対象:事業再生と承継・M&A
適格単独新設分割において、分割会社(資本金2,000)は減資を行うと煩雑になるので、下記のように分割計画で純資産の利益剰余金のみを減少させて、承継会社においては引継いだ純資産を資本金とその他の資本金とすることは可能でしょうか?
また可能な場合、税務仕訳では税務上減少する資本金等の額は2,000×5,000/10,000(0.5)=1,000となり、会計上と異なってしまいますが問題ないのでしょうか?
この会計上と税務上の差異はどのように考え、処理したらよいのでしょうか?
【分割会社分割前】
資産20,000/負 債10,000
/資 本 金 2,000
/利益剰余金8,000
【分割会社分割時】(会計上)
負 債 5,000/資産10,000
利益剰余金5,000
【分割会社分割時】(税務上)
負 債 5,000/資産10,000
資 本 金 1,000
利益積立金4,000
【承継会社】(会計上)
資産10,000/負 債 5,000
/資 本 金 1,500
/その他の資本剰余金3,500
【承継会社】(税務上)
資産10,000/負 債 5,000
/資 本 金 1,000
/利益積立金 4,000
宜しくお願いいたします
しずかちゃんさん ( 埼玉県 / 女性 / 54歳 )
回答:1件
会計と税務で資本金が異なっても問題ありません
しずかちゃんさん、こんにちは。
ご質問内容は、分割会社(出す側)が資本金を減らさず、利益剰余金だけを減らして新会社に資産・負債を移す処理は可能か、その場合、税務上の「資本金等の額」の按分計算で会計上の金額と異なることに問題はないか、会計と税務の差異をどのように整理・説明すればよいか、ということですね。以下、ご説明いたします。
1.会計上の考え方
会社分割は会社法第757条に基づく組織再編の一つで、分割会社が新設会社に資産・負債を承継させるものです。会計上の処理は、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」に定められています。同基準第15項では、「移転する資産及び負債を帳簿価額で除却し、その差額を自己資本の減少として処理する」とされており、資本金を動かさずに利益剰余金を減らす処理が認められています。つまり、資本金を減額する必要はなく、登記手続きの煩雑化も避けられます。また、承継会社(新会社)側では同基準第17項により、「受け入れた資産及び負債を帳簿価額で引き継ぎ、その差額を資本金及び資本剰余金として計上する」と規定されています。したがって、新会社では「資本金1,500、資本剰余金3,500(計5,000)」など、経営判断による配分が可能です。このため、分割会社で利益剰余金を減らし、新会社で合理的に資本金・剰余金を設定する方法は、会計上妥当な処理といえます。
2.税務上の考え方
一方、税務上の「資本金」や「剰余金」は、会計とは異なる定義で扱われます。法人税法第2条第16号では「資本金等の額」を、資本金・資本剰余金などを含む金額として定義しており、その具体的な計算方法は法人税法施行令第4条の3に規定されています。同条第1項では、「資本金等の額は、分割前の資産の帳簿価額のうち分割により移転する資産の帳簿価額の割合により按分する」と定められています。したがって、分割前の資本金等が2,000で、移転資産が10,000/全資産20,000であれば、2,000×0.5=1,000となり、税務上の資本金等の額は1,000とされます。このように、税務上は会計処理に関係なく、法令上の按分式により機械的に算定する仕組みです。よって、会計上1,500、税務上1,000と異なっても、法令上まったく問題ありません。
3.会計と税務で金額が異なる理由
会計と税務は目的が異なるため、同じ用語でも内容が異なります。
この差は誤りではなく、制度上の前提です。それぞれの目的に沿った処理を行い、双方の整合性を説明できるように管理しておけば問題はありません。
添付の表1を参照ください。
4.実務上の留意点
会社分割の会計および税務処理を行う際には、いくつかの実務的な注意点があります。まず重要なのは、分割計画書の段階で資本金と資本剰余金の配分を明確に定めておくことです。新設される承継会社において、どの金額を資本金とし、どの金額を資本剰余金とするのかを具体的に記載しておけば、登記や会計処理の際に不整合が生じにくくなります。これは、後の決算処理や監査対応でも根拠資料として有用です。
次に、税務上の按分計算書を必ず作成し、保存しておくことが必要です。法人税法施行令第4条の3に基づく「資本金等の額の按分計算」は、税務上の必須手続であり、分割前後の資産・負債の帳簿価額の割合に応じて算定されます。このため、分割前の貸借対照表をもとに、移転資産・移転負債の金額と按分比率を明確に文書化しておき、法人税申告時に根拠として提示できるよう準備しておくことが重要です。
また、決算書への注記で、会計上と税務上の差異を明確に示すことも欠かせません。たとえば、「税務上の資本金等の額は、法人税法施行令第4条の3に基づく按分計算によるものであり、会計上の金額とは異なります」と記載しておけば、監査人や税務当局に対しても処理の整合性を明確に説明することができます。
さらに、税務申告書の別表における正確な記載も不可欠です。法人税の申告時には、別表5(1)および5(2)において、税務上の「資本金等の額」と「利益積立金額」を正しく記載し、会計上の金額との対応関係を整理しておく必要があります。これにより、将来の配当制限や欠損金控除限度額の計算などにも影響を及ぼす可能性のある誤りを防止することができます。
このように、会社分割の実務では、書類作成・計算根拠・注記・税務申告の一連のプロセスを整えておくことが、法令遵守と実務の安定運営の双方において極めて重要です。
5.結論
分割会社が資本金を減らさず、利益剰余金を減らして処理することは会計上問題ありません。税務上も、資本金等の額を移転資産の割合で按分計算するため、会計上と金額が異なっても法令上・実務上ともに支障ありません。会計と税務の目的・ルールの違いによる当然の差異であり、適切に区分管理すれば正しい処理です。
会計と税務で資本金の金額が異なるのは自然なことであり、正しい処理を行えば問題ありません。ただし、実際の分割比率や勘定設定は会社ごとの状況によって異なるため、顧問税理士や公認会計士などの専門家に必ず確認してください。貴社の円滑な再編手続きと、今後のさらなる事業発展を心よりお祈り申し上げます。
参考URL
企業会計基準第7号(ASBJ)
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=33
法人税法施行令 第4条の3
https://www.zeiken.co.jp/hourei/HHHOU000010/4-3.html
法人税法施行令 第8条
https://www.zeiken.co.jp/hourei/HHHOU000010/8.html
会社法 第757条・第758条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
評価・お礼
しずかちゃんさん
2025/10/28 05:24小松先生、ご回答有難うございます。
詳しくわかりやすい解説で、よく理解することができました。
回答専門家
- 小松 和弘
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ホットネット株式会社 代表取締役
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