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酒井 尚土
クーリエ法律事務所 代表弁護士
大阪府
弁護士

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対象:遺産相続

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非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法の規定を違憲とする最高裁判決の影響は?

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相続 遺産分割

 平成25年9月4日、非嫡出子(婚姻関係にある男女間で生まれた嫡出子でない子)の法定相続分を嫡出子の2分の1する民法900条4号但し書きについて、最高裁で違憲判決が出されたことは、皆さんもご承知のところではないしょうか(判決の内容は最高裁のHPをご覧下さい。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130904154932.pdf)。

 この最高裁判決は、遅くとも平成13年7月当時においてこの規定が憲法14条1項に違反しているとしながら、他の相続について、この規定を前提としてされた遺産分割の審判その他の裁判、遺産分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない!という判断をしており、この点はかなり注目されているところです。これによって、「非嫡出子が相続人となっている多くの相続で遺産分割のやり直しが必要となる」という事態は避けられることとなったものと思われますが、この判決の内容からすると、以下の通り、今後もこの規定が違憲であることを理由とする紛争は少なからず起きてくるものと思われます。

 まず、最高裁自身がいうとおり、関係者間の法律関係が裁判、合意等により確定的な段階に至っていない事案については、この規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとすることができることになります。そうすると、本件と同じように相当古い時期に相続が起きてはいたけれども、遺産分割が長期間揉めてまとまらないまま、あるいはきちんと遺産分割をしないで放置したまま今回の最高裁判決を迎えたような事案については、非嫡出子が嫡出子と同じ相続分であることを主張できることになります。

 ですので、相続の法律関係が確定的な状態に至っているか否かを巡って争いが生じる、あるいは、遺産分割の合意等の対象として相続財産の一部が除外されているような場合などには、相続に関する法律関係の一部は処理され確定的な法律関係となっているが、残る部分については確定的なものとなっていないなどとして、非嫡出子が嫡出子と同様の相続分を主張して残部についてのみ争う、といったことも起こってくる余地があるのではないでしょうか。

  なお、本件は平成13年の相続事案なのですが、最高裁判決によれば、本件と同じような相当古い相続事案であっても、遺産分割等により既に確定的な処理がなされていれば、(本件以外の事案では)民法の規定の違憲を理由とする処理のやり直しはきかないのに、遺産分割等をせずにいた場合には民法の規定が違憲であることを前提とした処理が許されることになるという点においては、ある意味では不公平な事態が生じることになると思われます。最高裁はそのような不公平よりも過去の法律関係の法的安定性を優先し、不公平な事態の発生はやむを得ないとして容認したものと考えられます。

 

 また、最高裁は、預金債権のような可分債権(分割可能な債権)に関して、「相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については,・・・相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく,その後の関係者間での裁判の終局,明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて,法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当」としていますので、相続後の関係者間での裁判の終局、明示又は黙示の合意の成立等がない場合には、やはり非嫡出子は嫡出子と同様の相続分までの預金等の引き渡しを請求することが可能となります。例えば、相続人が以後に遺産分割等を行うことを前提として、とりあえず相続分のみの払い戻しを受けたが、そのまま合意書も作成せずに放置していたような場合には、今後、相続人間で預金についての再調整が必要になってくるかもしれません。

 

 以上のように、今回の最高裁判決の内容を踏まえると、本件以外の他の相続についても、民法の規定の違憲を前提とする紛争が生じてくる余地は十分あるように思われるわけです。

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