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対象:特許・商標・著作権
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第三次改正中国商標法ガイド (第2回)
主要改正内容と日本企業が取るべき対策
河野特許事務所 2013年9月17日 執筆者:弁理士 河野 英仁
10.無効宣告制度の導入
改正前は登録商標の取り消しについては「争議」と称されていたが、本改正により専利法と同じく無効宣告制度が導入された。
(1)絶対的無効理由(改正中国商標法第44条)
登録された商標がこの法律第十条(国旗等)、第十一条(識別力なし)、第十二条(機能的立体商標)の規定に違反している場合、又は欺瞞的な手段又はその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局によりその登録商標を無効宣告する。
その他の事業単位又は個人は、商標評審委員会にその登録商標の無効を請求することができる。つまり、商標局自身が無効宣告請求を行うことができるほか、第三者は評審委員会に対し、登録商標の無効を請求することができる。
商標局は、登録商標の無効宣告決定をなした場合、当事者に書面で通知しなければならない。当事者は商標局の決定に不服がある場合、通知を受領した日から15日以内に、商標評審委員会に復審を請求することができる。評審委員会は、申請を受け取ってから9ヶ月以内に決定をなし、かつ書面にて当事者に通知しなければならない。特殊状況により延長する場合、国務院工商行政管理部門の許可を経て3ヵ月延長することができる。
その他の単位または個人が評審委員会に無効宣告請求を行った場合、評審委員会は、申請受理後、書面にて関連当事者に通知しなければならず、答弁提出期限を定めなければならない。評審委員会は、申請を受け取ってから9ヶ月以内に登録を維持するかまたは無効宣告決定をなさねばならず、かつ書面にて当事者に通知しなければならない。特殊状況により延長する場合、国務院工商行政管理部門の許可を経て3ヵ月延長することができる。
このように事案の早期解決を図るべく、9月以内の審理期間が法律により定められた。
(2)相対的無効理由(改正中国商標法第45条)
登録された商標が第13条第2項及び第3項(著名商標)、第15条(代理登録、ビジネス関係者の先登録)、第16条第1項(地理的表示)、第30条(他人の同一類似商標)、第31条(先願主義)、32条(影響力ある先使用)の規定に違反している場合、商標の登録日から5年以内に、先権利者または利害関係者は商標評審委員会にその登録商標の無効宣告を請求することができる。
ただし、悪意による登録の場合は、著名商標の所有者は、5年の期間制限を受けない。
この5年の時効には十分注意する必要がある。特に業務提携を行っている中国企業または全く無関係の第三者に先取りされており、気付いたときには5年が既に経過しているというケースが多いからである。
評審委員会は、無効宣告申請受理後、書面にて関連当事者に通知しなければならず、答弁提出期限を定めなければならない。評審委員会は、申請を受け取ってから12ヶ月以内に登録を維持するかまたは無効宣告決定をなさねばならず、かつ書面にて当事者に通知しなければならない。特殊状況により延長する場合、国務院工商行政管理部門の許可を経て6ヵ月延長することができる。
相対的無効理由の場合、当事者対立構造を取りまた事案も複雑であることが多い事から審理期間は絶対的無効理由よりも3月長い12ヵ月とされている。
絶対的無効理由及び相対的無効理由共に、無効宣告の決定に不服がある場合、通知を受理した日から30日以内に人民法院に控訴することができる。
11.無効宣告決定による蒸し返し禁止規定
登録商標の無効決定または裁定は、無効宣告前に人民法院がなしており、かつ、既に執行した商標侵害案件の判決、裁定、調解書及び工商行政管理部門がなし、かつ既に執行された商標侵害案件の処理決定及び既に履行された商標譲渡または使用許諾契約には遡及力を有さない(改正中国商標法第47条)。
例えば先の民事訴訟で勝訴し損害賠償を得た後に、他の無効宣告請求を受け、登録商標が無効となる場合がある。そのような場合でも、上述した損害賠償の返還義務が無いことを明確化したものである。ただし、商標権者が悪意により他人に損害を与えた場合、この限りではない(改正中国商標法第47条但し書き)。
12.商標の使用態様の明確化
改正中国商標法第48条が新設され商標とは、商標を商品、商品包装または容器及び商品取引文書上に用いること、または、商標を広告宣伝、展覧及びその他商業活動中に用い、商品の出所を識別するために用いる行為をいうと定義された。すなわち、商標の本質機能である出所表示機能を果たしてこそ商標の使用となることが明確化された。従って、中国市場で実際に使用することのない輸出等は商標法上の使用とはいえないことが明らかとなった。
13.不使用商標、普通名称化商標の取り消し
登録商標が指定商品の一般名称(普通名称)となった、または、正当な理由無く継続して三年間使用されなかった場合、如何なる単位または個人も商標局に登録商標の取り消し申請を行うことができる(改正中国商標法第49条)。
普通名称化した場合も取り消しの対象となることから、特に普通名称化する恐れのある商標については、Rマークを付すなど、取り消しの対象とならないよう厳重な注意が必要である。
またこれらの取り消しについての審理期間も定められている。商標局は申請の日から9月以内に決定をなさねばならない。なお特殊状況により延長する場合、国務院工商行政管理部門の許可を経て3ヵ月延長することができる。
14.取り消し申請に対する不服申立
上述した商標局の登録商標取消または取り消ししない決定について、当事者に不服があるときは、通知を受け取った日から15 日以内に商標評審委員会に復審を請求することができる(改正中国商標法第54条)。
商標評審委員会は申請の日から9月以内に決定をなさねばならず、かつ当事者に書面で通知しなければならない。特殊状況により延長する場合、国務院工商行政管理部門の許可を経て3ヵ月延長することができる。当事者は商標評審委員会の裁定に不服がある場合、通知を受領した日から30 日以内に、人民法院に訴えを提起することができる。
15.商標権侵害行為の明確化
改正中国商標法第57条では商標権の侵害行為を列挙する形で明確化している。今回の改正では商標の禁止権についての侵害態様について「商標登録権者の許諾なしに、同一商品に登録商標と類似する商標を使用するか、或いは、類似商品に登録商標と同一または類似の商標を使用し、容易に混同を招くとき」と規定した(同条第二号)。
侵害か否かは、単に商標が類似するのみならず、容易に混同を招く場合に商標権侵害が成立することを確認的に規定したものである。
また、侵害を幇助する場合、すなわち故意に他人の商標専用権を侵害する行為のために便宜条件を提供し、他人に商標専用権を侵害実施する行為を幇助した場合も、商標権の侵害とする旨規定された(同条第六号)。
16.不正競争防止法の適用
他人の登録商標、または、未登録の馳名商標を企業名称中の字句として使用し、公衆に誤認を与える行為は不正競争行為に該当し、不正競争防止法により処理する事ができる旨明確化された(改正中国商標法第58条)。これにより、商標法に加えて不正競争防止法によっても登録商標及び未登録の馳名商標の保護適用を受けることができる。
17.先使用権の成立
改正中国商標法第50条では先使用権の成立条件について規定している。すなわち、商標権者が商標登録出願する前に、他人が既に同一商品または類似商品上に、商標権者の使用より先に、登録商標と同一または類似しかつ一定の影響力を有する商標である場合、登録商標専用権者は当該使用人が、原使用範囲内で継続的に当該商標を使用することを禁止する権利がない。
このように、相手方の出願前かつ使用前に、既に中国において一定の影響力のある商標であることが条件とされている。一定の影響力とは周知であることを要求するものである。相手方の出願前に中国において周知であったことを立証することは実務上非常に困難である。また仮に先使用権が認められたとしても原使用の範囲内でしか、その使用は認められない。先使用権はあくまで最後の手段であり、先願主義を採用する中国ではとにかく先に出願し権利化しておくことが重要となる。
18.行政ルートによる罰則の強化
工商行政管理部門が権利侵害行為と認めた場合、即時に侵害行為の停止を命じ、権利侵害商品及び権利侵害商品の主に製造に使用する器具を没収、廃棄処分し、かつ、違法経営額が5万元(約80万円)以上の場合、違法経営額の5倍以上(400万円以上)の罰金を科し、違法経営額がないまたは違法経営額が5万元に達しない場合、25万元(400万円)以下の罰金を科すこととした(改正中国商標法第60条)。
また5年以内に2回以上商標権侵害行為を実施またはその他重大な状況にある場合、極力重く処罰することとしている。すなわち従来では行政ルートによる罰則が十分でなく巧妙な手口により再犯を繰り返すといった事態が多かった。法改正後は罰金額を増加させ、特に再犯には厳しく対処することで、侵害行為の抑制を図らんとしている。
19.損害賠償額の立証容易化と3倍賠償の導入
改正中国商標法第63条では、現在議論されている第4次専利法改正案と同様の法改正が行われた。
(1)損害賠償額の認定
損害賠償額の決定は以下のプロセスで行われる。
(i)商標専用権侵害の損害賠償額は、権利者が侵害による受けた実際の損失により確定する
(ii)実際の損失が確定することが困難な場合は、侵害者が侵害により得た利益により確定する
(iii)権利者の損失または侵害者が侵害により得た利益を確定することが困難な場合、該商標の使用許諾費の倍数に基づき合理的に確定する。
ここで、悪意のある商標権侵害に対しては情状を考慮し、上述の方法により確定した額の1~3倍以下の額を確定することができる。また賠償額には、権利者が侵害行為を抑止するために支払った合理的な支出を含む。
このように、故意侵害に対しては米国と同じく3倍賠償の規定が導入されたため、十分な注意が必要である。
(2)帳簿の提出
人民法院は、賠償額を確定するために、権利者が既に挙証に尽力したものの、侵害行為に関する帳簿、資料が主に侵害者が把握している状況下では、侵害者に関連する帳簿、資料を提供するよう命じることができるようにした。
ここで、侵害者が提供しない、または虚偽の帳簿または資料を提供した場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠を参考として賠償額を判定することができる。専利法でも問題となっているが、損害賠償額の立証は困難であり、特に相手方が帳簿を提出しない場合、正確な損害額を立証することができない。本改正により、人民法院が帳簿の提出を要求することができるようにしたものである。
(3)法定賠償
権利者が、侵害項により受けた実際の損失、侵害者が侵害により得た利益、登録商標の使用許諾費用を確定することが困難な場合、人民法院は、侵害行為の情状により300 万元(4,800万円)以下の損害賠償を命ずる。従来は50万元(約800万円)に過ぎなかったが、実務上多用される法定賠償額の上限を増加させることとしたものである。
20.不使用の場合の損害賠償請求制限
登録商標専用権者が、賠償を請求し、被疑侵害者が、登録商標専用権者が登録商標を使用していないという抗弁を主張した場合、人民法院は、登録商標の専用権者にその前3年以内に実際に当該登録商標を使用した証拠を提出するよう命じることができる。登録商標専用権者がその前3年以内に実際に登録商標を使用していたことを証明できず、また侵害行為によりその他受けた損失を証明できない場合、被疑侵害者は損害賠償責任を負わない(改正中国商標法第64条第1項)。
すなわち、3年以内に実際に使用していないと出所の混同による業務上の損失が生じ得ないことから損害賠償請求を認めないこととしたものである。本規定は主に悪質な先取り商標権者に対する規定である。悪意で先取りする商標権者は一般に使用することなく、商標を高額で売りつけるべく商標権侵害訴訟を提起することが多い。このような場合、不使用の抗弁を行うことで、損害賠償請求を認めないこととしたものである。
以上
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