大塚 嘉一
オオツカ ヨシカズ「私の履歴書」 利根川進教授の場合
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日本経済新聞の「私の履歴書」を毎日読んでいます。弁護士になって定期購読を始めましたから、もう25年以上になります。財界人と文化人とが、交互に登場します。財界人の場合、ポジティブ思考の人が多いのに対して、文化人は内省的な人が多いな、というのが私の観測です。同じような境遇に出会っても、財界人は積極的に運命を切り開いていこうとし、文化人はその状況の背景を掘り下げていこうとする、というような。
現在(平成25年10月)の執筆者は、分子生物学者の利根川進教授です。教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したのは昭和62年ですから、もうおよそ四半世紀も前のことになるんですね。当時の日本国民の熱狂ぶりを思い出します。
教授は、先の財界人と文化人との類型に照らし合わせてみると、両者のハイブリッドのような感じがします。困難な場面では、優先順位を付けて突破しようとする積極性を持ち、今後の日本については、人材こそが日本の財産であるとの洞察からその育成を説く、といった姿勢から、そう思います。
感動したのは、若くして亡くなった次男さんに対するお気持ち。とても優秀な方だったそうです。ノーベル賞を返上してでも、取り戻せるものなら取り戻したい、との言葉には、深い愛情を感じました。
正直に言うと、利根川教授には、もっと非情とまでに言わなくても、とてもクールな方という印象をもっていました。先生、ごめんなさい。しかし、それも覆りました。
ある人物の意外な一面を発見する、というのも、「私の履歴書」を読む楽しみの一つです。