象となっている特許とファミリー関係にある特許(中国では同族特許という)が存在する場合、同族特許の審査経過を参照して係争特許の解釈が行われる。分割出願時には禁反言が生じないよう注意する必要がある。

 

2.機能的クレームと均等(第10条)

 中国においては機能的クレームの記載は認められているものの、実施例の記載及びその均等物に権利範囲が限定解釈される恐れがある。司法解釈案第10条第2項及び第3項は以下のとおり規定している。

 

  第十条

・・・

  明細書及び図面に記載の上述した機能または効果を実現するのに不可欠な技術特徴と比較して、被疑侵害技術方案の相応する技術特徴が基本的に同一の手段をもって、同一の機能を実現し、同一の効果を達成し、かつ当業者が特許において創造性労働を経ることなく想到し得る場合、人民法院は該相応の技術特徴と機能性特徴とは同一であると認定しなければならない。

 

  明細書及び図面に記載の上述した機能または効果を実現するのに不可欠な技術特徴と比較して、被疑侵害技術方案の相応する技術特徴が基本的に同一の手段をもって、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果を達成し、かつ当業者が特許日後、被疑侵害行為発生日以前に、創造性労働を経ることなく想到し得る場合、人民法院は該相応の技術特徴と機能性特徴は均等であると認定しなければならない。

 

 被疑侵害製品が、機能的クレームの技術特徴と比較して、基本的に同一の手段をもって、同一の機能を実現し、同一の効果を達成し、かつ当業者が特許において創造性労働を経ることなく想到し得る場合、同一と認定される。

 

 さらに、被疑侵害製品が、機能的クレームの技術特徴と比較して、基本的に同一の手段をもって、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果を達成し、かつ当業者が特許日後、被疑侵害行為発生日以前に、創造性労働を経ることなく想到し得る場合、均等と判断される。すなわち、機能的クレームの解釈においても、均等論と同じ判断基準により、技術的範囲の属否を判断する旨規定している。

 

3.禁反言の例外(第16条)

 審査経過段階にて補正等を行うことにより、権利範囲を減縮した場合、補正により権利範囲を放棄した部分については、再度権利主張を行うことができない。この禁反言の法理の例外が司法解釈案第16条に規定されている。

 

  第十六条 特許申請人、特許権者が特許権利付与過程において請求項、明細書を補正し、または意見を陳述し、被疑侵害者が上述の状況において放棄した技術方案が特許権の保護範囲に属さないと主張し、権利者が該補正または陳述が審査官により採用されず、または、特許権利付与の条件と因果関係がないことを挙証証明した場合、人民法院は、該補正または陳述は技術方案の放棄とならないと認定しなければならない。

 

 これは、米国の禁反言に関するフレキシブルルールと同一であり、補正の原因が特許付与の理由と無関係である場合は、例外的に禁反言が成立しないとするものである。

 

4.間接侵害(幇助侵害と教唆侵害)(第25条)

 中国では間接侵害に関する規定及び司法解釈が存在しないものの、訴訟実務では数多くの事件で間接侵害が認められている。今回公表された司法解釈では、権利侵害責任法第9条に規定する幇助侵害及び教唆侵害を根拠に、特許侵害訴訟における間接侵害行為を認める旨規定している。

 

 幇助侵害行為については司法解釈案第25条第1項に以下のとおり規定されている。

 

  第二十五条 関連製品が専ら発明創造を実施する原材料、部品、中間物等に用いられることを明らかに知りながら、特許権者の許可を得ることなく、該製品を、該特許を実施する権利がない者に提供し、または、法により侵害責任を負わない者の実施に供した場合に、権利者が該提供者の行為は、権利侵害責任法第九条に規定する帮助侵害行為に属すると主張した場合、人民法院はこれを支持しなければならない。

 

 すなわち、特許発明の実施にのみ使用する専用品を故意に第三者に提供した場合は、補助侵害行為と認定される。提供する第三者には、法により侵害責任を負わない者、例えば一般消費者をも含んでおり、直接侵害行為が存在しない場合でも、幇助侵害行為を認める独立説を採用している。

 

 一方、教唆侵害については司法解釈案第25条第2項に規定されている。

 

  関連製品、方法が発明創造を実施するのに用いることができることを明らかに知りながら、特許権者の許可を得ることなく、図紙を提供し、技術方案を伝承する等の方式を通じて、積極的に該特許を実施する権利を有さない者または法により権利侵害責任を負わない者の実施を誘導し、権利者が該誘導者の行為は、権利侵害責任法第九条に規定する教唆権利侵害行為に属すると主張した場合、人民法院はこれを支持すべきである。

 

 第2項は設計図を提供等することにより故意に、かつ、積極的に特許発明の実施を第三者に教唆した場合も、教唆侵害を問われることとなる。

 

 本司法解釈の導入により、侵害と認定される範囲が広がることから、中国での実施行為には十分な注意が必要である。

 

5.現有技術の抗弁(第26条)

 中国特許民事訴訟では特許無効の抗弁は認められていないが、現有技術の抗弁(自由技術の抗弁)、すなわち被疑侵害製品が特許発明の出願前の現有技術(公知・公用技術)に該当することを立証した場合、特許権侵害が成立しない旨の抗弁が認められている(専利法第62条)。

 

 ところが訴訟実務では、被疑侵害製品と現有技術との同一性を立証する際に、被疑侵害製品と一つの現有技術との比較が必要であるのか、または、被疑侵害製品と複数の現有技術の組み合わせとの比較で良いのか判断が分かれていた。

 

 今回交渉された司法解釈案では、以下のとおり原則として「一つの現有技術」と比較する必要があることが明記された。ただしその例外として、被疑侵害製品が、当該一つの現有技術と公知常識との組み合わせであることが一目見て分かる(中国語で、顕而易見)場合は、当該公知常識を用いて現有技術の抗弁を行うことができる旨規定された。従って、現有技術の抗弁を主張する場合は、基本的に一つの現有技術を用い、公知技術を補足的に用いることができることを念頭においておかなければならない。

 

  第二十六条 被疑侵害者は一般に一つの現有技術方案または一つの現有設計に基づき権利侵害が無い旨の抗弁を主張することができる(現有技術の抗弁)。ただし、被疑侵害者が、被疑侵害技術方案が、特許申請日前に一つの現有技術方案と公知常識との一目で分かる組合のものに属するか、または、被疑侵害設計が特許申請日前に一つの現有設計と慣常設計との一目で分かる組合のものに属することを挙証証明した場合、人民法院は、被疑侵害者の侵害しない旨の抗弁成立を認定することができる。

 

6.標準特許とFRAND義務(第27条)

 中国でも標準特許に対するFRAND義務に関する訴訟事件が存在する[2]。FRAND 義務とは、標準特許について、公正、合理的かつ非差別的な条件(Fair、 Reasonable And Non-Discriminatory terms and conditions)で許諾する義務をいう。今回の司法解釈では下記司法解釈案第27条に規定するとおり、標準特許については公正、合理的かつ非差別的な条件で協議しなければならない旨が明らかにされている。

 

  第二十七条 非強制性の国家、業界または地方標準が関連特許の情報を明示しており、被疑侵害者が当該明示をもって該標準を実施し特許権者の許可が必要でないとして特許権侵害を構成しないと主張した場合、人民法院は一般にこれを支持しない。ただし、特許権者が公正、合理、非差別的の原則に違反し、標準に係る特許の実施許可条件について悪意をもって被疑侵害者と協議し、被疑侵害者がそれに基づき実施行為を停止しないと主張した場合、人民法院は一般にこれを支持しなければならない。

 

  標準に係る特許の実施許可条件は、特許権者、被疑侵害者により協議して確定しなければならない;十分な協議を経ても、依然として一致に至る術がない場合、人民法院に確定するよう請求することができる。人民法院は公正、合理、非差別的原則に基づき、特許の創新の程度及びその標準中の作用、標準が所属する技術領域、標準の性質、標準実施の範囲、関連する許可条件等の要素を総合的に考慮して、上述の実施許可条件を確定しなければならない。

 

⇒第2回へ続く

 

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[1] 最高人民法院主要判例は下記HPを参照されたい。

http://www.knpt.com/contents/china/china_judicial_precedent.html

[2] http://www.knpt.com/contents/china/2014.06.10.pdf