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対象:特許・商標・著作権
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中国最高人民法院による特許請求の範囲の解釈
~請求項と明細書の用語とが一致していない場合の権利範囲解釈~
中国特許判例紹介(32)(第1回)
2014年4月15日
執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁
無錫市隆盛ケーブル材料場及び上海錫盛ケーブル材料有限公司
再審申請人(一審被告、二審上訴人)
古河電工(西安)光通信有限公司(一審被告)
v.
西安秦邦電信材料有限責任公司
再審被申請人(一審原告、二審被上訴人)
1.概要
専利法第59条第1項は以下のとおり規定している。
専利法第59条第1項
発明又は実用新型特許権の技術的範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈に用いることができる。
具体的には、請求項の記載に基づいて、所属分野の通常の技術者が明細書及び図面を読んだ後の請求項に対する理解と合わせて、請求項の内容を確定する(司法解釈[2009]第21 号第2条)。
実務上、請求項の文言は抽象的に記載されており、当業者は明細書及び図面を参酌して、技術的範囲を確定する。ところが本事件では、請求項の記載と明細書の記載とが一致しておらず、明細書を基準とすれば特許権侵害、請求項を基準とすれば非侵害となるものであった。
司法鑑定意見、中級人民法院及び高級人民法院は共に明細書の記載に基づき権利範囲を確定し特許権侵害を認定したが、最高人民法院は逆に請求項の記載に基づき権利範囲を確定した。
2.背景
(1)特許の内容
西安秦邦電信材料有限責任公司(原告)は「平滑型金属シールディング複合ベルトの製造方法」と称する発明特許第01106788.8(以下、788特許という)を所有している。788特許は原告により2001年3月7日に出願され2004年1月28日に公告された。
問題となった請求項1の要部は以下のとおりである。なお下線は筆者において付した。
請求項1:平滑型金属シールディング複合ベルトの製造方法において,
・・・
(1)金属箔ベルトを開いて真っ直ぐに伸ばし、予熱処理を行い;
(2)プラスチック溶剤またはプラスチック膜を、温度35℃-80℃,直径ф240mm-ф600mm,目数40目-85目のラフ面細目鋼のローラーを通じて,直径ф160mm-ф480mm伝導金属箔ベルトの押出ローラーに対し,相互に回転させ,プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し,金属箔ベルト一面の基材上に熱押出し;
・・・
(6)加熱処理を経た後の複合ベルトに対し冷却処理を行い巻き取る
ことを特徴とする複合ベルトの製造方法。
(2)訴訟の経緯
原告は、無錫市隆盛ケーブル材料場及び上海錫盛ケーブル材料有限公司が原告の許可を得ることなく、788特許方法を使用して、被疑侵害製品を生産及び販売しており、また古河電工(西安)光通信有限公司(以下、まとめて被告という)が被疑侵害製品を使用しているとして陝西省西安市中級人民法院に提訴した。原告は三被告に侵害行為の停止等を求めると共に、3000万元(約4億6千万円)の損害賠償を求めた。
2006年3月28日、原告は国家知識産権局特許復審委員会に788特許の無効宣告請求を行った。国家知識産権局特許復審委員会は、2007年9月3日第10449号無効宣告請求審查決定をなし,788特許権の有効を維持した。
本事件の技術内容は非常に複雑であったことから原告は司法鑑定を人民法院に要求した。司法鑑定では、被告の製造方法と請求項に記載の製造方法とは均等との判断がなされた。2008年1月7日陝西省西安市中級人民法院は、被告による特許権侵害を認め被告に侵害行為の停止及び3000万元(約4億6千万円)の損害賠償請求を命じる判決[1]をなした。
原告は一審判決を不服として,陝西省高級人民法院に上訴し,かつ、新たに鑑定申請を行った。陝西省高級人民法院は中級人民法院の判断を維持する判決をなした[2]。原告はこれを不服として最高人民法院に再審請求を行った。
3.最高人民法院での争点
争点:請求項と明細書の文言が一致していない場合、権利範囲をどのように確定するか
問題となったのは請求項1の以下の文言である。
「プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し」
これに対して、明細書実施例には0.04mm、0.09mm及び0.07mmのプラスチック膜の厚みが記載されていた。被告製品のプラスチック膜の厚みは、0.055mm-0.070mmであった。つまり、請求項の文言ではイ号製品は技術的範囲に属さないが、明細書の記載を参酌すれば、イ号製品は技術的範囲に属することとなる。
このように請求項と明細書の記載が一致しない場合に、どちらを基準に権利範囲を解釈すればよいかが問題となった。
4.最高人民法院の判断
争点:当業者が請求項の含意を明確に確定でき、かつ、明細書が請求項の専門用語の含意に対し特別な境界線を引いていない場合,当業者の請求項の記載を基準とすべきである
司法鑑定では、請求項1に記載の「プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し」は、プラスチック膜そのものの厚みと解釈すべきであるとする鑑定意見がなされた。実施例には、0.04mm、0.09mm及び0.07mmは共にプラスチック膜の厚みとして記載されているからである。そして、被告が使用するプラスチック膜の厚みは、0.055mm-0.070mmであることから、均等論上の侵害が成立すると判断した。
これに対し、最高人民法院は、当該技術特徴の含意の解釈については、その用語と本領域の通常用語の関係、それと本案特許明細書実施例中に挙げられたプラスチック膜の厚みとの関係、特許権者の無効宣告過程における陳述、また請求項解釈の境界線等の問題を総合的に検討する必要があると述べた。
(1)請求項中の用語と、本領域における通常用語との関係
最高人民法院は、請求項1に記載された「プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し」の用語と本領域における通常用語との関係について分析した。特許明細書作成者は特許出願に係る用語の創作者であり、本領域の通常用語を選択することができ,また実際の必要性に応じて、自身が認識した適切な用語を創造することができる。
特許明細書作成者が創造した用語の含意は、当業者の角度から出発し,当業者が請求項、明細書及び図面を読んで理解した含意を有すると判断すべきであり、単純に当該用語が本領域の通常用語に属さないからといって、本領域の通常用語を特許明細書作成者の特殊用語に取って代えることはできない。
「プラスチック膜の表面に0.04-0.09mm厚の凹凸ラフ面を形成し」という用語に関し、当業者は,その含意はプラスチック膜の表面凹凸ラフ面の厚みが0.04-0.09mm,すなわちプラスチック膜の表面に形成0.04-0.09mm(40μm-90μm)の凹凸落差の表面構造が形成されていることを指すと理解することができ、この含意は明確であり、確定的である。
原告は、本技術領域に「表面に凹凸ラフ面の厚み」という言い方が存在しないことから、請求項中に記載した特殊用語は否定されると主張したが、最高人民法院は、当該主張は依拠を欠くとした。
→(第2回へ続く)
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