(続き)・・次に重要視される要素として「気」「血」「水」の考え方があります。この気、血、水の3要素が体内を滞りなく循環することで、人体は健康を維持できると考えています。このうち「気」とは元気の気、気力の気ともいい、目に見えない生命エネルギーを意味し、精神活動や機能活動の原動力となるものです。一方「血」と「水」は兄弟のようなもので、いずれも身体を潤し、隅々に栄養や酸素を与え、老廃物を回収する体液を意味しています。このうち赤い色をしたものが「血」で、無色のものが「水」に相当します。
「血」および「水」は目に見える液体で血管やリンパ管を通りますが、「気」はエネルギーであり目に見えません。そこで仮想のルートとして「経絡」を通るとされています。経絡は肝や肺、腎など各内臓ごとに設定されており、生体エネルギーが流通する大切な通路です。この「気」「血」「水」の量に過不足があったり、「気」と「血・水」のバランスが崩れたり、あるいは局所に滞留することによって、様々な不具合が生じて病気の発症に至る、と説明されています。
生命力を意味する指標である「気」の異常には3つあります。一番目は気の量や勢いが不足している「気虚(ききょ)」、二番目は気の循環が停滞している「気鬱(きうつ)」、そして三番目は上半身から下半身にめぐるべき気が上方へ逆流する「気逆(きぎゃく)」です。気の流れを煙突に譬えると、家の中の火すなわちエネルギーが少ない状態が気虚、煙突が詰まって煙が外へうまく出ていかない状態が気鬱、煙突から煙が逆流して室内に充満してしまう状態が気逆、と表現することも可能です。
気虚の状態になると、生体はエネルギー不足に陥り、倦怠感や無気力、易疲労感、日中の眠気、食欲不振、風邪をひきやすい、体が冷える、などといった状態に陥ります。診察上は音声や眼光に力がなく、脈拍が弱く、腹筋が軟弱、低体温などの傾向があります。原因としては腎や肺など内臓の疲労や栄養失調などが挙げられます。治療の原則としては、気の産生促進、内臓の機能回復を図り、体を温めることなどがあります。
次に気鬱になると、気が滞っている場所に様々なトラブルが発生します。具体的には頭重感や喉のつかえ感、胸苦しさ、腹部膨満感、残尿感、抑うつ症状、朝の調子の悪さなどに見舞われます。診察上は抑うつ傾向がみられ、訴えがコロコロ変わる一方で執拗であり、腹部の張りがみられます。原因としては精神的ストレスや環境の変化、栄養バランスの乱れなどが挙げられます。治療の原則としては、気の流れを良くする、ストレスの緩和などがあります。
一方で気逆の状態に於いては、気の上半身への逆行によって消化管や気道などでの逆流現象を伴います。その結果、胃のむかつきや嘔吐、げっぷ、せき込み、足の冷え、のぼせ感、動悸、発作性の頭痛、物事に驚きやすい、などといった症状に襲われます。診察所見としては、四肢の冷感、顔面紅潮、多汗などが認められます。原因としてはストレスや刺激の多い食事内容などが挙げられ、治療の原則はストレスを緩和し安静な環境を保つことなどがあります・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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