早わかり中国特許:第23回 無効宣告請求(後半) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第23回 無効宣告請求(後半)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第23回 無効宣告請求(後半)

河野特許事務所 2013年5月22日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2013年3月号掲載)

 

1.概要

 第22回に引き続き無効宣告請求手続について説明する。

 

2.無効宣告請求における手続

(1)無効宣告請求人による証拠の追加

 無効宣告請求後1月以内であれば、無効宣告請求人は、無効宣告理由を追加することができる。併せて証拠も追加することができる(実施細則第67条)。証拠を追加する際には、無効宣告理由との関連性を述べなければならない。例えば、新たな先行技術分件を証拠として追加するのであれば、既に主張している創造性違反(専利法第22条第3項)に関連する証拠であることを記載しなければ成らない。参考図1は無効宣告請求手続の概要を示すフローチャートである。

 

 

 

 

参考図1 無効宣告請求手続の概要を示すフローチャートである。

 

 無効宣告請求日から1月を超えて証拠を提出した場合、以下の場合を除き原則として復審委員会は証拠を考慮しない。

(i)特許権者が併合方式により補正した請求項または提出した反証について、請求人が復審委員会により指定された期限内に証拠を補足し、かつ当該期限までに当該証拠について関連の無効宣告理由を具体的に説明した場合。すなわち、特許権者は無効宣告過程において請求項の補正を行うことができるが、請求項の併合方式による補正の場合は請求項の構成要件が大きく変更するため、一定期間を付与し新たな証拠の提出を認めることとしたものである。同様に特許権者の反証に反論するために必要である場合も、一定期間内に新たな証拠を提出することができる。

(ii)口頭審理での弁論の終了前に、技術用語辞書、技術マニュアル、教科書等その属する技術分野における公知常識に係る証拠、または証拠の法定の形式を完備させるための公証書類、原本等証拠を提出し、かつ当該期限までに当該証拠について関連の無効宣告理由を具体的に説明した場合。口頭審理終了前までであれば、公知技術を示す証拠であれば追加することが可能である。

 なお、日本企業が無効宣告請求人側である場合、外国語(中国語外)の証拠を提出する場合が多い。この場合も同様に上述した挙証期限が適用される。翻訳には期間を要するため、早めの証拠収集が重要となる。

 

(2)特許権者による証拠の追加

 特許権者は無効宣告請求書が提出された後の答弁書提出期間内、及び、請求人が無効宣告理由を追加した後の答弁書提出期間内(何れも一ヶ月以内)に、証拠を提出することができる。例えば、先行技術と対比した発明の効果を主張するための実験データ、商業的成功を立証するための売上データ等を提出することができる。

 

(i)期間外に提出される証拠

 期限内に提出されなかった証拠は原則として復審委員会に考慮されない。ただし、技術用語辞書、技術マニュアル、教科書等その属する技術分野における公知常識に係る証拠、または証拠の法定の形式を完備させるための公証書類、原本等証拠については、口頭審理での弁論の終了前までであれば補足することができる。特許権者が証拠を提出、または補足する場合、期限内に提出または補足した証拠について具体的に説明しなければならない。

 

(ii)外国で形成された証拠

 特許権者が提出した証拠が外国語によるものである場合、中国語訳分を提出しなければならず、中国語訳文の提出期限は上述した挙証期限が適用される。

 日本等中国本土以外で形成された証拠は、所在国の公証機関によって証明され、当該国の中華人民共和国駐在大使館・領事館によって認証されたか、若しくは中華人民共和国と同所在国で締結した関連条約に規定された証明手続を履行したものでなければならない。

 

 証拠が、香港・マカオ・台湾地区で形成された場合には、関連する証明手続を履行しなければならない。ただし、以下の場合は、証明手続は不要である。

(a)証拠が、香港・マカオ・台湾地区以外の国内における公式ルートから取得できる場合。例えば、日本国特許庁から取得できる特許公報、または公共図書館から取得できる外国の文献資料等である。

(b)当該証拠の真実性を証明するに足るその他の証拠がある場合。

(c)相手当事者が当該証拠の真実性を認めた場合。

 

 無効宣告請求手続における主要な証拠は特許公報、専門書、辞書であり翻訳は必要であるものの公証及び認証手続は不要である。問題となるのはカタログ、展示会のパンフレット等である。これらの文献を証拠として提出する場合、最初に公証役場にて公証を得、その後在日中国大使館にて認証を受ければよい。認証には1~2週間程期間を要する場合もあり、早めに準備しておいた方が良い。

 

(3)期間の延長

 無効宣告請求の審理手続において、復審委員会が指定した期間を延長することはできない(実施細則第71条)。

 

(4)職権審理

 無効宣告請求手続において、復審委員会は当事者が請求した範囲、提出した理由、または、証拠等に限定されることなく、職権に基づいた審査を行うことができる(審査指南第4部分第1章2.4)。特許権は対世的効力を有することから職権での審理を認めるものである。

 

(5) 無効宣告請求審査通知書

 無効宣告手続において以下に挙げる状況の何れか1つに該当する場合、復審委員会は当事者双方に対して、無効宣告請求審査通知書を発行することができる。

(i)当事者が主張した事実または提出した証拠に、不明瞭或いは疑問がある。

(ii)特許権者が請求項について自発補正を行ったが、当該補正が、専利法、実施細則及び審査指南の関連規定に合致していない。なお、無効宣告請求時における補正については第19回で説明したとおりであるので詳細な説明は省略する。

(iii)職権に基づいて、当事者が言及していない理由または証拠を引用する必要がある。 (iv)無効宣告請求審査通知書を発行する必要のあるその他の状況。

 

 当事者は、審査通知書を受け取った場合、受領日から1ヶ月以内に回答しなければならない。期限内に回答がない場合に、当事者が転送された書類に係る事実、理由及び証拠をすでに了承し、反対意見を提出していないものと見なす。

 

(6)口頭審理

 特許審判委員会は当事者の請求または事件内容の必要に応じて、無効審判請求について口頭審理を行う旨を決定することができる(実施細則第70条)。事実を究明し、当事者に意見陳述の機会を付与するためである。

 実務上は当事者が請求しなくとも口頭審理が行われることが多いが、技術内容が複雑であり口頭での説明が必要である場合、または、復審委員の目の前でデモンストレーションが必要と判断した場合、当事者側から積極的に口頭審理の請求を行うべきであろう。

 

 口頭審理は復審委員会が入居するビルの審判庭内で行われる。参考図2に審判庭を示す。参考図2に示す審判廷は3名の合議体審判官による審理が行われる際に用いられるものである。5名の合議体審判官による審理が行われる場合、より大きなスペースが確保される。

 

 

 参考図2 審判庭

 

(i)当事者側の口頭審理の請求

 当事者が口頭審理の請求を行う場合、以下の理由を記載した書面を復審委員会に提出しなければならない(審査指南第4部分第4章2)。

(a)一方の当事者が、相手方との対面による反対尋問または弁論を要求している。

(b)合議体と対面で事実を説明する必要がある。

(c)実物によるデモンストレーションを行う必要がある。

(d)証言を行った証人に、出廷証言させる必要がある。

 

 口頭審理がまだ行われていない無効宣告案件について、復審委員会で審査決定を行う前に、当事者が上述した理由を記載した書面を提出して口頭審理請求を行った場合、合議体は口頭審理の実施に同意しなければならない。

 

(ii)復審請求人の口頭審理請求

 復審手続において、請求人は以下の理由を記載した書面を復審委員会に提出しなければならない(審査指南第4部分第4章2)。

(a)合議体と対面で事実説明又は理由陳述をする必要がある。

(b)実物によるデモンストレーションを行う必要がある。

 

 復審請求人が口頭審理請求を提出した場合、合議体は案件の具体的事情に応じて口頭審理を実施するか否かについて決定する。

 

(iii)合議体による口頭審理の実施

 無効宣告手続または復審手続において、合議体は案件の状況上の必要に応じ自ら口頭審理の実施を決定することができる。

 

(iv)口頭審理の開始と終結

 復審委員会が無効宣告請求について口頭審理を行う旨を決定した場合、当事者に口頭審理通知書を発送し、口頭審理の期日及び場所を通知しなければならない。当事者は通知書に指定された期間内に答弁しなければならない(実施細則第70条第2項)。無効宣告請求人が復審委員会が発送した口頭審理通知書に対して指定期間内に答弁せず、かつ口頭審理に参加しない場合、その無効審判請求は取り下げられたとみなす。特許権者が口頭審理に参加しなかった場合、欠席審理を行うことができる(実施細則第70条第3項)。

 口頭審理を経て無効宣告請求手続における審理は終結する。

 

以上

 

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