亡くなられた方(「被相続人」といいます)の財産を、相続人が引き継ぐための手続きについてのお話しです。
被相続人が遺言書を残していない場合、相続人全員による話し合いによって、誰が遺産を相続するかを決定します。この話し合いのことを、「遺産分割協議」といいます。
■遺産を相続しないことを何と言うのか
ところで、相続による不動産登記(相続登記)の手続きを、司法書士にご依頼いただく際、「自分以外の相続人は相続放棄をしている」との話を伺うことがあります。
しかし、くわしく話を聞いてみると、「その不動産を相続する権利を放棄した」ことを「相続放棄」と表現されているときが多いのです。これは、相続放棄ではなく、上記のとおり「遺産分割協議」と表現すべきものです。
結果としては、遺産分割協議によっても、遺産相続する権利を放棄するわけです。したがって、言葉の意味からすれば誤りとは言い切れませんが、法律用語としての相続放棄とは意味が異なります。
■遺産分割協議と債務(借金など)
相続放棄と遺産分割協議を混同したことにより問題が生じるのは、被相続人に債務(借金など)があったときです。
相続人による遺産分割協議によって、相続人中の1人が借金も含めて、すべての遺産を相続することを決めたとします。相続人が事業を営んでいた場合などは、その事業を承継する長男がすべての財産を引き継ぐのもよくあることです。
しかし、相続人間でそのような取り決めをしたとしても、借金の支払い義務から逃れることはできません。相続人は、それぞれの法定相続分に応じて債務を承継してしまうのです。
そのため、遺産分割協議をしたことで、プラスの財産(現預金、不動産など)を全く引き継がなかったのに、債務の支払い義務のみを負ってしまうことにもなりかねません。
■債務を引き継がないための相続放棄
これに対して、相続放棄をしてしまえば、プラス・マイナスいずれの財産についても一切引き継ぐことがなくなります。
民法により「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」とされています。
つまり、相続放棄をした人は、不動産や現預金などのプラス財産だけでなく、借金や保証債務などのマイナス財産についても一切を引き継がないわけです。
■相続放棄はどうやってするのか
相続放棄は、家庭裁判所で手続きをしなければなりません。
家庭裁判所に相続放棄の申述をし、それが受理されることによって、はじめて正式に相続放棄をしたことになるのです。相続放棄の手続きが出来るのは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。
注意すべきは、相続放棄の申述が裁判所に却下されてしまった場合、再度の申立をすることはできません。また、相続放棄の申述が裁判所に受理された場合、それを撤回することは原則としてできません。
よって、少しでも不安がある場合には、専門家(弁護士、司法書士のいずれか)に相談し、手続きを進めるのがよいでしょう。
・相続放棄 (高島司法書士事務所ウェブサイト)
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