- 能瀬 敏文
- 能瀬敏文法律事務所 所長
- 大阪府
- 弁護士
対象:事業再生と承継・M&A
会社法を使った中堅・中小同族企業(非公開会社)の経営承継・相続対策について書いてみます。
1 非公開会社とは?
会社法は、旧有限会社・株式会社を新・株式会社一本に統合した上、「公開会社」「非公開会社」の区分基準及び「大会社」「大会社以外」(現行法上の「中会社」「小会社」の区分は廃止)の区分基準により、新・会社法(以下、会社と言います)を4タイプに区分し、それぞれ会社の機関や株式のあり方に差異を設けています。
そして、「非公開会社」とは、定款上、その会社が発行することができる(現実に発行しているか否かを問いません)株式全部について譲渡制限(会社の承認がなければ売買、贈与等できないこと)がかかっている会社を言います。
株式を証券取引所に上場等しているかどうか(いわゆる「株式公開」しているかどうか)とは関係ありません。
もっとも、未上場会社の殆んどは、「非公開会社」であるものと思われます。
2 株主毎の異なる取扱い
会社法では、株主平等の原則を規定しつつ、非公開会社においては、定款で定めれば(本項については、その変更には特殊決議を要しますが)、①議決権 ②配当請求権 ③会社清算の場合の残余財産分配請求権の各権利について、株主毎に異なる取扱いができる、としています。後程述べます種類株式は、株式の内容自体が種類毎に異なるのに対し、これは、保有している株式の内容は同じでも、株主の人的属性に応じて異なる権利を認めるというもので、現行の有限会社法の規定を取り入れたものです。従って、株主間の信頼関係があつく、かつ、株主が少数の場合などに(もっとも法的には、そのような場合に限りませんが)、例えば、保有株式数にかかわらず、議決権も一人一票にするかとか、利益配当を頭割均等にすることなどができます(旧有限会社法の解釈もそうでした)。
では逆に、特定の株主のみに複数の議決権や優先配当を認めることは可能でしょうか?従来の有限会社法の解釈では、この制度を「少数派優遇」(「多数決原理の制約」と言っても良いでしょう)のためのものと考える傾向にありましたが、会社法上、そのように限定して考える必要は無く、「制度の濫用」と言えるケースでない限り、可能と考えられます。
そうすると、この制度を使えば、株主の流動性がない同族会社の場合、例えば株式数にかかわりなく後継者一代限りで(または「10年間」等の期間限定で)経営権を付与し、後継者の引退時または約束の期限が来たときに、あらためて後継者を決めたり(続投も含む)、経営権の扱いを協議することができることになり、経営承継・相続対策にも活用できます。
3 種類株式
会社法では、旧商法には規定の無かった①取得請求権付株式(但し、商法上、転換権付株式があります) ②取得条項付株式(但し、商法上類似の制度として償還株式があります) ③全部取得条項付株式 ④拒否権付株式(黄金株) ⑤無配当株式(但し、残余財産配分請求権とダブルで無しとすることはできません)が新設されました。
また、その内容についても、かなりの程度自由設計ができますので、会社の実情に合せた種類株式の発行が可能です。
これも、さまざまな経営承継・相続対策のニーズに活用できるでしょう。
4 議決権制限株式の発行数制限の廃止
旧商法上、議決権制限株式(議決権が無い株式も可)は、発行済み株式総数の2分の1以下でなければならない、との制約がありましたが、会社法では、非公開会社については、この制限が撤廃され、無制限となりました。
これにより、後述の単元未満株式と共に、非公開会社における「所有と経営の分離」が可能となり、経営承継・相続対策にも活用できます。
5 発行済株式の種類株式化及び種類株式の内容の変更
会社法では、原則として定款変更手続により発行済みの普通株式を種類株式にしたり、発行済みの種類株式の内容を変更したりすることができます(但し、発行済み株式すべてに譲渡制限を付す場合と取得条項株式については定款変更手続のみではできません)。
従来は、発行済み株式の内容を変更する手続規定はありませんでしたので、株主の個別の同意ないし総株主の同意を要すると理解されていましたから、この点は画期的と言えます。
例えば、普通株式のみを発行している会社であっても、定款変更によって種類株式発行会社となり、発行済みの普通株式を一斉に種類株式に変えてしまうこともでき、全部取得条件付株式を併用すれば、株主構成を一変させることも可能となります。
非公開会社の場合、「買取防衛策」は必要ないでしょうが、オーナー一族の経営承継・相続対策や合弁企業の設立、M&A等の際の株主組換え等に利用できると思われます。
6 単元株制度の変更
単元株制度(株式の一定数量を、配当請求権等を除く株主権行使の最低の単位とする制度)は、①1単元を「1000株以下の株式数を単位とすること」という要件は従来どおりですが、「かつ、200分の1以下とすること」との要件が無くなり ②単元未満株主の権利(但し、経営に関与する権利)を定款によって大幅に制約できる、こととなりました。
権利制約の範囲・程度は、議決権制限株式より広汎ですから、「所有と経営の分離」をより進めることができます。
以上のとおり、これら多様なメニューが揃えられておりますので、その利用方法を考えてみられたら良いでしょう。
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