インド特許法の基礎(第10回)(2)~特許出願(6)~ - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第10回)(2)~特許出願(6)~

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インド特許法の基礎(第10回)(2)

~特許出願(6)~

 

2014年4月29日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵

 

4.追加特許への変更

 特許権者が2つの独立した特許を有する場合であって,一の特許の発明が、他の特許の発明の改良又は変更に係る発明であるとき,特許権者の申請により、当該他の特許を追加特許に変更することができる(第54条(2))。長官は、特許権者から追加特許への申請に係る申請があった場合、改良又は変更に係る特許を取り消し、この取り消した特許と同一の出願日を有する追加特許を特許権者に付与することができる。

 


図3 独立の特許から追加特許への変更

 

5.主発明に係る特許が取り消された場合における独立特許への変更

 主発明に係る特許が取り消された場合、原則として追加特許も失効するが、特許権者からの請求があるときは、裁判所又は長官は、追加特許を独立の特許とする旨を命じることができる(第55条(1)但し書き)。つまり、図4に示すように,追加特許を独立の特許に変更し、存続させることができる。追加特許が独立の特許になった場合、その特許は主発明に係る特許の残存期間について有効に存続することができる(第55条(1))。

 

図4 主発明の特許が取り消された場合における独立特許への変更

 

6.考察

(1)  追加特許のメリット

・公開又は実施された主発明に対する進歩性が否定され得るような改良発明について、特許を得ることができる。

・追加特許の更新手数料は不要である。

・主発明の特許が取り消された場合であっても、一定の条件を満たせば、追加特許を独立の特許に変更し、存続させることができる。

 

(2)  追加特許のデメリット

・追加特許の存続期間は、主発明に係る特許の存続期間と同一であるため、通常、存続期間は20年より短くなる。

・主発明の特許が失効した場合、原則として追加特許も失効してしまうため、独立特許への変更申請を行う必要がある。

 

(3)  追加特許の優先日と審査請求期限

 追加特許の優先日としては、追加特許の実際の出願日と、主発明の特許の優先日とが考えられる。

 インド特許法には追加特許の優先日について明示した規定は無く、文言上、通常の特許出願と同様、追加特許の出願日が優先日になると考えられる。

 一方、優先日は審査請求の起算日である(第11条B(1),規則24B(1)(i))。審査請求の期限は優先日又は出願日の何れか先の日から48ヶ月である。追加特許の優先日を主発明の優先日と解釈すると、仮に主発明の特許出願から48ヶ月が経過した時点で追加特許の出願を行った場合、文言上、追加特許の出願は行えるが、審査請求を行うことができないという矛盾が生ずる。同様の不都合は分割出願の場合に生じ得るが、分割出願については審査請求期限の例外が規定されている(第24B(1)(ⅳ))。しかし、追加特許については同様の例外規定は存在しておらず、かかる問題は想定されていないと考えられる。

 また、追加特許の優先日を主発明の出願日と解釈した場合、主発明の公開又は実施に基づく改良発明の新規性又は進歩性判断の例を規定した第56条(1),(2)の存在意義が失われる。

 これらのことから、追加特許の優先日は現実の出願日と解釈すべきと考えられる。

 

(4)  追加特許の活用

(a)  主発明の優先日から1年が経過し、優先権主張を利用した改良発明の出願が行えないような場合、新規の改良発明を追加特許により保護することが考えられる。例えば、主発明の特許が認められ、主発明の特許発明を実施した後、改良発明がなされたような場合、改良発明について独立した進歩性を主張することが難しいようなときでも追加特許によって、その改良発明を保護することができる。

 

(b)  主発明の特許出願に記載不備がある場合であって、主発明の優先日から1年が経過したようなとき(優先権主張出願を行えない状況)、追加特許を利用して記載不備を解消できる可能性があると考えられる。例えば、主発明の特許に含まれている一部の重要な発明に記載不備が含まれているような場合であって、その発明の新規性が主発明の完全明細書の記載に基づいて否定されないような状況であれば、その記載不備を是正した発明を追加特許として出願することができる可能性がある。ただし、記載不備により主発明の特許全体が拒絶されるような場合、追加特許を行うことはできない。追加特許は、主発明に対する特許付与後に認められるためである(第54条(4))。

 

(c)   更新手数料を削減するために、改良発明の特許を追加特許にすることが考えられる。追加特許は更新手数料が不要であるため、改良発明の維持コストを削減することができる。

 

7.関連条文

 追加特許に関連する条文[1]は次表の通りである。

第54 条 追加特許

(1) 本条の規定に従うことを条件として,特許出願のために提出された完全明細書に記載若しくは開示された発明(本法では以下「主発明」という。)の改良又は変更に係る特許出願がされ,かつ,その出願人がまた当該主発明の特許出願もするか若しくはしたか,又はそれに係る特許権者でもある場合において,当該出願人がその旨を請求するときは,長官は,当該改良又は変更についての特許を追加特許として付与することができる。

(2) 本条の規定に従うことを条件として,他の発明の改良又は変更である発明が独立の特許の対象であり,かつ,当該発明の特許権者がまた主発明の特許権者でもある場合において,当該特許権者がその旨を請求するときは,長官は,命令をもって,当該改良又は変更に係る特許を取り消すことができ,かつ,取り消された特許と同一の日付を有する,当該改良又は変更に係る追加特許を当該特許権者に対して付与することができる。

(3) 特許は,追加特許としては,その出願日が主発明に係る出願日と同日又はその後でない限り,付与されない。

(4) 追加特許証は,主発明の特許証の交付前には,交付されない。

第55 条 追加特許の存続期間

(1) 追加特許は,主発明に係る特許の存続期間又はその残存期間と同一の期間付与され,当該期間中及び当該主発明に係る特許の失効まで引き続き有効なものとする。

ただし,主発明に係る特許が本法に基づいて取り消されたときは,裁判所又は場合により長官は,所定の方法によって特許権者からの請求があるときは,追加特許は主発明の特許の存続期間中の残存期間については独立の特許となる旨を命じることができるものとし,そのときは,それに応じて当該特許は独立の特許として有効に存続する。

(2) 追加特許については,更新手数料の納付を一切必要としない。ただし,追加特許が(1)に基づいて独立の特許となったときは,以後については,当該追加特許が初めから独立の特許として付与されたのと同様の手数料を同様の期日に納付しなければならない。

第56 条 追加特許の効力

(1) 完全明細書においてクレームされた発明が,次に掲げる何らかの公開又は実施に鑑みて進歩性を含まないとの理由のみによっては,追加特許の付与については拒絶されないものとし,かつ,追加特許として付与された特許については取り消され又は無効とされない。

(a) 追加特許に係る完全明細書に記載された主発明,又は

(b) 主発明の特許に対する追加特許又は当該追加特許の出願に係る完全明細書に記載された当該主発明の改良又は変更

また追加特許の効力については,発明を独立の特許の主題とすべきであったという理由によって,争ってはならない。

(2) 疑義を払拭するため,追加特許の出願について提出された完全明細書においてクレームされた発明の新規性の査定に当たっては,主発明を記載した完全明細書もまた参酌しなければならないことを本項によって宣言する。

 

以上



[1] 特許庁 外国産業財産権情報

  インド特許法:http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/india/tokkyo.pdf

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