事業承継と相続人等に対する売渡請求(会社法174条)による取得 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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事業承継と相続人等に対する売渡請求(会社法174条)による取得

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相続

8 相続人等に対する売渡請求(会社法174条)による取得

(1)手続

 株式会社(公開会社を含む)は,相続その他の一般承継により会社の譲渡制限株式を取得した者に対し,当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法174条)。なお,定款の定めを設ける時期に制限はありませんから,相続後に定款変更して相続人に対して売渡請求することも可能です(相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔『論点解説 新・会社法』162頁)。定款変更に必要な手続は株主総会の特別決議です(会社法466条,会社法309条2項11号)。

定款の定めをして売渡し請求をする際には,その都度,株主総会の特別決議によって,売渡請求をする株式の数,対象となる者の氏名又は名称を定めなければなりません(会社法175条1項,309条2項3号)。売渡請求の対象者は当該株主総会で議決権を行使することができません(会社法175条2項)。株主総会の特別決議の後,会社は売渡請求を行いますが,相続があった日から1年以内にすることが必要です(会社法176条1項ただし書)。財源規制(会社法461条1項5号)があります。

(定款案)

(相続人等に対する株式の売渡請求)

第○条 当会社は,相続,合併その他一般承継により当会社の株式を取得した者に対し当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

 相続人等に対する売渡請求の対象となる株式は,譲渡制限株式に限られますから,売渡請求の対象としたい株式が譲渡制限株式でない場合には,これを変更する必要があります。既存株式すべてを譲渡制限株式とする場合に必要とされる定款変更(会社法107条2項1号)は,株主総会の特殊決議が要求されます(会社法309条3項1号)。種類株式発行会社において,一部の種類株式について譲渡制限株式とするためには,定款変更のための株主総会特別決議(会社法108条2項4号,会社法309条2項11号)およびその種類株主を構成員とする種類株主総会の特殊決議が要求されます(会社法111条2項,会社法324条3項1号)。

(2)メリット

 会社と株主の合意を必要とせず,会社の意思のみで相続人等の株式を買い受けることができます。

 定款の定めは,相続が発生した後に定めることができますので,株主として好ましくない者に株式が相続された場合に,定款変更の手続を経て,その定款の定めに基づいて売渡し請求の決議を行うことで,会社は強制的に株式を買い取ることが可能になります。

 他の株式から売主追加請求を受けることもありません。

(3)デメリット

 会社による買受けができるのは譲渡制限株式のみです。そして,既存の株式を譲渡制限株式に変更する要件はその株式を有する株主総会の特殊決議になりますから,その変更のハードルは極めて高いといえます。そして,既存の株式を譲渡制限株式に変更を行う定款変更をする場合に,反対株主には株式買取請求権が認められています(会社法116条1項1号2号)。

 会社による売渡し請求は,会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に行う必要があります(会社法176条1項ただし書)。

 オーナー社長自身が死亡した場合にも適用があり,また,売渡し請求を受ける者は売渡し決議の株主総会において議決権を行使することができませんから,オーナー社長の相続人以外の他の株主が株主総会決議により売渡し請求が行われるおそれがあります。

 そこで,オーナー社長の株式については相続が発生しても売渡請求を排除する定款の定めを置くことも考えられます。

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