大塚 嘉一
オオツカ ヨシカズバニティフェア
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バニティフェア、と聞いて、あなたは何を思いうかべますか。
サッカリーの小説「虚栄の市」ですか?お洒落な雑誌ですか?それともポルトローナ・フラウの椅子ですか?
ここでは、椅子のバニティーフェアについて、お話を少々。
クルマ好きなら、フェラーリやマセラティのシートに、ポルトローナ・フラウ社のものが採用されていることをご存知だと思います。同社のバニティフェアは、機能と美しさとが融合した椅子の名品です。とても高価なので、単独で買うことには勇気がいりそうですが、私は、自宅を建てたときに、住宅ローンに紛れ込ませて、二脚を購入しました。色は、定番の赤です。
実際に腰をかけてみると、その「包まれ感」には圧倒的なものがあります。全世界で、あなたが心身を休める場所、あなたの居場所はここですよ、と保証されたような感覚です。
伝統的な日本の居住生活にはなく、しかしあるといいなと思われるものの筆頭に、椅子による安楽、というのがあると思います。
私は、今でも、一日の弁護士業務の後、早くあの椅子に包まれたいと、家路を急ぐことがあります。
子供たちが生まれ、成長していく姿を見守った我が家のバニティフェアは、やがて彼らが飛んだり跳ねたりする遊び場所と化しました。
さる建築家が、我が家にいらした折、落書きの跡がうっすらと残るそれを見て、おっしゃいました。「これを、普段使いしている家を初めて見ました」。
バニティフェア、それは、サッカリーが皮肉ったような上流階級の虚飾ではなく、人間の実存に大いに役立つ物なのでした。
今は、大塚家具が扱っているようです。