中小企業承継円滑化法の遺留分の特例の合意の内容 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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閲覧数順 2017年02月23日更新

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中小企業承継円滑化法の遺留分の特例の合意の内容

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2 適用範囲

 遺留分に関する民法の特例の制度は、円滑な事業承継の実現を目的とするものですから、その限度で認められ、その適用範囲は、法律上限定されています。

(1)特例中小企業者

 まず、遺留分に関する民法の特例の制度を利用できるのは、特例中小企業者です。

ここで、特例中小企業者とは、中小企業者のうち、一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社(金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式または同法67条の11第1項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。)をいいます(中小企業円滑化法3条1項)。その注意点は次の通りです。

 第1に、中小企業円滑化法2条に規定する中小企業者であることが必要になります。

 第2に、中小企業者のうち、個人事業主ではなく、会社であることが必要になります。

 第3に、株式を上場しまたは店頭登録している株式会社は除かれます。

 第4に、中小企業円滑化法施行規則2条において、3年以上継続して事業を行っていることが必要になります。

【特例中小企業者の要件】

・中小企業円滑化法2条に規定する中小企業者であること

・個人事業主ではなく、会社であること

・株式上場会社または店頭登録している株式会社でないこと

・3年以上継続して事業を行っていること

(2)旧代表者

 次に、特例中小企業者の株式等を旧代表者が生前贈与したことが必要になります。

 ここで、旧代表者とは、特例中小企業者の代表者であった者(代表者である者を含みます。)であって、その推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹およびこれらの者の子以外のものに限ります。)のうち少なくとも一人に対して当該特例中小企業者の株式等の贈与をしたものをいいます(中小企業円滑化法3条2項)。

その注意点は次の通りです。

 第1に、旧代表者は特例中小企業者の代表者であった者、または、現に代表者である者でなければなりません。遺留分の算定に係る合意をする時点において、特例中小企業者の代表者を既に辞任している場合であっても、後継者とともに代表者である場合であっても問題はありません。また、会社の代表権を有していれば、社長等の肩書は問題になりません。

 第2に、相続開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹およびこれらの者の子以外の推定相続人のうち少なくとも一人に対して株式等を生前贈与していることが必要になります。

つまり、旧代表者が遺贈や死因贈与により株式等を譲渡した場合には、適用対象外となります。遺贈や死因贈与はいずれも撤回の自由が認められており(民法1022条、最判昭和47・5・25民集26巻4号805頁)、合意の法的安定性を害するとの理由からです。

また、生前贈与は、遺留分を有する推定相続人、すなわち、配偶者および一定の直系血族に対して行う必要があります。

 株式等とは、株式会社の株式のほかに持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)の持分を贈与する場合を含む趣旨です。この株式には、株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式(完全無議決権株式)が除かれます。このような株式は、会社の経営上の意思決定に影響がないため、事業承継の障害にならず、除外されています。

【旧代表者の要件】

・特例中小企業者の代表者であったかまたは現に代表者であること

・兄弟姉妹およびこれらの子以外の推定相続人に対して、株式等(完全無議決権株式を除く。)を生前贈与したこと

(3)後継者

最後に、旧代表者の株式等の生前贈与により、後継者の有する議決権が過半数に達したことが必要になります。

 ここで、後継者とは、旧代表者の推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹およびこれらの者の子以外のものに限ります。)のうち、当該旧代表者から当該特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者または当該贈与を受けた者から当該株式等を相続、遺贈もしくは贈与により取得した者であって、当該特例中小企業者の総株主または総社員の議決権の過半数を有し、かつ、当該特例中小企業者の代表者であるものをいいます(中小企業円滑化法3条3項)。

 その注意点は次の通りです。

 第1に、旧代表者の推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹およびこれらの者の子以外のものに限ります。)のうち、当該旧代表者から当該特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者または当該贈与を受けた者から当該株式等を相続、遺贈もしくは贈与により取得した者であることが必要になります。したがって、兄弟姉妹や甥姪を後継者とする場合は適用範囲外となります。中小企業円滑化法は、一般には、子への事業承継に際しての活用が念頭に置かれているためです(丸山秀平・坂田純一編著『事業承継特例法と事業承継の法務・税務』35頁)。

 第2に、当該株式等を取得することで、当該後継者が単独で総株主または総社員の議決権の過半数を有していることが必要になります。議決権の過半数を有している必要があるのは、会社の意思決定を支配できないような場合には、事業の安定は見込まれず、円滑な事業承継に関係しないと考えられるためです。なお、総株主には、株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主は除かれます。

 また後継者が既に所有していた株式等で議決権が過半数を超えている場合には、合意をすることができません(中小企業円滑化法4条1項ただし書)。

 これは、後継者が合意の対象となる株式等を除いても議決権の過半数を所有している場合には、合意の対象となる株式等が遺留分減殺請求によって分散したとしても、後継者はなお、議決権の過半数を所有していることから、会社の経営に影響を与えることがなく、円滑な事業承継の実現に関係しないと考えられたためです。

 第3に、遺留分の算定に係る合意をする時点において、現に特例中小企業者の代表者になっていることが必要になります。

【後継者の要件】

・旧代表者の推定相続人(兄弟姉妹およびこれらの子を除きます。)であって、旧代表者から株式等(完全無議決権株式を除きます。)の贈与を受けまたはその贈与を受けた者からその株式等を相続、遺贈もしくは贈与により取得したこと

・総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の過半数を有していること

・現に特例中小企業者の代表者であること

3 後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定め

旧代表者の推定相続人は、除外合意や固定合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる場合に後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定めをしなければなりません(中小企業円滑化法4条3項)。

(ⅰ)当該後継者が除外合意や固定合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合

(ⅱ)旧代表者の生存中に当該後継者が当該特例中小企業者の代表者として経営に従事しなくなった場合

 これらの場合のように、除外合意や固定合意をした後に、後継者が合意の対象とした株式等を処分したり、当該特例中小企業者の代表者を辞した場合には、円滑な事業承継の実現を図るための特例合意の趣旨が没却されてしまいます。しかし、その一方で、これらの場合に特例合意の効力を当然に消滅させることとすると、合意の対象とした株式等の価値が下落したような場合に後継者が当該株式等を処分することによって、自由に特例合意の効力を失わせることができてしまいます。これでは、円滑な事業承継が実現されません。

 そこで、あらかじめ、旧代表者の推定相続人間で協議をして、後継者以外の推定相続人がとることができる措置を定めるべきことが規定されています。

 この措置の具体的な内容について、法は特に定めを置いていませんが、次のような定めを置くことが考えられるでしょう。

(ⅰ)合意の対象とした株式等を処分した場合には、対価の全部または一部を推定相続人に分配すること

(ⅱ)後継者以外の推定相続人が単独で合意を解除することができること

(ⅲ)後継者に対して一定の違約金を請求することができること

 なお、(ⅲ)の場合に制裁金を請求することができる旨の解説書もありますが、法的性質としては、債務不履行の場合の損害賠償額の予定と解するべきです。民法は、債務不履行の場合に民事制裁という概念を条文上、掲げていないからです。

4 株式等以外の財産に関する遺留分の算定に係る合意等

(1)除外合意・固定合意との関係

 除外合意と固定合意は、二者択一の関係にあるわけではありません。すなわち、後継者が旧代表者から受けた株式等のうち、一部について除外合意の対象としつつ、残りの株式等について固定合意の対象とすることが可能です。

そして、株式等の除外合意・固定合意の双方またはいずれか一方の合意をすることにより、事業用資産等の除外合意(中小企業円滑化法5条)、推定相続人間の衡平を図るための措置に関する定め(中小企業円滑化法6条1項)、非後継者が贈与を受けた財産についての除外合意(中小企業円滑化法6条2項)をすることが可能になります。


(2)事業用資産等の除外合意

 旧代表者の推定相続人は、除外合意や固定合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、後継者が当該旧代表者からの贈与または当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈もしくは贈与により取得した財産(当該特例中小企業者の株式等を除きます)の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができます(中小企業円滑化法5条)。

 株式等に限らず、事業の用に供している不動産や現金等も後継者に確保させることが円滑な事業承継の実現には不可欠です。そこで、後継者が取得した株式等以外の財産で事業活動を継続するために必要な資産についても、遺留分算定の基礎財産に算入しないこととすることが認められます。

なお、事業用資産等の固定合意は認められていません。これは、株式等と違って、事業用資産は、後継者の経営努力により合意後に目的物の評価額が向上することは考えにくいためです。

(4)推定相続人間の衡平を図るための措置に関する定め

 旧代表者の推定相続人が、除外合意や固定合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、当該推定相続人間の衡平を図るための措置に関する定めをすることができ、この場合においては、当該定めは、書面によってしなければなりません(中小企業円滑化法6条1項)。

 株式等の除外合意(法4条1項1号)、固定合意(法4条1項2号)、事業用資産等の除外合意(法5条)は、すべて推定相続人全員の合意が必要になるわけですが、後継者にとって有利なものである以上、後継者以外の推定相続人の合意を得ることが困難となることが予想されます。そこで、後継者以外の推定相続人の利益を考慮し、推定相続人間の衡平を図り、事業承継の合意をしやすくするため代償措置を定めることが認められます。

 例えば、(ⅰ)後継者が後継者以外の者に対して一定額の金銭を支払う旨の合意をすること、(ⅱ)後継者が旧代表者に疾病が生じた場合には医療費を負担する旨の合意をすること、(ⅲ)後継者が旧代表者の生活費を負担する旨の合意をすることが想定されます。

(3)非後継者が贈与を受けた財産についての除外合意

 旧代表者の推定相続人は、推定相続人間の衡平を図るための措置に関する定めとして、後継者以外の推定相続人が当該旧代表者からの贈与または当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈もしくは贈与により取得した財産の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができます(中小企業円滑化法6条2項)。

 なお、代償財産除外合意の対象とすることができる財産の種類や額に制限はありませんが、固定合意は認められていません。

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