こんにちは、東京港区の公認会計士 森 滋昭です。
平成23年度税制改正のうち、先送りされた抜本改正部分のうち、相続税・贈与税についてみていきます。
まず、平成23年度税制改正は、【平成23年度税制改正】 -税制改正の経緯 -で書いたように、
平成22年12月の税制大綱(当初の税制改正案)のうち、
・抜本改正の部分 ⇒ 先送りされ、
・残りの部分 ⇒ 平成23年度税制改正として成立
しました。
今回、平成23年度税制改正として成立した相続税・贈与税は、
・相続税の連帯納付義務
のような、手続き的なものだけでした。
しかし、今回、先送りされた改正案は、相続税・贈与税を大きく変える案となっています。
1.相続税の基礎控除の引下げ
相続税の、基礎控除が引下げられています。
改正前 改正後
定額控除: 5,000万円 ⇒ 3,000万円
比例控除: 1,000万円 ⇒ 600万円 (法定相続人一人当たりの控除額)
この改正案により、多くの方が相続税の対象となる可能性がある、重要な改正です。
例えば、基礎控除の引下げにより、1億円くらいの遺産総額でも、相続税がかかる可能性があります。
”遺産総額1億円”といっても、都内に昔から住んでいる方などは、地価が高いために、すぐに1億円となってしまいます。
もちろん小規模宅地の特例などにより、相続税はかからないケースも多いです。
いずれにせよ、今までは相続税がかからなかった方も、一度、相続税の検討をしていた方が安心だと思われます。
2.相続税の税率構造の見直し
相続税の税率の区分や、税率が見直されました。
現行 改正案
税率の区分: 6段階 ⇒ 8段階
最高税率: 50% ⇒ 55%となります。
一見、最高税率が引き上げられ、金持ちへの相続税の増税に見えるかもしれません。
しかし、各相続人の相続財産※ が、2~3億円の場合の税率も、40%から45%へ引き上げられています。
実際には大金持ちよりも、このような中間層の方が多いので、中間層への影響が大きい改正ではないでしょうか。
※ 正確には、法定相続分に応じた取得金額になります
3.死亡保険金に係る非課税限度額
500万円に乗ずる法定相続人数が、
・未成年者等
・被相続人と生計を一にしていた者
に限定されました。
死亡保険金の非課税枠が、「被相続人と生計を一にしていた者」、つまり、亡くなった方と一緒に暮らしていた人に限定されると、事実上、死亡保険金の受取人は配偶者だけとなります。
(通常、相続時には子供は成人して独立しているので、「未成年者」にも「生計を一にしていた者」にも該当しません)
この改正は、保険を使った節税には、結構、厳しい改正ですね。
4.贈与税の税率構造の緩和
贈与税の税率を
1) 20歳以上の者が、直系尊属から贈与を受けた場合の軽減税率
2) 上記1) 以外の、贈与税の税率
に分かれました。
いずれも最高税率は50%から55%に引き上げられました。
しかし、1) の「20歳以上の者の、直系尊属からの贈与」、つまり親から成人した子供への贈与は、大体500万円以上の贈与が、従来より軽減されています。
相続税が厳しくなってきているので、生前贈与が、有効な相続税対策となってきますね。
5.贈与税の相続時精算課税の範囲拡大
1) 受贈者の範囲に、20歳以上の孫を追加 (現行は、推定相続人のみ)
2) 贈与者の年齢要件を、60歳以上に引き下げ (現行は、65歳以上)
今回、相続時精算課税の対象に、孫が加えられました。
しかし現実的に、普通の家庭で孫に直接贈与することは、あまりないのではないかと思います。
そう考えると、あまりこの改正は使われないかもしれません。
6.最後に
今回の改正案では、”お金持ち”ではない、”普通の家庭”でも相続税の対象となる方が増えてきます。
今まで、あまり相続税を考えたことがない方も多いと思います。
相続税は、その仕組み自体が複雑ですし、特例などによる軽減も多い、難しい税法です。
また、各家庭の状況、例えば、
・何人の子供がいるか
・親と一緒に住んでいるか
・親が事業をしているか
といった状況により、扱いが異なってくることも、相続税を難しくしています。
今まで見てきたように、今回の税制改正案では、相続税の対象となる方を増やす一方で、贈与税を軽減しています。
そのため、早い段階で一度財産を把握し、生前贈与の活用を検討していく必要があるのではないでしょうか。
ご自分で計算することが難しい場合は、一度、専門家にご相談されることも、一つの方法だと思います。
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このコラムの執筆専門家
- 森 滋昭
- (東京都 / 公認会計士・税理士)
- 森公認会計士事務所 公認会計士・税理士
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